神の料理人
イツキさまが統合した影響で魚人たちは女神さまの配下になった。
すぐさま街から撤退させ、海へと帰した。
「アマテラスさまに今回のことを報告に行ってくるわ、それであなたもちょっとついてきて」
僕は溜息をする。
「神の仰せのままに」
たぶん僕は額にシワを寄せていただろう。
北斗に乗ってすぐに北上した。その距離実に1830キロだ。二つ返事で行くにはちょっと遠いのが分かってもらえるか?
イツキは少し悩んでいた、今回の事件の真相を彼に伝えるべきであろうか。
トヨウケヒメの話を聞いて全てが繋がった。
かの少年は元々両親と共にあの黒いタワーのそばに住んでいた。
あの木は戦争の道具でもあり、また少年の家の守り神でもあったのだ。
だが戦争が終わり、少し気が緩んだ時に夫に北斗が取り憑いて、呪いのために木に釘を打ち込んでいたのがローレライだったことが北斗にばれてしまう。
「ようやくみつけたぞ人間」
「とうとうみつかってしまいましたか」
人を呪わば穴二つ、覚悟はしていた。
大鵬王の脚力は特別製で体重に比例して俊敏になる、持久力もかなりあって鬼ごっこでもしようものなら一瞬で追いつかれる。ローレライもそれを知っていたので逃げる選択肢はなかった。
「イヌガミ!」
初めにローレライはイヌガミを取り憑かせた犬を呼び出し大鵬王にけしかけた。しかし瞬殺である。蹴飛ばしたイヌガミが他のイヌガミに当たって即死する場面が目立った。当然魚人たちが使っていたようなスキルをいくつも持ち合わせている。手刀を打てば首が飛び、両手の拳骨で頭を挟めば脳漿が爆散した。
「トヨウケさま!」
そしてローレライは自身の家が信仰しているトヨウケヒメに助けを求め、その祈りが届いてしまう。
「早く逃げなさい」
トヨウケヒメは大地に眠る金の気であるところの動物霊を1ヶ所に集め、北斗の木の根本に大きな地割れを誘発させる。金の気が持つ凝固、分裂、切断の力を全力で行使した。
「おおかみ」
地割れが北斗の木を呑み込もうとするが相当根が強く張っていたのか、完全には切れず、回復を許した。
むしろ逆に集めた動物霊を捕まえ、まとめて地下に幽閉してしまった。あとは解放される日まで永遠にエネルギーを吸わせる奴隷である。
トヨウケヒメもまた捕まえられ、神としての膨大なエネルギーを北斗に奪われる存在として存命させられることになった。
膨大なエネルギーの流入でかえって動きが鈍った大鵬王を尻目にローレライと少年は逃亡した。
夫婦とは、敵同士で一時的に協力関係を結ぶことに似ている、だから自分の感情と魂の意思が齟齬を起こすことがある。
逃げた先で死ぬよりも辛い孤独を味わうはめになっていた。元々毒親のいる実家を離れて夫を生き甲斐にして生き延びてきたのだ。
息子ではあの人の代わりにはならない。
胸をまるごと抉りとられたような喪失感にローレライは早々に音を上げた。
将軍である夫が遠征に出かけるたび、不安と寂しさでいつも狂いそうになっていたくらいである。
正気と狂気の間で自然と詩が紡がれる。
そのあと私は問いかける
見覚えのある輪郭は次第に呑み込まれていく
一人残された私は狂ってしまうでしょう
まだ暖かみのある……故人の魂は……
「見つけたぞ、女」
ローレライは生気の無い顔で振り返る、そこには龍に取り憑かれた愛しい人がいた。
目には憎悪がみなぎっている、瞬殺されるだろう。
ローレライはその予感を感じて、一瞬だけ少女のような眼差しになり、微笑を浮かべながら、果てた。
大鵬王の抜き手がローレライの腹を貫いていた。
正気を取り戻した大鵬王は自分が何をしたのかを悟って発狂し、行方をくらませた。
後は黒いタワーが周囲の気を無尽蔵に吸収して、エネルギー不足の根本がこの辺りにあることを察したヒルコが海底から誘い込まれた。
荒ぶる性格をしてはいるが広義には被害者でもあったわけだ。
カンナヅキは本土のとある大きな神社に案内された。
「じゃあついてきて」
「仰せのままに」
ツルツルの廊下をひたすら進んでいく、すると仰々しい襖が閉じており、中からただならぬ気配が漏れていた。
「拝謁いたします、イツキにございます」
「許可する、入るがよい」
「では失礼いたします」
気配がやばかった、人が踏み入れていい部屋じゃない、アマテラスさまも女神ではあるが矮小な自分を潰さぬよう気を使った上で大事な話だけを振ってくれた。
「それではイツキだけはここに残り報告の続きをするがよい」
「それでは僕はこれで……失礼いたしました」
「うむ、ありがとう」
二人きりになったところでアマテラスがイツキの方へ向きなおる。
「妾を相手にしても割としっかりと受け答えしておったな」
「ええ、彼がそうです」
「トヨウケヒメに会わすつもりか?」
「はい、彼女もずっと彼のことを心配していましたからね」
「ちなみにやつは天涯孤独か?」
「運命に翻弄されながらも植物の研究をしていたようです」
「そうか……まあそうなるわな」
僕は部屋を出たところで何やらいい匂いがしたので導かれるように匂いの元へ向かう。
調理中の女性がいた。
「あなたは……」
「あ、トヨウケさまじゃないですか、申し訳ありません」
ジロリとトヨウケさまはこっちを見た。
「関係者以外立入禁止のはずなんですが」
「アマテラスさまの供物に興味があったので」
「盗もうとしているんですか?」
「盗みはしません、ただ快く味見をさせていただけたらな~って」
僕は上目遣いでトヨウケさまをチラリと見る。
彼女は何を言ってもムダだと思ったのか溜息をする。
「人間風情がどこまで作物の深みを知っているのか検分してあげましょう」
「それはどうもありがとう」
トヨウケさまは意外と押しには弱いと見た。




