灼熱のダンジョン①
「暑い……」
皆の決意を聞いた翌日、わたしは一人ダンジョンに潜っていた。
あの後、マリアを呼び出し、生産に必要な道具とダンジョンの位置が書かれた地図を持ってきて貰った。
それと、ついでにダンジョンのコアについても聞いてみたが、マリアもコアの無いダンジョンのことは初めて聞いたらしい。まあ、これは少し気になっただけだから、分からないなら、無理して調べるつもりは無い。
マリアから貰った地図によると、近くにランク10のダンジョンがあると書かれていたので、今日はそこを攻略することになったのだが、皆は足手まといにはなりたくない、と言うので外で待っていてもらうことにした。
今思うと、それで正解だったと思う。
このダンジョン、周りが溶岩だらけでとにかく暑い。汗が吹き出た瞬間に蒸発する程の暑さだ。
暑さを和らげるアイテムもあるみたいなのだが、材料が足りず作れない。そもそも、この暑さだと何処まで効果があるのかは分からないが。
わたしだから耐えられてるけど、他の人だったらこの暑さは数分と持たずに確実に干からびる。
ランク10のダンジョンというのは特殊で、他のダンジョンはそのランクの人がギリギリ生きて戻れるランクが設定されているが、ランク10のダンジョンというのは、生き物が入ったら生きて帰れる保証はない。という意味で設定されているらしい。
なので、今までランク10のダンジョンを攻略したものは1人も居ない。まあ、それはランク9のダンジョンにも言えることだが。
基本的には、この二つのクラスのダンジョンを攻略するのはこの世界の人たちには無理だろう。
「また来たよ」
マグマから湧き出してきた、もう見慣れた敵を見てげんなりとした気持ちになる。この第一階層で出てくる敵というのが、物理攻撃無効の炎の蛇だけなので、物理攻撃しか攻撃手段が無いわたしは逃げることしかでき無いのだ。
幸い、移動速度はそう早くは無いので、逃げるのは難しくないが、とにかく数が多い。
十歩歩けばこいつと遭遇するという位の頻度で出てくるので、見るのも嫌になってきた。
「やっと見つけた」
そんなわたしが、何故直ぐに下の階に向かわないのかというと、それはダンジョン内にある宝箱を全て回収するため。
このダンジョン無駄に広いので移動が大変だ。
しかも探索スキルと察知スキルがダンジョンに入ってから効力が落ちてるので、近付かなければそこに何があるか分からないのだ。
10のダンジョンとランク9の一部のダンジョンはこんな感じらしい。
「何これ、本?」
宝箱を開けると中には古びた本が入っていた。 鑑定してみると、この本は魔法・火のスキル書で、読むとスキル、魔法・火を覚えるみたいだ。
もちろん読む。攻撃手段が物理攻撃しかないわたしには早急に物理攻撃以外の攻撃手段が欲しかったのだ。
このスキル書は天からの贈り物に違いない。最も、このダンジョンの敵に効くかどうかは疑問だけど。
スキル書を読むと、スキル書は消えてなくなる。
スキルを覚えたのを確認して、試しに1度使ってみる事にする。
「フレイム」
地面の魔方陣から放たれた火柱が天井の岩盤を突き破る。
あれ?おかしいな、見間違いじゃなければ今の、火柱じゃなくてレーザーに見えたんだけど。
サラの使ってた魔法はせいぜい2メートル位の火柱だったのに、もしかしてINTの数値によって威力が変わるのか?
この威力じゃ洞窟とかの狭い場所ではあまり使わない方がいいかな。崩落して生き埋めとか洒落にならないし。
とりあえず、まだ行ってない所に向かおう。
暫く歩き回り、次の場所に到着した。
反応があるのはマグマの中……どうしろというのか。
試しに昨日のダンジョンで狩った、リザードマンの死体を投げ入れてみる。
うん、普通に骨すら残らず溶けてなくなった。
ひとまず、手持ちで一番頑丈なトロールの棍棒を突っ込んでみる。
耐久ががっつり減ったが耐久を回復すれば何とか耐えられそうだ。
アイテムボックスに入れて修理コマンドを選択、それを耐久値が最大になるまで繰り返す。この体もチートだけど、システム画面も大概チートな気がする。
再び棍棒を取りだし、ゴルフのクラブを構えるようにして--
「ふっ」
--マグマごと中の宝箱を抉り出す。
狙い通り、宝箱がマグマの中から飛び出してきた。
飛び出してきたのは良いのだが……
「どう考えても熱くて触れないよね」
さっきまでマグマの中にあったんだから、とてもじゃ無いけど素手では触れない。
手が溶けるのを覚悟で触れば開けられるのだが、治るとは言っても痛みはあるのだ。わたしはマゾでは無いので、戦闘以外で好き好んで痛い事をする気はない。
再びリザードマンの死体を取りだし、爪を宝箱の蓋に引っ掻けて溶ける前に急いで開ける。
リザードマンの死体を再びアイテムボックスの中に放り込んでから中を見ると、中には水晶玉が二つ。
・転送水晶rank9
二つで一つ。水晶に触れている人物をもう一つの水晶の場所に転送する魔法具。
これは、マリアの持ってる転移水晶の下位互換の魔法具かな。
マリアは水晶が無い場所にも自由に転移していたし。
一つは自分で持つとして、もう一つは皆の内の誰かに持っててもらおうかな。
さて次に、って……
「また来たよ」
迫り来る炎の蛇、しかも今度は唯一の入り口から集団で襲ってきた。
仕方ないので、その群れの中を突っ切る。
蛇の炎が体に纏わりつくが、この程度の熱では少し熱いと感じるくらいで軽い火傷すら負わない。
最も、服は無事では無いので、あまりこの中を突っ切るのは、やりたくは無いが。
探索を始めて1時間、まだマップの半分も埋まっていない。
喉が渇いた。マグマって飲めるかな?
