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第87話

 ナジューラの街がクリーチャーの軍勢に囲まれているとアリババから聞いたアルディア達。一同は、クリーチャーの軍勢を迎え撃つため、早速戦える者達を集める事とした。

 アリババは街から戦えそうな者達を募るものの、多分足りないと判断。シャフリヤールという者の力を借りることを口にした。

 シャフリヤールに頼むため、早速シャフリヤール邸へと向かったアルディア達。中へ案内されたアルディア達は、シャフリヤールの部屋へと連れて行かれたのであった。


 ――――シャフリヤール邸・シャフリヤールの部屋

「失礼します」

 警備兵はそう言うと、シャフリヤールの部屋の扉を開く。

 そしてそのまま、部屋の中へと入っていった。

 警備兵に続き、アルディア達も部屋の中へと入っていった。

 部屋の中には、彫りの深い顔をした、黒髪の中年男性が一名、椅子に座っていた。

 男性の髪はターバンに覆われてはいるものの、ターバンの外に出ている髪の毛の量から見た目の年齢の割に非常に毛量が多い事がわかる。更には、男性の黒い髭はもみあげにもつながっており、それも相まって非常に毛深い印象を与えた。

 アルディア達が部屋に入ると、男性はその黒い瞳で一同を見る。そして、モルジアナの姿を確認するやいなや、椅子から立ち上がると、

「おお、モルジアナ。よく来てくれた」

 と、両手を大きく広げた。

 だが、モルジアナは顔を横に向け、男性から視線を逸らす。

 そしてそんなモルジアナと男性の間に割って入るかのように、アリババは、

「朝早くから悪い、シャフリヤール」

 と男性に声をかけた。

 アリババがそう言うと、シャフリヤールと呼ばれた中年の男性は、先ほどまでの笑顔から一変、露骨に不機嫌そうな表情を浮かべると、

「本当に、早朝から何のようだ。儂は忙しいのだぞ」

 と、態度を一変させ、アリババにそう言う。

「そこは悪いと思ってる。だが、急を要する案件なんだ!」

 不機嫌そうに、不快そうにアリババに話しかけるシャフリヤールに対し、焦った口調でシャフリヤールにそう言うアリババ。

 だが、シャフリヤールは

「急を要する案件? どうせ商品同士の大喧嘩が収集がつかない程度の話だろう?」

 と、変わらず面倒くさそうな態度でそう答えた。

「違ぇよ! そんな程度の話じゃない!」

 面倒くさそうな態度で適当に答えるシャフリヤールに、アリババは一段声を大きくしてシャフリヤールに詰め寄った。

「じゃあ何だ?」

 そんなアリババに、今度は鬱陶しそうな様子でそう言うシャフリヤール。

 アリババは変わらず焦った様子で、

「今朝、突然ナジューラの街がクリーチャーの軍勢に囲まれていた。ここに居る旅の方たちの予想では恐らく四柱帝の軍勢らしい。だから、迎え撃つために兵を出してほしい」

 と、事情と出兵の依頼をした。

 アリババの事情を聞いたシャフリヤールは、

「ほぉ、クリーチャーの軍勢……」

 と言うと、顎髭を撫でる。

 すると、今度はアリババの横からザフィーアが一歩前に出ると、

「お初お目にかかります。ルベンの町議、ザフィーアと申します」

 と、挨拶と自己紹介をした。

「ご丁寧にどうも」

 ザフィーアの自己紹介に、軽く返答をするシャフリヤール。

 そして続けて、

「それで、突然横から入ってきたルベンの町議さんが、一体何の用ですかな?」

 と、ザフィーアに尋ねた。

「突然失礼。先のアリババ殿の件、私からもお願いをしたく、申し出ました」

 面倒くさそうな態度のシャフリヤールに、ザフィーアは冷静に、協力の申し出をした。

「成る程。その小市民の申し出に貴公も乗られる、と」

 ザフィーアが協力の申し出をすると、シャフリヤールは顎髭を撫でながらそう答えた。

 そして続けて、

「して、貴公もその小市民が言うとおり、街を囲っているのは四柱帝の軍勢と仰るのですかな?」

 とザフィーアに尋ねた。

 ザフィーアは、

「(小市民……)」

 とアリババの事を指すシャフリヤールの言葉に、引っかかりながらも

「我々の体験からではありますが、恐らく……」

 とシャフリヤールに答えた。

「成る程」

 ザフィーアの回答に、シャフリヤールは一言、そう呟く。

「わかっただろ!? だから、迎え撃つ為に兵を出してくれ!」

 ザフィーアとシャフリヤールのやりとりの後、アリババは改めてシャフリヤールに協力の申し出をした。

 シャフリヤールは腕を組み、ふーっ、と息をすると、アルディア達を案内した警備兵に、

「全兵に指示を出せ。この館の中及び周辺を、厳重警護しろ、と」

 と指示を出した。

「「「「え!?」」」」

 シャフリヤールの指示に、思わず言葉を出し唖然とした表情を浮かべるアルディア、エスメラルダ、ルービィ、アリババ。

 一方で、ザフィーアとモルジアナは、薄々何かを感じていたのか、無言のまま、やっぱりか、と言わんばかりの表情を浮かべていた。

「おい、何で館の警護指示を出してんだよ!」

 シャフリヤールの指示に、驚きの後、詰め寄るようにシャフリヤールに近づき尋ねるアリババ。

 だが、シャフリヤールは

「何か問題でもあるのか?」

 とアリババに尋ね返した。

「いやいや、俺は迎え撃つために兵を出してくれと頼んだんだよ! なのに何で、街を守るための出兵じゃなくて、館の警護を指示してるんだよ」

「そりゃあ、儂を守る為に決まっているだろう」

「なっ……!」

