灼熱のダンジョン③
二階の探索を進めて約二時間が経過していた。
この間、常に威圧を全開にしているから、敵は来ないし探索は楽になる……そう思ってた時期がわたしにもあった。
「ああ、また来たよ」
もはや、親の顔よりも見慣れた敵を見て、げんなりとした気持ちになる。
まあ、親の顔とかろくに覚えて無いんだけど。向こうはわたしを気味悪がって近付かなかったし、わたしも親に興味無かったし。
「鳴神」
試しに斬りつけてみる。
鳴神は雷を纏っている筈なのに、手応えは全く無い。
……うん、これは無理だ。いくらわたしがチートだからって出来ないことくらいある。
蛇の吐き出した炎を避け、全力でその場を離れる。
二階の前半部分では出てこなかった蛇が、後半に突入した途端まるでゴキブリのようにうじゃうじゃと沸きだしてきた。
今ではそこら中が蛇と花で溢れている。
この蛇にも威圧が効けば良かったのだが、現実はそう甘くないか。
「おっと」
走っていたら察知スキルが反応したので、足を止め、少し引き返す。採取ポイントがあったみたいだ。
蛇に纏わり憑かれて服が燃えてるが、どうせわたしにダメージには入らないから、鬱陶しいが無視だ。
反応があった場所を掘り返すと燃焼石が10個と、不思議な金属片が1個手に入った。
・ヒヒイロカネrank10
世界最高硬度を誇る金属
ヒヒイロカネか、よく小説やゲームで見るから名前だけは知ってるけど、実物を見るのは初めてだ。流石は伝説とされる金属、こういうのに疎いわたしでも分かるくらい、神秘的な雰囲気を醸し出している。もっとも、地球の文献にあるようなヒヒイロカネと、この世界のヒヒイロカネが同じものかは分からないけど。
これ1つだけでは使い道は無いが、数が集まったらこれで防具を作ろう。
これだけの物で作った防具ならどんな攻撃も遮断してくれるに違いない。
採取も済んだので、纏わりつく蛇を振り払うために、急いでこの場を離れる。
それから三十分程歩いて二階の探索が終わった。
残念なことに特に新しい発見は無かった。
今は地下三階への階段を下りている。
地下に進むにつれて熱気がどんどん上昇してきて、正直かなり熱い。
三階はパッと見特に変わった様子は無い。
でもここは最高ランクのダンジョン、油断は禁物だ。
ちょっと歩くと察知スキルに反応があった。
レッドドラゴンが3匹。
まだこちらに気付いた様子は無いので、奇襲をかける。
一番近くにいた一匹を二枚におろし、そのままの勢いで、その後方に居たもう一匹の首を狩る。
そこでようやく襲撃者であるわたしに気付いた最後の一匹が口を開くが、もう遅い。
「空刃」
飛ぶ斬撃を放ち首を狩る。
レッドドラゴン三匹の鎮圧は僅か数秒で方がついた。
うん、流石ランク10の刀だけあってかなり使いやすい。
この刀ならトロールも一撃で終わったんだけどなあ。
レッドドラゴンの死骸をアイテムボックスに入れているとまた察知スキルがレッドドラゴンの反応を捉えた。
しかも数が多い。全部で二十は来てるかな?
雑魚なんだから、纏めてかかってくれば良いのに。
仕方ない、探索する前に先にこのフロアの敵を殲滅するとしますか。
「宝箱発見」
レッドドラゴンを百匹程虐殺し、少しだけ満足したところで久しぶりの宝箱を発見した。
・通信符rank10
片方の通信符を持った相手と何時でも連絡を取れる。
中に入っていたのは、わたしが持っているのと同じ通信符が二枚。
違うのはマリアから貰った通信符がランク8なのに対してこっちはランクが10だということ。
そういえば、マリアから貰った方はダンジョンでは使えなかったっけ。それよりランクが上ならダンジョン内でも使えるようになるのかな?
まあ、それはそのうち確かめるとして、今は昨日の現象を確かめて見よう。
通信符を入れたままの宝箱をアイテムボックスに入れてみる。
・通信符の入った宝箱
アイテムボックスの表記が、昨日のカレールーの時と似たような表記になったのを確認し、アイテムボックスから宝箱を取り出し、中の通信符を1枚だけ……あれ、取れない。
もしかして、2枚で1セットだから2枚とも取らないと駄目なのか?
仕方ないので2枚とも取って、空になった宝箱をアイテムボックスに入れる。
・空の宝箱
どうやら中身が無くなると、再度中身が増えることは無いらしい。
まあ、そこまで都合よくは行かないか。
空の宝箱でも何かに使い道があるかもしれないので宝箱はそのままアイテムボックスに入れておく。
そこで察知スキルがまた反応する。
来るのはまたもやレッドドラゴン、もしかしてこの階レッドドラゴンしか居ないのか?
