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龍と狼の事情  作者: 旅人


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1/8

剥がれた鱗

生い茂る森の奥、蔦が窓枠を這う古い木造の屋敷。

苔むした石畳の小道を抜けると、木の匂い――湿った土と、かすかに焦げたような龍の残り香が混じった甘い獣臭――が漂ってくる。

「何故!この時間に来るのだ!龍界は忙しいとお主はあれほど言っていただろうが!」

扉の向こうから、ウルカの声が尖って飛んでくる。

彼女の名はウルカ。

耳は狼のように尖り、尻尾は太く力強く、でも今は苛立ちを隠せずにピクピク震えている。

扉が少し開き、レイの姿が見える。

彼はまだ完全な人型ではなく、角の先が微かに光り、瞳に縦長の瞳孔が浮かんでいる。

「それはそうなんだけど…ウルカ、どうしてるかなって」

「私は一人でいい!出てけ!」

バンッと扉が閉まり、鍵の音が響く。

レイはため息をつきながら、持ってきた布袋を軽く振る。

中から、焼きたての肉の香りがふわりと広がった。

「……ウルカ。頼むよ、君の好きなお肉持ってきたからさ」

数秒の静寂。

扉の向こうで、耳がピンと立ち、鼻がひくつく音が聞こえた気がした。

ガチャリと鍵が外れ、扉がゆっくり開く。

ウルカの尻尾が、抑えきれずに左右に大きく振れている。

「何かようか?……茶菓子ならあちらにあるぞ。はいれ」

レイはくすっと笑い、人型に完全に姿を変えて中に入る。

(ちょろいな~。そんなところも可愛いけど)

屋敷の中は薄暗く、暖炉の残り火がぱちぱちと音を立てている。

古い木のテーブルに、ウルカが急いでスコーンと紅茶を並べる。

人型になった彼女の爪はまだ少し長く、無意識にテーブルの木目をカリカリと引っ掻いている。

レイが座ると、ウルカは隣に腰を下ろし、約束のお肉を渡す。

「んで?どうせ…いつもの悩み相談か?聞いてほしいのか?」

「違うよ。ここ最近はどう?」

ウルカは少し目を逸らし、尻尾の先で自分の足を軽く叩く。

「……そこそこだな。これ、土産に持って帰れ」

レイが袋を開けると、中は彼の好物ばかり。

「こんなにいいのか?僕の好物しか入ってないじゃん!」

ウルカは無言で立ち上がり、レイの隣をゆっくり歩く。

そして、そっと体を寄せ、肩から腕にかけて体を擦り付ける。

レイの匂いが彼女の毛皮に染み込むように、ゆっくりと。

レイは少し驚いた顔で彼女を見る。

「あと少しで仕事だろ?紅茶の茶葉とか、甘いもの入れといた」

「もうそんな時間なの!……また来るからね!」

レイは慌てて立ち上がり、扉へ向かう。

白い翼を広げ、外へ飛び立つと、青い鱗が一枚、床に落ちた。

ウルカはそれを見つめ、そっと拾い上げる。

レイの姿が森の木々の向こうに消えるまで、見送る。

その後、彼女は鱗を胸に抱き、自室の布団へ。

古い毛布にくるまり、鱗を鼻先に寄せて深く息を吸う。

そして、尖った犬歯で、優しく甘噛みする。

カリ……小さな音。

体を丸め、尻尾を自分の体に巻きつけるようにして。

喉の奥から、誰にも聞こえない小さな鳴き声が漏れた。

「……また、会いたいな」

人型の指で鱗を撫でながら、目を閉じる。

「何で素直に言えなかったんだろ……」

布団の中で、尻尾の先が寂しげに、ぱたぱたと動く。

屋敷に、再び静寂が戻った。

どうも、作者の旅人です。


新作『龍と狼の事情』の投稿を開始しました。

この作品は、毎週 月曜・木曜 に更新していく予定です。

明日から次の話を投稿致します。

どうぞ、ゆっくり読んでいってください。


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