表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

サラス村②

「××××××××」


暗闇の中、誰かの声が聞こえる。

何だろう、前にもこんなことがあったような気がする。

気のせいだろうか。


「×××××××」


何を言ってるのか聞き取れない。

でも、何処か懐かしい声だ。この声の主はわたしの知り合い?

辺りに光が満ちていく。

光が大きくなるにつれて、声が遠くなっていく。

せめて、顔だけでも見ようとしたが、体が動かない。


「またね」


最後にそんな声が聞こえた気がした。





「あっ、おはようございます。マイカさん」

「うん、おはよう」


 一体どれくらい寝ていたのだろうか。

 頭がボーっとする。

 何かを忘れているような?でも、思い出せないということは大したことでは無いのだろう。


 回りを見ると、ここはサラス村で泊まった小屋のようだ。

 誰が運んでくれたのだろうか。後でお礼を言わないと。


「今回は寝込んでたのは1日だけですね。マイカさんを連れてきてくれたのはシャルロットちゃんです」


 そっか、シャルロットには後でお礼を言っておこう。

 それにしても、言葉を発しないで会話をするのは楽でいいなあ。


「そう言ってくれるのは、家族以外ではマイカさんだけですよ」


 わたしの心を読み取ったミラが苦笑を漏らす。


「セリカやシャルロットも気にしないと思う」

「そう……ですよね。二人とも優しいですし。でも、皆に話すのはもう少しだけ待ってください。決心がついたら、私から話しますから」

「そう、無理はしないで」

「はい」


 ミラの頭でも撫でてあげようかと思ったが、痛みで体がまともに動かない。

 まあ、ほぼ全身が炭化していたんだから当然か。


「炭化って……よく生きてましたね」

「多分、欠片でも残ってたら再生すると思う。痛いけど」


 どうせ、再生するなら痛みも消してくれればいいのに。

 そうすれば、大怪我をしたあとに、動けなくなることが無くなるんだけど。


「一応、今日痛みが消えるまでは安静にしておいてくださいね」

「ん、分かった」


 ミラは村の復興の手伝いをするため、出ていってしまった。

 小屋の中にい居るのはわたし一人だけ。


 やることも無いので、久し振りに皆のステータスを確認する事にする。


 サラLv113 才能9


 スキル

 ・魔法《火》Lv18

 ・魔法《風》Lv14

 ・魔法《水》Lv12

 ・察知Lv35

 ・剣Lv23

 ・見切りLv16


 ミラLv111 才能9


 スキル

 ・魔法《光》Lv20

 ・料理Lv14

 ・弓Lv18

 ・鷹の目Lv14

 ・鑑定Lv3

 ・交渉Lv2


 セリカLv105 才能8


 スキル

 ・鍛冶Lv3

 ・ハンマーLv8

 ・回避Lv12

 ・大剣Lv25

 ・ガードLv11

 ・料理Lv8


 シャルロット・アリステルLv114 才能10


 スキル

 ・魔法《闇》Lv24

 ・飛行Lv30

 ・自己回復Lv5

 ・格闘Lv9

 ・回避Lv13

 ・詠唱魔法Lv20

 ・クローLv12


 ……なんか、とんでもないことになってる。

 これ、絶対にわたしがダンジョンでやった虐殺が原因でしょ。

 レベルは上がりまくってるけど、スキルはあまり成長してないし。

 シャルロットのレベルの上がりが速いのは才能のせいかな?

 ううむ、スキルと戦闘経験を育てるのに、暫くの間わたしが戦うのは自重した方がいいのかもしれない。でも、戦いたいしなあ……

 だったらいっそのこと、わたしが戦いまくって、誰も傷つけられないくらいのレベルまで上げる?

 ……うん、わたしとしてはそっちの方が良いかも。

 まあ、それは後で皆と相談して決めることにしよう。

 それにしても、シャルロットはわたしの作った武器をちゃんと使ってくれてるのか。

 渡したときの様子だと、使ってくれるとは思えなかったから、ちょっと嬉しい。


 次に自分のステータス画面を開く。


 名前:舞華 Lv1000


 MP:1000

 STR:1000

 VIT:1000

 AGI:1000

 INT:1000

 DEX:1000


[スキル]

 二刀流 Lv100

 察知 Lv100

 刀Lv100

 行動制限解除 Lv100

 格闘 Lv100

 威圧 Lv100

 見切り Lv100

 自動回復Lv100

 状態異常耐性Lv100

 成長促進Lv100

 勇者Lv-

 採取Lv100

 料理Lv100

 探索Lv100

 鑑定Lv100

 隠密Lv100

 鍛冶Lv100

 裁縫Lv100

 木工Lv100

 錬金Lv100

 細工Lv100

 魔法《火》Lv100

 頑強Lv1

 耐性・火Lv1


 ふむ、特に変なスキルは増えてないか。耐性・火と頑強はケルベロスと戦った後に付いたのかな。

 ステータス画面を閉じる。

 どうしよう、やる事が無くなってしまった。

 ダンジョン内で狩ってきた魔物の素材を使って、生産でもしようかと思ったけど、1度死体を解体してバラさないといけないので、今の状態でそれをやるのはちょっと無理がある。

