サラス村③
遅くなってすいませんでした
朝になり、目が覚めたサラはパッと見、いつも通りに振る舞っているように見えたが、明らかに無理をしてるのは、誰の目から見ても明らかだった。
挙動不審気味に辺りをキョロキョロと見渡して、わたしと目が合うと直ぐに目を逸らすし、朝食を食べながらボーっとしてるときもある。
「サラ」
「お、おはようございます。昨日はすいませんでした。私これから村の手伝いがあるので失礼します」
心配だったので声をかけるが、サラは上擦った声で早口でそう捲し立てるように言うと、慌てた様子でわたしから逃げるように去っていってしまう。
……これは、もしかして嫌われた?
「いえ、違いますよ。お姉ちゃんは恥ずかしがってるだけですから大丈夫です」
「ミラ……」
サラと入れ替わるようにして、ミラが珍しく笑みを浮かべながら、話しかけてくる。
てっきり、サラに嫌われたと思っていたけど、嫌われて無いみたいで良かった。でも、恥ずかしがるような事なんてあったっけ。
「それと、父と母の仇を討ってくれてありがとうございます」
そう言いながらミラは頭を下げる。
別に、偶々この村を襲おうとしていた盗賊が、ミラとサラの両親の仇だったってだけだから、気にする必要は無い。
「それでも、マイカさんが父と母の仇を討ってくれた事にはかわりありませんから」
そう言って、ミラは太陽のような眩しい笑みを浮かべる。
普段、無表情な分、たまに浮かべる笑みはとても可愛らしかった。
「か、可愛い何言ってるんですか、もう!」
「事実、ミラは可愛いと思う」
わたしがそう言うと、ミラは顔を真っ赤にして「私だけ笑顔を見せるのは不公平です!マイカさんも笑ってみてください!」と言うので、笑ってみる。
「……」
何故か、無言で目を逸らされた。
そういえば、サラとミラを買った日にも笑顔を見せて変な反応をされたけど、もしかして、わたしの笑顔って恐い?
「いえ、確かに最初は怖かったですけど、今は……」
「今は?」
何故かそこで言葉を区切ると再び顔を真っ赤にして「な、何でもありません!」と言ってそっぽを向いてしまった。
「ごめん」
てっきり何か怒らせるような事を言ったか、思ったかしてしまったのだと思って謝ったら、ミラは力が抜けたかのように息を吐き「怒って無いですよ」と言った。
良かった、怒ってなかったんだ……
相変わらずわたしは人の気持ちを理解する事が下手だ。
人並みに人の気持ちを理解することができたら、昨日のサラにも気の効いた言葉で慰め事ができたと思うんだけど。いや、先ずは口下手なところを直さないと、普通に慰める事すらできないか 。
昨日、泣いてるサラにろくな言葉をかけることができず、ただ抱き締めることしかできなかったことを思い出して暗い気持ちになる。
「お姉ちゃんはマイカさんに感謝してますよ」
「わたしはただ、抱き締めてあげることしかできなかった」
「それで充分です。お姉ちゃんは甘えたがりですから、お母さんに抱き締められる事が好きだったんです。もし、お姉ちゃんが寂しそうだったら、また抱き締めてあげてください」
ミラはどこか寂しそうにそう言う。
そういえば、普段しっかりしてるから忘れがちだけどミラもサラもまだ12歳だっけ。
その年の子が両親を亡くしたんだから普通は寂しいと思うのは当然だ。
……多分、自信はないけど。きっと当然だと思う。
「ミラ」
ミラの名を呼び、わたしより一回り程、小さなその体をギュッと抱き締める。
「え?え?あの……何で私を?」
「ミラも寂しそうだったら」
突然抱き締められて、最初は抵抗していたミラだったが、わたしが離さないと分かると、大人しくなった。
こんなので二人の母親の代わりになれるとは思っていないが、これで少しは寂しさが紛れてくれれば良いと思う。わたしにはこんなことしか出来ないから。
そのまま数分が経過しただろうか、突然ミラが顔を真っ赤にして暴れだし、腕の中から抜け出してしまった。
……もしかして、また何か間違えた?