予想はどうやら当たりだったみたいだ。
三階を探索し終わる迄に狩ったレッドドラゴンの数は三百を越えた。基本的に一撃で終わるので、戦闘と言うよりは首を狩るだけの流れ作業みたいになって正直飽きた。もっと強い敵は居ないのか。
しかも探索の成果は無し。
流石にちょっと精神的に疲れたので今日の探索はこれで切り上げることにする。
明日にはダンジョンクリア出来ると良いなあ……
地上に戻ってくると先ず目についたのは、馬車の側で泣きながら昨日の残りのカレーを食べてる知らない2人組の男だった。
あのカレーは皆の昼飯用に残して置いたやつだ。
なのに何故、あいつらはそのかカレーを食べているのだろうか。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいマイカさん!あの人達は悪い人たちじゃありませんから!」
わたしが男達に近付こうとするのを、ミラが腰に抱きつきながら必死になって止めてくる。
「だから刀を納めてください!」
そこまで言われて初めて、自分が刀を抜いていることに気付いた。
危ない、危ない、危うくミラの前で人を殺してしまうところだった。
そんなことをすると嫌われてしまう。
落ち着こう、殺るなら見えないところで殺らないとダメだ。
「殺しちゃ駄目ですよ。あの人たちは悪い人たちじゃありませんから」
あれ?もしかして考えてることが伝わってる?わたしって表情の変化が乏しいから、なに考えてるか分からないって良く言われてたんだけどなあ。
そんなことを考えているとミラは気まずそうに目を反らす。
そういえば、冒険者ギルドでマリアが能力の話をしているときに、二人が変な反応をしてたっけ。これは、ミラが心を読めることは確定かな。サラも何か能力があるのかな。
「いえ、お姉ちゃんは普通のエルフです」
「そっか」
「あの……黙っててすいません。やっぱり気持ち悪いですよね。こんな能力を持ってて」
「いや、別に」
その言葉に普段あまり表情を変えないミラが大きく目を開く。
そんなに変なことを言ったかな?
心が読めるとかむしろ便利だと思うけど。敵とか見つけやすいし。
「あ、心を読むのは正確には違います。私が読めるのは強い感情だけです。マイカさんだけは、再契約したときに何故か心を読めるようになりましたけど」
ふむ、それは多分、奴隷契約を再度結ぶ時に、魔法具を介して血を交わしたせいじゃないかな。実際のところは分かんないけど、それぐらいしか、考えられない。
「あの、本当に気持ち悪くないんですか?」
そう言う、ミラの目は若干潤んで怯えているように見える。
そういえば、二次元の世界では、読心の能力者って、嫌われてる描写が多かったような気がする。
つまり、ミラもそういった過去があるということか。
「誰?」
「えっ?」
「ミラを苛めたやつは誰?」
見つけ次第そいつは殺す。
ミラを苛めた罪は死を持って償うべきだ。
「だっ、駄目ですよそれは。罪の無い人を殺しちゃ駄目です!」
「ミラを苛めた時点で罪人」
「私はその人達は許しています。ですから殺しちゃ駄目です」
ミラは真剣な表情でわたしの目を真っ直ぐに見つめ返してくる。
そんな真剣な眼差しで見られたら、わたしが引き下がるしかない。
でも、これから四人に危害を加えるような奴は絶対に殺す。それが罪人で無くともだ。手遅れになってからでは遅いんだ。それだけは譲れない。
「……できれば殺さないでほしいです」
「駄目、これだけは皆から嫌われても譲れない。少なくとも、誰も傷つけられないレベルになるまでは、皆はわたしが絶対に護る」
「……分かりました」
てっきり、渋るかと思ったけど、ミラはむしろ嬉しそうに頷いてくれた。ちょっと予想外だ。
「私としては出来れば殺して欲しくないと思ってますけど、それよりもマイカさんが、こんな能力を持ってる私でも大切に思ってくれてるのが嬉しいんです。私をここまで大切に思ってくれる人は家族以外では、居ませんでしたから」
自分のものを大切に思うのは当然の事だと思うけど。
まあ、いいや。
そういえば、すっかり忘れてたけど、あいつらが何でカレーを食べているのか聞こう。
ミラとあの男達の話によると、この二人組は東にあるサラス村の住人で、魔物の襲撃により農作物に壊滅的な被害が出て、食うものにも困ってる状態らしい。
それで、魔物を何とかしようと、村中からなけなしの金を集めて、アランダの街の冒険者ギルドに依頼を出そうとするも、その途中で空腹により力尽きて倒れていた所を、周囲の魔物を狩っていた四人が発見。サラ、セリカ、シャルロットの三人は事情を聞き、魔物を退治しに村へと向かい、ミラはお腹を空かせていた二人組の世話をしながらわたしの事をを待っていた。
幸いにも、ミラの秘密のことはカレーを食べるのに夢中で聞いてなかった。
さて、他の三人が村へと向かったのなら、わたしが村に行かない理由も無いだろう。。
「転送水晶は?」
「お姉ちゃんに渡しました」
なら、良かった。
馬車と他の道具を全てアイテムボックスに入れて、転送水晶を取り出す。そのついでに、さっきたダンジョン内で拾ってきた通信符をミラに渡しておく。
転送水晶の使い方は、ミラには既に教えているので、ミラは特に戸惑う事無く、水晶に手を置く。
「早く、手を乗せる」
突然の事に戸惑っていた二人組を促すと、二人組は恐る恐る水晶に手を乗せた。
全員の手が水晶に乗ったのを確認すると、わたしは水晶に魔力を流し込む。
すると、周囲の景色が歪み、次の瞬間。
「ぬおっ」
「わっ」
「きゃっ」
村へと移動中だった三人の側へと転移した。
三人は急に現れたわたしたちに一瞬驚いた顔をしたが、わたしたちの手の転送水晶を見ると何が起こったのか直ぐに理解して、再び駆け出す。
どうやら大分先に進んでいたみたいで、村はもう直ぐそこに見えていた。




