(69)星の妖精アステリアと深淵魔法の真相
本日、1日に複数回投稿します! 物語は魔法学園へ。どうぞお付き合いください。
俺たちは村の中央にある石造りの集会所へと向かった。木製の扉を開けると、簡素ながらも広々とした空間が広がっている。中央に大きな楕円のテーブルがあり、その周りに椅子が並んでいた。壁には村の歴史を描いた絵や、飾り布が掛けられている。
ロザリンダはすでにそこで待っていた。彼女の前には分厚い古文書が何冊も積まれている。エレノアとケイン、ルーク、サイモンの三人が持ち帰った書物も、テーブルの上に広げられていた。
「皆さん、お座りください」
ロザリンダの穏やかな声で、俺たちはテーブルを囲むように席に着いた。エレノアの横には三人の弟子たちが陣取り、俺の隣にはリリアとミュウが座った。
「エレノア」ロザリンダが優しく促した。「王都の図書館で見つけたことを、みんなに教えてくれるかしら?」
エレノアは少し緊張した様子で頷き、背筋を伸ばした。三人の弟子たちが彼女を見守る。特にサイモンは、紙とペンを手に、エレノアの言葉を記録する構えを見せている。
「私たちは王都の図書館で、クラリーチェの持つ深淵魔法について調査してきました」
エレノアの声は落ち着いていたが、その眼差しには強い決意が宿っていた。
「クラリーチェは父と母を殺した張本人。あの日の魔獣を操り、王宮を襲わせたのは彼女です。それを知った今、私はもっと強くなって、自分の手で彼女を倒し、奪われた王位を取り戻したいと思っています。王宮では力こそが全て……たとえ黒幕がクラリーチェだと市民に広めたところで、揉み消されるに決まっています。王位は力で勝ち取らなければならないのです」
「お姉様......」リリアが心配そうに呟いた。
「でも、現状では彼女の力は私たちの比ではありません」エレノアは続けた。「特に彼女の持つ深淵魔法は、私たちの魔力を圧倒しています」
彼女は一瞬、俺の方を見た。その視線には、複雑な感情が混ざり合っていた。
「確かに武流の力に頼れば、クラリーチェに勝てるかもしれません。でも......それでは納得できないのです。これは私自身の戦いであり、私の両親の仇を取るのは私の義務です」
そう言うエレノアの瞳に、強い意志の光が宿っていた。俺は内心で苦笑した。エレノアのプライドは今も健在だ。彼女はきっと、俺に助けを借りたくないのだろう。そして、いつか俺を跪かせるという野望も、まだ捨ててはいないはずだ。
「ボクも一緒に戦うよ」リリアが真剣な表情で言った。「ボクもクラリーチェのこと、許せない。ボクももう一度魔法姫になりたい。魔力を取り戻して、お姉様と一緒に戦いたい」
彼女の声には強い願いが込められていた。あの純粋無垢なリリアも、憎しみと復讐心を持っているのだと知り、俺は少し胸が痛んだ。
「わたくしも二人の力になりたいのです」ミュウも静かに言った。「わたくしの風の魔法だけでは弱いかもしれませんが、エレノア様とリリア様のためなら、全力で戦うのです」
「そして、エレノア様の剣となるのは我々です!」ケインが突然立ち上がり、胸を叩いた。「エレノア様の勝利のために、私のこの肉体を捧げます!」
「私の美しさと技術も、すべてエレノア様のために」ルークも優雅に言った。
「私の知識と分析力も、エレノア様のご武勲のために尽くします」サイモンも眼鏡を光らせながら言った。
「もう、余計なことしないでって言ってるでしょう!」エレノアは三人を一喝した後、再び話を続けた。
「図書館で調べた結果、深淵魔法の使い手はごく一部しかいないことがわかりました。その力を得るには、『星の妖精』と契約を交わす必要があるのです」
「星の妖精?」俺は思わず声を上げた。
「確かに、魔法少女といえば妖精だ」俺は言った。「俺の世界の魔法少女の物語では、妖精から変身する力を授かるのがお決まりのパターンだった」
エレノアたちは少し不思議そうに俺を見た。
「この世界では、星の祝福を受けた者は変身できるのは一般的よ」エレノアが言った。「でも確かに...深淵魔法を使うクラリーチェには黒いカラスの妖精がいたわね。クラリーチェの肩にいた『ディブロット』という妖精」
「なるほど」ロザリンダが頷いた。「私も昔から、魔法少女と妖精の関係について疑問に思っていました。普通の魔法少女は星の祝福だけで変身できますが、深淵魔法の使い手は妖精との契約が必要なのですね」
「ところで」リリアが首を傾げた。「その妖精はどこにいるの? どうすれば契約できるの?」
エレノアは少し困ったように唇を噛んだ。
「スターフェリアの歴史には、妖精たちについての記録はあるの。でも、現在どこにいるのか、確かな情報は見つからなかった」