 体が動かないというのは、けっこうきついものだ。


 次からはなるべく体に傷を付けないようにして戦いたい。

 傷が付いたら負けという、縛りプレイをするのも良いかも。

 そういえば、トロールといい、ケルベロスといい、あの鎧といい、何故あんなに強いのだろうか。

 たしか、ケルベロスは、トロールや自分は、邪神が直接作った十三体の内の一体だ。とか言ってたような気がする。

 あんなのが後、十一体も居るのかと思うと楽しみだ。いや、あの鎧も含める後十体になるのか?

 でも、あの鎧はなんか、違う気がするし……


「やめた」


 考えても分からないので、思考を放棄して目を閉じる。

 そもそも、邪神とかあの敵がどかしたとか、わたしには考える必要は無いんだ。

 それが何であろうと敵なら倒す。それだけだ。

 目を閉じていると、眠気が襲ってくる。

 ちょうど良い、やることも無いし、このまま眠ってしまえ。




 唐突に目が覚める。

 随分と寝ていたみたいで、辺りは既に真っ暗、小屋の中は皆の寝息以外の音はしない。

 皆を起こさないように隠密スキルを使い、そっと小屋を出る。

 体の痛みは殆ど消えている。

 これなら、普通に動き回っても問題ないだろう。

 村の人は全員寝ているみたいで、村は静寂に包まれている。

 聞こえるのは、時おり遠くから聞こえる犬の遠吠えだけ。


「あの……」

「ん?」


 軽く準備運動をしていると小屋の中から出てきたサラに声をかけられた。

 ああ、そういえばサラの察知スキル、結構レベルが上がってたっけ。

 なら、この気配に気付くのも当然か。


「何処か、行くんですか?何か嫌な気配がして、目が覚めたんですけど」

「あー……」


 さて、どうしようか。

 この分だと、サラは敵が何なのかは理解しては居ないようだ。

 正直言うと、サラを連れていきたくは無い。

 此方に近づいてきている敵は、人数こそ多いが、サラ一人でも無傷で制圧できるレベルの敵だ。

 でも、その相手が問題なのだ。


「サラは寝ていた方が良い。わたしが全部倒してくるから」

「魔物が近付いて来てるんですか?」

「いや、盗賊」

「私も行きます!」


 相手を聞くとサラは顔を怒りに歪めて即答した。

 ……これは正直に答えたのは不味かったかな?

 サラとミラの両親は盗賊に殺されてる。自分の手で復讐をしたいと思うのは当然だ。

 


