転落人生
僕は敗北者だ、一体何に負けてしまったのか。それはもうあらゆる敗北だ。
負けて負けて負けて負けまくった逃亡者だ。
僕は暑い国に生まれた、ざっくり言えば南の方だな。
海に面した常夏の楽園さ。
この土地で信仰される女神の加護をもらっている僕の将来は約束されていた、いたはずなんだ。
何をやってもうまくいく僕は神童と呼ばれ、歴史に名を残す偉業をいくつも打ち立てる予感しかしなかった。
ある日の夜、頭に声が響いて来た。
「ごめん、悪神に負けちゃった」
「んん!?」
「私を信仰してくださっているみなさま本当にごめんなさい。私は悪い神に負けてしまったので私に連なる人々はみんな警察に逮捕された上で即死刑になります」
ガバッ!と僕は起きた。
水の女神の加護で危険を予言してくれる力だ、同じ女神の加護をもらっている人間はいくらでもいるがとりわけ感度のいい人間にはこの危険信号が聞こえるようになっている。だがそれは置いといて……
「まずいことになった!!早く逃げないと」
引き続き女神の訴えが響いている。
「私の声が聞こえる方々、与えたスキルはそのまま使えるようにしておきますのでどうか死なないで。北を目指して行方をくらませて、私が悪神に勝てるその時まで息を潜めていてください。」
「夜で良かった、今ならまだ荷物をまとめてトンズラできる。状況の整理は後回しだ」
僕のスキルはまだ使わない、夜明けまでとっておく。それにはわけがある。
何にせよ夜のうちに人通りの無い場所まで逃げる必要がある。
幸い食料は一週間分くらいは僕のとっておきのスキルの中にキープしてある。目下必要なのは着替えと火起こしの道具に武器だ。部屋の中に置いてあるライターをポケットにねじ込みリュックに一通りの必要なものをポイポイっと放り込んでいく。
僕が女神からもらったジョブは忍者だ。
闇に紛れて行動するときにこそ能力を最大限に引き出せる。
僕は家の戸を明けて暗闇の世界に飛び込んでいった。