サイモンが眼鏡を押し上げながら言った。「私たちも妖精を見たことはありません。『深淵』の力を持つ妖精は、非常に珍しい特別な存在なのでしょう」
この話の流れを聞いていたロザリンダが、静かに立ち上がった。彼女は積み上げられた古文書の中から一冊を取り出し、ゆっくりとページをめくる。
「実は私も、同じことを調べていたのです」
彼女の声には、どこかかすれたような感情が混じっていた。
「リリアのために……一度純潔を奪われた魔法少女が再び力を取り戻し、変身できるようになった事例を探していました」
リリアの顔が一瞬で明るくなる。「見つかったの?」
ロザリンダはうなずいた。「はい。非常に珍しいケースですが、一人だけそういう魔法少女が、百年以上前にいたことがわかりました」
「本当に!?」
リリアは椅子から飛び上がり、ロザリンダの手元の古文書に駆け寄った。俺も思わずその本を覗き込んだ。茶色く変色した羊皮紙に、古代文字のような不思議な文字が書かれている。その間に、小さな挿絵があった。星空の下で、光に包まれた女性の姿。そしてその傍らに小さな影。
「この記録によれば」ロザリンダは静かに説明した。「百年以上前、深淵魔法を司る妖精がいて、それと契約を交わした魔法少女が存在したのです。彼女は一度純潔を奪われていたにもかかわらず、その妖精との契約によって再び変身する力を得たと書かれています」
「それってつまり」リリアの声が震えた。「その妖精の力があれば、ボクも再び魔法姫になれるかもしれないってこと?」
「その可能性はあります」ロザリンダは微笑んだ。「しかも、深淵魔法も使えるようになるようです」
「すごい!」リリアは両手を胸の前で握りしめ、目を輝かせた。「ボク、またお姉様と一緒に戦えるんだ! しかも、クラリーチェと同じ深淵魔法で!」
「けど……」エレノアが冷静に言った。「その妖精がどこにいるのか、どうやって探すのか……それが問題ね」
ロザリンダは古文書の最後のページをゆっくりと開いた。
「この記録の最後に、その妖精の名前が書かれています」
全員の息が止まった。
集会所の空気が一瞬凍りついたかのようだった。
「純潔を奪われた魔法少女に、再び変身する力をもたらす……その妖精の名は......」
ロザリンダの指が古い羊皮紙の上をたどる。そこには、古代文字で一つの名前が書かれていた。
「アステリア」
その名を聞いた瞬間、何とも言えない感覚が部屋を満たした。まるで星々が瞬いたかのような、神秘的な空気。窓から差し込む光が一瞬、きらめいたように感じた。
「アステリア......」リリアが夢見るように名前を繰り返した。「深淵魔法の妖精......」
「アステリアという名前は」サイモンが知識を披露するように言った。「古代スターフェリア語で『星の支配者』という意味です。非常に希少な妖精であり、伝説では、星の流れそのものを操ることができると言われています」
「星の支配者......」エレノアも静かに呟いた。「クラリーチェのディブロットよりも、さらに強い力を持つ妖精かもしれないわね」
「では、このアステリアを探せばいいのね?」リリアの目は期待で輝いていた。
「でも、どこにいるのでしょうなのです?」ミュウの猫耳が首を傾げるように動いた。
ロザリンダは少し困ったように唇を噛んだ。
「そこまでは、この古文書には書かれていませんでした」
「探し方すらわからないのか......」俺は少し落胆した声で言った。
「ええ。ですが、希望はあります。アステリアと契約した百年以上前の魔法少女がどんな人物だったのか。その記述があります」
「なるほど、確かに……」俺は古文書の記述を見つめた。
「そこから辿れば、何か手掛かりが得られるかも……」
その時、集会所の窓から見える空が突然暗くなった。雲が太陽を覆ったのだろうか。全員が窓の方を見る。
しかし、空には雲一つない。それなのに、どこからか不思議な影が村全体を覆っているかのように見えた。
「なんだ?」俺は立ち上がり、窓に近づいた。
その時、遠くから悲鳴が聞こえた。村の入り口の方から、人々が慌てて走ってくるのが見える。
「何かが来たのです!」ミュウの猫耳が警戒で真っ直ぐに立った。
「皆さん、危険です!」ケインが立ち上がり、エレノアの前に立ちはだかった。ルークとサイモンも彼女を守るように前に出る。
俺はブレイサーに手をかけた。アポロナイトへの変身の準備をしながら、腹の底から湧き上がる不安を感じていた。
この影......まさか、クラリーチェが......?
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