そんな、無謀な事を考えていた時、察知スキルに反応があった。
反応があるのは右側の壁、探索スキルではなく、察知スキルが反応したからここで何かが採れるのだろう。
ピッケルで壁を掘ってみる。
何度か振り下ろすと、何か固いものに当たった感触があった。
今度は素手でそれを取り出す。熱いが我慢だ。
・燃焼石rank7
常に高熱を放っている石。直接触ると重度の火傷を負う。
おお、これは中々良い拾いものだ。
鍛冶の材料にも使えるし、料理にも使えそうかな。
まだ反応があるので、採れるだけ採っておく。
その結果、全部で12個の燃焼石を手に入れた
このダンジョンから出たら早速、武器を作ってみよう。
今はとりあえず、このダンジョンをクリアすることが先決だ。
燃焼石を見付けてから2時間近くの時間が経った。
あれから、炎の蛇の襲撃を何度か受けたこと以外、特に何もなく、この道の先の場所で一階のマップが埋まるという所まで来た。
先程から察知スキルと探索スキルが反応している。
この先に敵と宝箱があるのだ。
気分が次第に高揚していく。
何せ、この先に居るのは、このダンジョンで初めての炎の蛇以外の敵なのだ。しかもレッドドラゴンという明らかに強そうな名前の敵だ。
これで強敵との戦いの予感に気分が高揚してくる。
そこにいたのは、5メートル位の赤い巨大な蜥蜴だった。
ドラゴンではない、蜥蜴だ。
ファンタジー世界で良く見るカッコいいドラゴンを期待していただけにちょっとがっかりだよ。
まあ、でも強ければそれでいいか。
此方に気付き、威嚇してくるレッドドラゴンに向かって駆け出すと向こうは迎撃するようにその大きな口を開け、灼熱の閃光を放つ。
その閃光を半身になって交わし、距離を詰める。
しかしこの蜥蜴、以外と素早く、近付いたわたしから素早く距離をとると、壁を登り天井に張り付き、そこから連続して火炎弾を吐き出してきた。
それをステップを刻みながら交わし、攻撃が途切れたところで、宙に飛び上がり背中に蹴りを叩き込む。
蜥蜴が苦しそうな悲鳴をあげながら地面に落下する。
流石にこれだけでは死なないようだが、既に蜥蜴は瀕死で立ってるのがやっとの状態。
どうやらこの蜥蜴、それほど強くは無いみたい。
ランク10のダンジョンだから、トロール並の敵を期待していただけにちょっと残念だ。
あのクラスの敵がそこら中にいたらわたしも楽しいのに。
瀕死の蜥蜴に止めを差す。
蜥蜴をそのままアイテムボックスに放り込み、部屋の奥にあった宝箱を開ける。
「よし」
中を確認して思わずガッツポーズ。
中には、固形のカレールーがぎっしり詰まっていた。何故カレールーなのかは疑問だが、ようやく調味料が手に入った事実に比べれば些細な事だ。
一回蓋を閉めて宝箱ごとアイテムボックスに入らないかどうか試してみる。
・カレールーがぎっしり詰まった宝箱×1
どうやら大丈夫なようだ。
今日の探索はこれでお仕舞いにしよう。
1階しか探索してないけど、流石にこの暑さは喉が渇いて、ちょっとキツい。
2階以降の探索はまた明日ということで。
外に出ると、空気を名一杯吸い込む。新鮮な空気が空気が体の中を駆け巡る。
「あ、お帰りなさい。どうでしたか?」
出迎えてくれた、ミラに取り合えず1階は全部まわってきた事を伝える。
それと、中で手に入れた転送水晶も渡しておく。
これで何処に居ても直ぐに集まることが出来るようになった。
「こっちは何かあった?」
「いえ、周りの魔物を退治していただけで、特に何もありませんでした」
それなら良かった。
ミラに今日の夕飯はわたしが作ることを伝える。
久しぶりのカレーだ。ご飯が無いのは寂しいが、それでも楽しみだ。
この世界の冒険者がこのダンジョンに入ったらどうなるか
ランク1~6:1分持たずに干からびる
ランク7、8:蛇に襲われなければ5分は持つ
ランク9、10:蛇に襲われなければ10分は持つ