その様子に怒られるのかと不安になるが、ミラの様子を見る限り、どうやら違ったようだ。
ホッとして、胸を撫で下ろす。
ミラは顔を真っ赤にしたまま、キョロキョロと辺りを見渡し、ホッと息を吐くと、慌てたように話を変えてくる。
「そ、そういえばっ、流石マイカさんですね。わたしの父と母は引退していたとはいえ、ランク8の冒険者だったのに殺されてしまったのですけど」
「ん?」
ミラの言葉に少し疑問を覚える。
この世界ではステータスに差があると、体を傷付けることすらできない。ランク8、しかもミラとサラの才能からして両親の才能も高い筈だ。
あの、盗賊集団にそこまで強そうな奴は居なかった。
かといって、あいつらがサラとミラの両親の仇であることは、サラが明言しているから間違いない。
「……ということは、まだ他に仲間が居るということですか?」
「そうなる」
ミラがさっきまで、真っ赤な顔で慌てていたのが嘘のように、真剣な顔になる。
盗賊にはまだ仲間が居た。
ならば、まだこの村の危機は去ってないということか。
いや、昨日察知スキルで探った時は、半径10キロ圏内には他に盗賊は居なかった筈だ。だとすると、その仲間がこの村を襲うことは無いのか?
でも、この村を襲おうとした奴等が戻らなければ、今度は残りの奴等がこの村を襲おうとする可能性もある。
やっぱり、このまま放っておくわけにはいかないか。
それに、そいつらはミラとサラの両親の仇だ。なるべく殺しておきたい。
「マイカさん……」
「ん、大丈夫」
不安そうにわたしの事を見上げてくるミラの頭に手を置き、安心させるように軽く頭を撫でる。
それで、少しは不安が紛れたのか、ミラはくすぐったそうに目を細める。
「少し村を離れる」
「……行くんですね」
まだ少し不安が残るのか、震える言葉で問いかけてくるミラの言葉に頷く。
殺るならなるべく早い方が良い。
今なら向こうも、この村を襲おうとしていた仲間が殺られた事に気付いていないはずだ。
そいつらがこの村を襲おうとするか分からないが、動かれてもしも多方面から攻められたらわたし一人では流石にきつい。
動く前に、固まっているところを一掃する。
それが一番安全なはずだ。
「ミラはどうする?」
これから討伐に向かう盗賊はミラとサラの両親の仇だ。
両親を殺した盗賊の最後を見届けるつもりがあるのなら、戦わせることはしないが、ミラがついてくるのを許可するつもりで居た。
わたしとしては、昨日のサラのようなこともあるので、できればついてきて欲しくないと思っている。
しかし、もしミラが自分の意思でついてきたいと言うのなら、勿論わたしが全力をかけてミラを守るつもりでいる。ミラにケガ1つ負わせるつもりは無い。昨日と同じ轍は践まない。今度は一瞬で殲滅する。
しかし、ミラはわたしの提案に静かに首を振る。
「わたしはマイカさんみたいに心が強くはありませんから。例え父と母の仇であっても、どれだけ憎くても、人を殺す事は多分できないと思いますし、人が死ぬのをこの目で見るのも耐えられないと思います。私が力を欲したのは誰かを殺す為では無く、守るためですから。ですので、私はこの村で待ってる事にします。自分で手を汚さないでマイカさんに頼るのは卑怯だと思います。けど……お願いします、父と母の仇を討ってください」
そこでいったん言葉を切り、ミラは勢い良く頭をさげる。
「それから、もし盗賊に捕まってる人が居たら、出来ればで良いので助けてあげてください」
「任せて。じゃあ、行ってくる」
ミラの気持ちに答えるように、力強く盗賊を討伐する事を宣言する。
最後にミラの頭を軽く撫でて、残りの盗賊を討伐しに行く為に小屋を後にした。
「あ、マイカさん……」
村を出る直前、どこか元気の無いサラとばったり出くわした。
嫌われてる訳では無いのはミラの言葉で分かったが、あんな風に避けられた後だと、どうも正面から話すのは気まずい。
