マステマ
マステマの聖女育成機関時代
私には何もない。
知識も教養も芸も何もかも。
周りからは可愛ければ他はどうでもいいと思われている。それが恐ろしいほど悲しいのだ。
クリスお義父様が素晴らしければ素晴らしいほど自分の空虚さが際立ってきて、この世を憎みたくなる。
女王も、他の聖女候補生も、初めから全てを持っているのに、私たちはあのクリスお義父様のそばにいなければ居場所などないのに、それにふさわしい自分たちにはなれないということ、永遠に、絶対に。
どういう道を辿ったとして、神を憎むしかない運命にあるのだ。
元々マステマとカインは東の国で生まれた、東の国は極度の男尊女卑社会である。
そんな気風の場所において二人の母親は不貞を働いて産んだのだ。当然二人の居場所などはないし、むしろ命を狙われる立場ですらある。
とあるつてを借りて二人を国外へ逃がし、クリスに里親となってもらったのだ。
ある日学校の中庭で踊っている同級生がいた。
ちょうど今勉強している聖女の伝承の中に似たような女性の話が載っていた。
「あれはまさか火の聖女?本当にいたなんて…」
神に最も近く、強い精神力と忘却によりあらゆる試練を乗り越える力を持つ。
一目見て彼女が希少な素質を持つ人間であることを見抜いた。
「自分より優れた女性は要らない、恨みはないけど蹴落とさせてもらうわ」
マステマはラハブを陥れる依頼をカインに入れる。
女王を追い落とすなんて大仕事が成功したら、自分はクリスと縁を切らねばならないだろう。
だが、そこまでの悪女になれたならこの物語のキャラクターの一人に自分もなれる。
後先のことは考えない。
何もないただの女になど今さらなれはしないのだから。
マステマは背水の陣で自らのなりたい存在を目指していた。
たとえそれが避けられない破滅であっても。




