夜明け前 2
綾はいらないのにと言いながら、アップルティーを口にした。
一口飲むと、はっとしたように一瞬動きが止まり、今度はそのまま一息に飲み干した。
そんな綾の様子を見ていると、胸が苦しくなった。
綾はいつから何も飲んでないんだろう。もしかしたら、ご飯も食べていないのかもしれない。
そんなことを考えていると、綾が堰を切ったように泣いて謝り始めた。
「唯、ごめん!ごめんなさい!」
「私、唯のこと悪く言った。あんなにたくさん聞いてもらったのに。側にいてくれたのに。なのに、何か足りないって思ってしまって、ちやほやしてくれる、甘やかしてくれる人の方に行っちゃった。」
「そんなことしたら、唯が離れていってしまうってわかってたのに。自分を止められなかった!」
「唯、ごめん。許して…」
綾の言葉に、あの時傷ついた私の心が少しだけ救われた気がした。
綾は、あの時まだ不安定で、自分を止められなかったんだ。そして、私以外の自分を認めてくれる誰かを、求めていただけなんだな。
そう思った。
ああ、今、長い長い夜が明けようとしている。
「私ね、傷ついたし、辛かったよ。それで、とっても疲れちゃった。元々怒ってないよ。今も怒ってない。ただ、すごく疲れちゃって、心が元に戻らない。」
「どういう意味?もう私と一緒にいるのは嫌?もう友達には戻れない?」
泣きながら綾が尋ねる。
私の心は不思議なほど静かだった。
「たくさんエネルギーを使ったからね。もう元には戻れないかな。」
「なら、どうして今側にいてくれるの?」
「私にもよくわからない。今、そうしたいから、かな。」
綾のすすり泣く声を聞きながら、お腹空いたなと ふと 思った。
東の空が白み始め、もうすぐ朝だ、とカラスがどこかで鳴いている声が聞こえる。
「綾、お腹すいたね。ご飯食べに行こう。」
綾がびっくりしたように顔を上げた。
急に何を言っているんだ、という顔をしている。
ややあって、綾が頷いた。
「うん。お腹空いた。」
「じゃあ、行こう。」
私は、もだもだしている綾の手を取り、階段の上へと引っ張った。