サラも同じなのか、わたしからの目を逸らすように、俯いてしまう。
そのまま、互いに無言で向かい合う気まずい時間が少し経った後、先に口を開いたのはサラの方だった。
「マイカさん、村の外に向かってましたけど、何処かに行くんですか?」
「盗賊の生き残りがいるみたいだからそれを討伐しに行ってくる」
なるべくなら皆に嘘はつきたくないので、正直に答える。
ミラの時のようにサラについてくるかどうか、聞くつもりはない。
昨日の事を考えると、サラはついてこない方がいい。
だが、もしついてくるなら、ミラと同じように全力で守るだけだ。今度は泣かせたりは絶対にしない。
わたしの言葉に、サラが漸く顔を上げる。
そのまま、何か言いたそうに口を開けるが、そこから言葉が発せられることは無く、再び俯いてしまった。
またもや無言の時間が訪れる。
これはどうすればいいんだ。
対人スキルが皆無に等しいわたしに、この無言の空間は拷問のようにきつい。
これが赤の他人同士だったら別に気にしないんだけどなあ……
とりあえず、頭をフル回転させてサラが言おうとしていた言葉を推理する。
怪我しないでください?いや、サラはわたしの理不尽なまでの強さを知ってるからそんな心配はしないだろう。
早く帰ってきてください?いや、これも違うだろう。村には他の3人も居るんだし、わたしが居ないくらいでサラが寂しがる訳がない。
じゃあ、きちんと皆殺しにしてきてください?優しいサラがそんなこと言うわけが無い。
それとも、お土産期待してます?……今までの中では一番可能性がありそうな気がする。少なくともわたしならそう言うかもしれない。
「おみ……」
「マイカさんはパパやママみたいに居なくなったりしませんよね?」
わたしが言葉を発すると同時に、顔を俯かせたまま震えた声でそう聞いてきた。
わたしが考えていたサラの言葉と違う言葉を言われて、一瞬だけ言葉に詰まる。
それと同時に、言わなくて良かったと心の底から安堵した。よく考えたらサラがそんなこと言うはずも無いし。
サラの問いに対する返事は考えるまでも無く決まっている。
「大丈夫、わたしは絶対に居なくならない」
「わたしはサラのご主人様だから」と続けようとして慌てて口をつぐむ。
誰が聞いてるか分からないから、皆が奴隷だという事を仄めかすような発言には気をつけないと。
代わりと言ってはなんだけど、安心させるように、サラの体を軽く抱き締めて頭を撫でる。
サラは目を閉じて気持ち良さそうに体を委ねてくる。
ミラを抱き締めてる時も思ったが、こうしていると『あの子』の事を思い出して少し懐かしい気持ちになる。
でも、何時までもこうしてる訳にはいかないので、名残惜しいが優しくサラの体を引き離す。
「行ってくる」
「……待ってください」
そのまま、村から出ようとしたらサラに引き留められた。
ついてきたいと言われたらどうしようかと不安になるが、わたしの心配は杞憂だったようだ。
「我が儘を言うようですみませんが、もし盗賊に捕まってる人が居たら、助けてもらっても良いですか?本当だったらマイカさんにお願いなんてしないで、私の我が儘なんだから、一緒についていって私が助けた方が良いのは分かってます。でも……すいません、私がついていっても何もできないどころか足を引っ張ってしまうと思います。ですから……」
自分の不甲斐なさに悔しそうに顔を歪め、頭を下げながら「どうか、お願いします」と言いながらサラは頭を下げた。
やっぱり、ミラとサラは双子なだけあってそっくりだなあ。
ミラと同じような事を言うサラに、そんなことを思い、ミラの時と同じように、軽く頭を撫でる。
「任せて」
安心させるように、少し頭を撫でる。
「行ってくる」
最後に突然頭を撫でられて、驚いた顔をしているサラを視界の端で見ながら、わたしは村から飛び出した。