「いや、サラは寝ていた方が良い」

「嫌です、行かせてください!」

「人を殺すことになるよ?生かしておいたら何があるか分からないし」

「……大丈夫です。やれます」


 こう言えば、引き下がると思っていただけにちょっと予想外だ。

 その体は、人を殺すことになるという恐怖で震えていた。だが、しっかりと決意に満ちた目で、わたしの目を見て言い切った。

 この目を見たらとてもじゃ無いけど、断ることなんてできそうにない。

 それに、断っても勝手についてきそうだし。

 勝手について来られるよりは、手元に置いておいた方が、何か予想外の事が起こった時に対応できるはずだ。


「分かった。但し、わたしの言うことはちゃんと聞くこと」

「はいっ、ありがとうございます!」


 できれば、みんなの前で人殺しは避けたかったし、皆には人殺しをして欲しくはなかったんだけどなあ。まあ、仕方ないか。

 サラは1度頭を下げて、装備を取りに小屋の中に戻る。


「はあ……」


 このあとの事を考えると、自然と溜め息が漏れる。

 皆を護りたいとか考えている、優しい十二歳の女の子が人を殺して、平静で居られるわけが無い。

 つまり、盗賊を倒したあとは、サラのメンタルケアをしないといけないわけで……

 わたし、そういうの苦手なんだけどなあ……

 いっそのことサラには何もさせないで、一撃で仕留めるか。うん、そうしよう。


「お待たせしました」

「じゃあ、行くよ」

「はい」


 装備を整えたサラが、他の皆を起こさないように静かに小屋から出てくる。

 相変わらず緊張しているが、こうしている間にも、少しずつ盗賊が近づいてきているので、ゆっくりしている時間は無い。

 わたしとサラの二人は静かに村を発った。





「居た」


 約三百メートル程先に、盗賊の集団を発見した。数は全部で七十人位だろうか。そこそこ多い。

 急いで盗賊の背後に周る。

 隠密スキルをわたしとサラを対象に使っているので、攻撃を当てない限りは向こうから気付かれることは無い。

 とはいえ緊張しているのか、繋いでいるサラの掌が、しっとりと汗で滲むのが掌越しに感じる。


「大丈夫?」

「はい。あいつら、私たちを襲ってきた盗賊です。間違いありません。パパとママの仇だ。絶対に殺してやる」


 仇を見つけて、睨みつけるように盗賊を見ているが、体は震えており呼吸も荒い。

 安心させるために少し強めに手を握ると、少しは落ち着いたのか、体の震えが徐々に収まってくるのが、掌越しに伝わってくる。

 でも、この姿を見ると、例え両親の仇でもサラには人殺しはさせられない。


 サラに作戦を伝える。

 作戦と言っても、わたしが魔法を撃ち込んで、討ち漏らしたやつを各個撃破するだけのシンプルな作戦だけど。

 隠密スキルを駆使した暗殺が一番静かに終わるんだけど、隠密スキルは一度攻撃したら解除されて、視界から外れないと同じ対象には使えなくなるので、その手は使えない。

 それと、サラには剣じゃ無くて魔法を使うように言っている。

 剣で直接斬るよりは魔法の方が、人を殺したという感覚が薄れると思ったから。

 もっとも、範囲魔法を使うから討ち漏らすつもりも無いけど。


 その作戦にサラは静かに頷く。

 それを確認して、わたしは魔法を使うために魔力を練り上げる。

 使うのは炎の魔法でも、エクスプロージョンの次に範囲の広い魔法。


「インフェルノ」


 わたしの眼前に巨大なマグマの波が現れ、楽しそうに会話していた盗賊たちを一瞬で呑み込む。

 盗賊たちは最後まで此方に気付かないまま、骨すら残らず、一人を残してこの世から消滅していった。

 最後に残った盗賊は、一番端にいたまだ若い少年と言っても良い年齢の盗賊で、わたしが魔法を放った瞬間、偶々後ろを向き、迫るマグマの波を見て慌てて逃げ出したので、何とか生き残ることは出来た。

 とはいっても、下半身から先はマグマに呑まれてしまったので、放っておいても勝手に死にそうだけど。

 だが、放置して少しの時間でも生かしておいたら、わたしが見てない間に何があるか分からないので、止め刺しておく。勇者スキルが有る限り何が起きるか分からないので、念には念を入れて、炭になるまで死体を燃やし尽くす。死体から甦る可能性もあるし。


「帰るよ」


 盗賊がピクリとも動かなくなったのを確認して、サラの方に振り返る。

 様子がおかしい。サラはわたしと目を合わせようとせず、俯きながら体を震わせていた。やっぱり、こうなるのか。


「マイカさんは……」

「ん?」

「人を殺すことに抵抗は無いんですか?」

「……」


 サラの問いなんて返そうか少し悩む。

 正直、抵抗は全く無い。

 しかし、それを正直に言ったら、サラがどんな目でわたしを見るのか分からない。

 だからといって嘘を言っても、さっき躊躇無く殺してるのを見てるんだから説得力は無いだろう。


「……無い」

「そうですか……」


 迷った結果、正直に告げる事にした。

 なるべくなら皆には嘘はつきたくないし、誤魔化せそうに無いから。


「……私は無理でした。直前まではパパとママを殺した盗賊なんて殺してやるって思ってたのに。でも、あの生き残った盗賊の顔をみたら、これからこの人を殺すんだって意識したら、体が急に動かなくなったんです。あの盗賊たちはパパとママの仇なのに!盗賊なんて皆殺しにしてやるって思ってた筈なのに!なのに……私は……」


 そこまで言うとサラは立っていられなくなったのか、嗚咽を漏らしながらその場に崩れ落ちそうになるのを慌てて抱き抱える。

 人を殺すことに全くといっていいほど忌避感を持ってないわたしにはサラの苦悩は理解できない。

 でも、サラは泣いているんだから何かを言わないと。


「……」


 口を開きかけて、直ぐに閉じてしまう。

 慰めの言葉が思い付かない。こんなとき、なんて言ったら良いんだ。

 失敗だった。こんなことになるなら、サラを連れてこなければよかった。自分自身の不甲斐なさに思わず唇を噛む。


「大丈夫。辛いことは全部わたしに任せてくれれば良いから」


 結局、必死に考えてもそんなことしか言えず、サラが泣き疲れて眠るまで、幼い子をあやすかのようにその体を抱き締めてあげることしか、わたしにはできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