 はっきりと答えるシャフリヤールに、言葉を詰まらせるアリババ。

 だが、シャフリヤールはそんなアリババの様子に気に留めることもなく、言葉を続けた。

「例え貴様らが応戦したとして、奴らがナジューラの街に入ってこない保証はあるのか? もし、街に奴らが入ってきて、儂の身に万が一のことがあったらどうする?」

「どうするって……そんなの、シャフリヤールに限った話じゃないだろう」

「貴様! 儂と貴様ら小市民の価値が同等だと言いたいのか!?」

 アリババの言葉に激怒したシャフリヤールは、声を荒げそう返す。

「なっ! どういう意味だよ……」

 シャフリヤールの言葉に、カチンときたアリババは、先ほどよりも低い声でシャフリヤールに聞き返す。

 そして、先ほどのシャフリヤールの言葉を聞いたザフィーアも、横から、

「失礼。今の言葉、私もご説明を願いたいですね」

 とシャフリヤールに尋ねた。

 アリババとザフィーアに詰められたシャフリヤールは、面倒くさそうに顎髭を撫でながら、

「言葉通りだ。ただの小市民の貴様らと、他大陸との交易をやっている儂、どちらの命の価値が上か、考えるまでもないだろう?」

 と答えた。

 そして続けて

「もし、そんな儂がやられたら、貴様、街が無事でもナジューラはどうなると思っている?」

 とアリババに尋ね返した。

「そりゃ……。でも、ナジューラさえ守れば、再建はできるだろう?」

「再建できる? ナジューラの街の中しか知らない貴様が、何を根拠にそう言う?」

「それは……皆で何か知恵を絞り出せば……」

「知恵を絞り出せば再建できる? 貴様ら小市民の知恵で他大陸と、聖都と、あの悪名高きルクレツィアと渡り合えると?」

「それは……」

 シャフリヤールに詰められ、言葉を詰まらせるアリババ。

 だが、シャフリヤールはそんなアリババの様子に一切気に留める事もなく、更に言葉を投げかけ、詰め寄った。

「いや、ルクレツィアはまだいい。あれは所詮、世襲で教皇になった小娘に過ぎん。だが、エゼキエルは違うぞ! あれは食えん男だからな。あの老獪なエゼキエル相手に、貴様ごときで渡り合えるというのか?」

「聖都とのやりとりでは、エゼキエル卿が決定権を握っているのですか?」

 アリババに詰め寄るシャフリヤールに、横からそう尋ねたのはザフィーアであった。

 ザフィーアがシャフリヤールに尋ねると、シャフリヤールは鼻で笑うと、

「はっ! ルベンの町議殿は、聖都の内情をご存知ないようですな」

 とザフィーアに返した。

 そして続けて、

「確かに聖都での最終決定権は、教皇であるルクレツィアだ。だが、ルクレツィアは支配、戦争にこそ興味はあれど、経済や内政などといったことは一切興味はない。だから、そういった事は全て、側近である枢機卿のエゼキエルが実質の決定権者だ。だからこそ、聖都での交易においてはエゼキエルこそが鍵なのだよ」

 と、ザフィーアに説明をした。

「そうですか。ご教示いただきありがとうございます。勉強になりました」

 シャフリヤールの説明に、ザフィーアは淡々とそう礼を言う。

 一方、シャフリヤールはというと、そんなザフィーアに反応することなくザフィーアからアリババに視線を移すと、

「貴様、儂がいなくて聖都との交易が成立すると? まだそう言うつもりか?」

 と、再びアリババに詰め寄った。

「……」

 シャフリヤールに詰め寄られたアリババは、言葉を詰まらせる。

 するとそんなアリババの横から、

「もういい、アリ」

 そう言い姿を現したのは、モルジアナであった。

「モル……でも……」

 横から姿を現すモルジアナに、言葉を詰まらせながらそう言うアリババ。

 だが、モルジアナは

「こいつに何を言っても無駄。色々と理由をつけてるけど、自分の保身を考えているだけ。兵を出すなんて期待するだけ無駄」

 と、淡々とアリババに言った。

 そんなモルジアナの言動を聞いたシャフリヤールは、

「酷い言いようじゃないか、モルジアナ」

 と、にやりと笑みを浮かべそうモルジアナに言う。

「酷い? 事実を言っただけ」

 モルジアナはシャフリヤールにそう言うと目を細め、睨み付けた。

 そんなモルジアナを見たシャフリヤールは、

「おぉ怖い。これは尚のこと、館を兵で固めなくてはな」

 と、肩をすくめながら、そう言った。

 そして続けて、再びモルジアナの方を向くと、

「どうだモルジアナ? 儂の館の中なら安全だぞ?」

 と、モルジアナを自身の館に誘う申し出をする。

 だが、モルジアナは、

「私は結構。戦えるから」

 そう言うとシャフリヤールに背を向けた。

 そして、アルディア達に、

「もう行こう」

 と言うと、部屋を後にしようとした。

 そんなモルジアナの様子に戸惑いつつも、アルディア達はモルジアナに続き、シャフリヤールの部屋を後にしようとする。

 部屋を出ようとすると、シャフリヤールはモルジアナに向かって、

「そうか、残念だ」

 と言葉をかける。

 そして続けて、

「モルジアナ、いつでも儂のところへ来るといい。儂は待って居るぞ。何、別に生娘でなくても、儂は構わんからな」

 と、にやりと笑みを浮かべた。

 そんなシャフリヤールの言葉に、反応を示すこともなく、背中を向けたまま歩みを進めるモルジアナ。

「(そういうところが、本当に気持ち悪い)」

 心の中で、小さくそう呟きながら……。

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