貴女が幸せであることを願う
大学四年生の後期にもなると、必要な単位は取れていて、単位数だけで言えば卒業出来る。
後は卒業論文が残っており、これを提出すれば終わりだ。
これから卒業まで、各研究室で開かれる勉強会と自分の研究のために登校するのみとなった。
研究室が違う綾とは、今までが嘘のように会うことは無くなった。
就職活動も終盤戦になり、私は運良く希望する企業から内定を貰うことが出来ていた。
サークルはやめてしまった。
残り少ない大学生活は、煩わしい何もかもから離れていたかった。
綾と決別したあの日から二ヶ月もたった頃、趣味仲間の円が偶々見掛けたからと、綾の様子を教えてくれた。
貴也と別れた綾は、迷惑をかけた人達に今までのことを謝っていたそうだ。
謝られていた人達は、最初困惑していたが、綾のこれまでにない行動に態度を軟化させ、最近は一緒に行動していて楽しそうだったと。
偶々見掛けたと円は言っていたが、きっと私が気にしているだろうと、綾の様子をそれとなく見ていてくれたんだと思う。
本当に良い友達だとありがたく思う。
そして貴也は友人の層が変わり、こちらもあまり見掛けなくなった。
諒太と佳成は、実は同じ研究室だ。
諒太は、私のことを何故か『唯さん』から『姐さん』と呼ぶようになった。恥ずかしいからやめて欲しい。何度言ってもやめないので、今はもう諦めて、好きなように呼ばせている。
音だけ聞くと『姉さん』なのか『姐さん』なのかわからないが、あれは絶対に『姐さん』と呼んでいるに違いない。地味に嫌だ。
佳成は暫く気まずそうにしていたが、開き直ったのか、心の整理がついたのか、今では普通に話すようになっている。
例の後輩ちゃんの今については、知りたくもなかった。
しかし、サークルの元友人がねぇ知ってる?と、学食で大好きなメンチカツを堪能していた私の目の前に座り、勝手に話し始めたことで知ることになった。
後輩ちゃんは貴也が別れたことを知って、猛アタックを開始し、回りが引く程だったそうだ。それを貴也はのらりくらりと逃げ回っていた。最近観念(?)した貴也は、後輩ちゃんと渋々付き合い始めた。
ところが後輩ちゃんが、恋人同士の、通常人に話さないようなことを吹聴し、身近な女性達を牽制し始めたため、貴也と喧嘩になり、今は物凄く険悪なのだとか。
別れるのも時間の問題じゃないかと話していた。
私はふんふんと適当な相づちを返して、彼女が立ち去るのを待ち、いなくなったらまたメンチカツを堪能した。
今期一番のいらない情報だった。
そして綾に一度も会うことなく、大学を卒業した。
~ 三年後 ~
円とは職場が近く、卒業から三年経った今でも定期的に会っている。大学四年間、ずっと仲良くしてきたし、何より趣味の合う大切な友人だ。近くにいられてとても嬉しい。
私と諒太は腐れ縁が続いているのか、入社一年目の同業種の集まりでばったり会った。
諒太もこの業界にいたのかと驚いたが、そういえば研究室が一緒なのだから、狙うところは近いものになるよなと納得する。
社会人三年目の今年、同業種の集まりで顔を合わせた諒太から、今度結婚するから結婚式に来て欲しいと誘いを受け、喜んで出席すると返事を返した。
私も来年籍を入れる予定だが、式は挙げないつもりなので、特に報告はしていない。
いつか話す機会があるだろう。
諒太の結婚式に綾も呼んだそうなので、本当に久しぶりに顔を合わせることになる。
元気にしているだろうか。
気にはなったが、連絡はしなかった。
そして諒太の結婚式当日、主役の諒太よりも綾が気になってそわそわしていた。
待合室で開場を待っていると、綾が静かに扉を開き、顔だけ出して中を伺っているのが見えた。
綾にこそっと近付き、何してんの?久しぶりと声をかけた。
綾はうわっと声を出して、慌てて口を押さえた。
顔を見合せ、笑い合う。
久しぶり。あれからどうしてた?元気だった?今なにしてるの?どこに住んでるの?
たくさん聞きたいことがあったけど、今の綾の顔を見ると幸せなのだとわかる。
綾は大丈夫だ。何も聞かなくても大丈夫。
綾も近いうちに、職場の先輩と結婚するのだそうだ。幸せそうで良かった。
私も来年籍を入れる予定だと報告する。
お互いに、今幸せだよ、安心して。と言葉にせずに伝え合う。
そして諒太の式が終わると、綾は明日も仕事だからと帰って行った。
それから半年後、綾から『入籍しました』と短いメッセージが送られてきた。
おめでとうと、私は一言返した。
それからさらに半年後、学生の時から付き合っていた人と私は入籍した。
綾には、入籍しました。とだけメッセージを送った。
綾からは、『幸せになって』と一言返ってきた。
これで本当に綾とは終わった。
綾との思い出は、決して楽しいことばかりでは無かったが、人の記憶とは良く出来ているもので、苦しかった記憶程、早く薄らいでいくように出来ているらしい。そして、よく思い出すのは入学したばかりの一番多感な時期に仲良くなった私達。
いつも一緒だった私達は、いろんな話をして、笑って、きらきらしていた。
あの頃のような友人はもう二度と持てないのだろう。
そして今は、離れてしまったかつての友人の幸せを願っている。
ー 了 ー
なんとか完結させることができました。
全体的に暗めの話でしたが、最後までお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
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