(67)白銀の猫耳、魂の証明★
このエピソードは、『番外編●白銀の猫耳と花畑の王女様』をお読みいただくと、より深くお楽しみいただけます。
ミュウも危険を感じたのか、風の壁を作り始める。しかし、疲労で魔力が弱まっているようだった。
「ミュウ! 危険だ! 下がれ!」俺は蒼光剣を抜き、魔獣に向かって突進しようとした。
「だめです、武流様!」ミュウの声が響く。「これはわたくしの戦いなのです......わたくしが、終わらせます!」
ミュウは最後の力を振り絞るように、杖を高く掲げた。
「フェリス族の先祖よ......わたくしに力を......」
彼女の周りに、緑の光と共に無数の風の渦が生まれる。魔獣の体はさらに膨張し、爆発寸前のようだった。
「ミュウちゃん......」リリアが祈るように呟く。
「エメラルド・ハリケーン!」
ミュウの全魔力を込めた渦が魔獣を包み込む。緑の風の壁が厚くなり、魔獣の姿が見えなくなる。そして――
轟音と共に、風の渦の中で何かが爆発した。
爆発の衝撃で辺り一帯が揺れた。緑の風の渦がさらに激しく回転し、農場の作物が飛ばされる。ミュウはその風の中心で、杖を掲げたまま必死に魔獣の爆発を封じ込めようとしていた。
「ミュウちゃん!」リリアが叫ぶ。
「もう限界だ!」俺は剣を構える。「蒼光盾!」
蒼光剣から青白い光が広がり、俺とリリアの前に防壁が形成される。その直後、風の渦が崩壊し、爆風が四方に広がった。
「うわっ!」リリアが俺に抱きつく。
爆風が収まると――そこには、膝をついたミュウの姿があった。緑色の魔法衣装は少し汚れていたが、彼女自身は無事だった。魔獣の姿はなく、地面には紫色の灰が散乱していた。
「ミュウ!」
俺たちは急いで彼女の元へと駆け寄った。ミュウは息を荒げていたが、怪我はなさそうだった。ただ魔力を使い果たしたような疲労感だけが彼女を襲っていた。
「わたくし......やりました......か?」彼女は弱々しく尋ねた。
「うん、やったよ!」リリアが涙ながらに言った。「ミュウちゃん、すっごく強かった!」
「魔獣は完全に消滅した」俺も確認した。「お前は村を救ったんだ、ミュウ」
ミュウの顔に、かすかな微笑みが浮かぶ。
「よかった......のです......」
そう言って、彼女は深呼吸した。魔力を使い果たしたせいか、少し顔色が悪いものの、立ち上がれないほどではなかった。白銀の猫耳がピクピクと動き、彼女がしっかりしていることを示している。
「大丈夫? 立てる?」俺は心配そうに尋ねた。
「はい......少し疲れただけなのです」
ミュウはゆっくりと立ち上がった。リリアが彼女を支える。
「村に戻ろう」リリアが提案した。「ミュウちゃん、少し休んだ方がいいよ」
俺たちは農場を後にし、村へと戻り始めた。道中、村人たちが不安そうな表情で家から顔を出している。
「大丈夫です!」リリアが村人たちに向かって叫んだ。「魔獣はもういません! ミュウちゃんが倒したんです!」
村人たちの表情が安堵に変わり、喜びの声が上がる。中には拍手する者もいた。
村の広場に戻ると、ミュウは水飲み場の石に腰掛けた。彼女は少し疲れている様子だったが、心は晴れやかそうだった。
「ミュウちゃん、本当にすごかったよ」リリアは再び称賛した。「ボク、あんな風に一人で魔獣と戦える日がまた来るかな……」
「きっと来るのです、リリア様」ミュウは優しく微笑んだ。「リリア様は本当に強い方なのですから」
俺は二人を見守りながら、さっきのミュウの戦いを思い返していた。あの小さな体に秘められた勇気と決意。フェリス族の誇りにかけて、自分の村を襲った魔獣と同じものに立ち向かう姿。俺の指導の成果以上に、彼女自身の強さに心を打たれた。
「武流様」
ミュウが俺を見上げた。
「ミュウ、無理に話さなくていい」俺は彼女の隣に座り、静かに言った。
「いいえ......武流様......聞いてほしいのです」
ミュウの声は少し疲れていたが、その瞳には確かな光があった。
「わたくしのフェリス族の集落が襲われた時......わたくしだけが逃げたのです。家族を......友達を......みんなを置いて」
彼女の白銀の猫耳が悲しげに震える。
「ずっと......自分が弱かったことを責めてきました。何の役にも立てなかった自分を」
「ミュウちゃん......」リリアが悲しそうな表情で傍に寄り添う。
「でも、今日......わたくしは戦えたのです」ミュウの目に涙が光った。「武流様の教えのおかげで......リリア様とエレノア様の励ましのおかげで......わたくしは、フェリス族の名を汚さずに済んだのです」
彼女の言葉には、深い感謝と満足感が込められていた。
「お前は今日、本当に勇敢だった」俺は真摯に言った。「他の誰でもなく、お前自身の力で勝ったんだ。フェリス族は誇りに思うだろう」
「ボクも感動したよ」リリアも嬉しそうに言った。「ミュウちゃんのアルティメット技、すごかった!」
ミュウの頬が少し赤くなった。
「実は......アルティメット技、最近練習したものなのです。武流様との特訓の後、こっそりと......」
「そうだったのか」俺は笑った。「それで毎朝早く起きていたんだな」
「は、はい......」ミュウはますます恥ずかしそうにした。「王宮での敗北の後、わたくしももっと強くならねばと思って......」
「ミュウ、今日の話は村中に広まるだろうな」俺は嬉しそうに言った。「『白銀の猫耳の勇者』……いい響きだ」
「え? そ、そんな......畏れ多いのです」ミュウの猫耳が恥ずかしさで左右に揺れる。
「いいじゃない!」リリアも調子を合わせた。「ミュウちゃんは本物のヒーローだよ!」
「そ、そんな大げさなのです......」
「武流」リリアが突然思い出したように言った。「お姉様たち、もうすぐ帰ってくるよね?」
「ああ、図書館の調査も終わっているはずだ」俺は太陽の位置を確認した。「そろそろ村に戻ってくる頃だな」
「早く会いたいのです」ミュウも元気を取り戻しつつあった。「エレノア様の調査、どんな成果があったのでしょうか」
「王宮での敗北からの復活のヒントになるといいな」リリアの声には希望が混ざっていた。
「村の入り口へ行ってみよう」俺は二人を促した。「エレノアにも、今日の魔獣退治の話もしないとな」
「武流様!」ミュウが少し恥ずかしそうに言った。「そ、そんなに大げさに話さなくてもいいのです......」
「いや、皆に伝えるべきだ」俺は真剣に言った。「ミュウが見せてくれた勇気と強さは、他の模範となる」
「そうだよ!」リリアも元気よく頷いた。「ミュウちゃんのことを、もっとみんなに知ってもらいたい!」
ミュウの白銀の猫耳が嬉しさでピクピクと動いた。彼女の尻尾も小刻みに揺れている。その姿は、かつて花畑で初めて出会った怯えた少女の姿とは大きく違っていた。リリアとの出会い、エレノアとの共同生活、そして俺との特訓――これらすべてが彼女を強く、勇敢な魔法少女へと成長させたのだろう。
俺たちは村の広場から家々の並ぶ通りを歩き始めた。
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