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新しい街

 

「××××××××」


 何もない暗闇の中、誰かが何かを言ってるのが聞こえる。

 わたしが気絶してからずっと聞こえてくる楽しそうな、嬉しそうな声。

 姿も見えない、声の調子から男か女かすらも分からない。

 一方的に向こうが話しかけてくるだけで、此方からは何もすることはできない。

 やがて、暗闇の中にうっすらと光が差し込んでくる。

 ああ、夢から覚めるんだ。

 せめて、この何処か懐かしさを感じる声の主を確かめたかったが、それも出来なさそうだ。

 光が大きくなり意識が浮上していく。


「バイバイ、また逢おうね」


 最後にそんな声が聞こえたら気がした。




 目が覚めると、シャルロットの顔が視界一杯に映り込んできた。

 何か夢を見ている気がしたがどんな夢だったのか思い出せない。

 まあ、思い出せないと言うことはどうでも良い夢だったのだろう。


「なに、してるの」

「ぬぉわっ!?」


 とりあえず、未だに顔を接近させたまま固まっているシャルロットに声をかけると、シャルロットは弾かれたように、床を転がってわたしから距離をとった。


「なに、やってたの」

「何もやっとらん!別に、この間、舐めた血が思いの外美味しかったからもう一度、舐めてみようかとか思ってた訳では無いからな!」


 そういえばシャルロットって吸血鬼だっけ。

 吸血鬼だから血を飲むのは当たり前かな。

 とかボーッとする頭で考えながら、アイテムボックスから包丁を取りだし手首に当てる。


「待て待て待て!貴様はいったい何をやってるんだ!?」

「血吸いたいんでしょ?」

「むぐっ」


 シャルロットには、勝手に人を襲わないことを契約に盛り込んでいるので、他の人の血を飲むことが出来ない。

 だから、わたしが飲ませるしか無いのだ。

 今までそれを失念してた。これからは気を付けよう。


「ただいま戻りました。シャルロットちゃん、きちんとマイカさんの看病して……」


 いざ、手首を切ろうとしたところで、手に野菜とかを抱えたセリカが部屋へと入ってきた。


「マイカさんなにやってるんですか!?」

「シャルロットが血を飲みたいって」

「妾はそんなこと一言も言ってないぞ!」


 結局、セリカに包丁を取り上げられ、ベッドに押し戻された。

 シャルロットからは血は好きだが、別に飲まなくても生きていけるから無理して飲ませようとしないでいいと言われた。

 でも、飲みたがっているような気がしないでも無いから、後でこっそり飲ませよう。


「それにしても目が覚めて良かったです」

「急に意識を失ったときは死んだかと思ったぞ」

「実際、一回死んだけどね」

「その冗談はちょっと笑えないですよ」


 冗談じゃ無いんだけどなあ。

 二人としばし談笑していると、二人にきちんと旅の目的を説明していないことと二人の願いを聞いて無いことを思い出した。

 初めはミラとサラの友達目的で買った二人だが、ダンジョンを一緒にまわってから、二人とも、わたしのものだと言っても良い位には愛着が沸いている。

 なら、二人の願いも叶えてやりたい。

 二人になんの為に旅をしているのかり説明すると、どうやら王都で宿屋に泊まった時に、既にミラとサラの二人から聞いていたらしく、二人とも協力してくれると言ってくれた。


 次に二人の願いはなにか無いか聞いてみる。


「妾は強くなりたい。今の所願いはそれだけだな。その為にはこの旅は都合が良い。貴様はせいぜい妾を強くする為に身を粉にして働くが良いさ」

「うん。分かった」


 素直に返事をしたら何故かおかしな物を見るような目で見られた。

 わたし何かおかしいこと言った?


「私は、ミラちゃんやサラちゃんと同じですね。強くなってこの手で困ってる人たちを救いたいです」


 セリカの答えは以前、王都の宿屋で予想した通りだった。やっぱり、セリカは優しい子だ。

 わたしが「まかせて」というとセリカは嬉しそうに笑ってくれた。




 その後、セリカとシャルロットに今の状況を聞くと、ここは王都から南に100キロほど離れた、 アランダの街の宿屋で、あれから2日ほど時間が経過してるらしい。

 その間、交代でわたしの看病をしつつ、依頼で魔物を狩りながら生活していたのだとか。


「ご免なさい」

「いえ、謝らないでください。何時もは私たちが助けてもらってるんですから」

「それは、わたしが、やりたいからやってるだけ」

「でしたら、これも私たちがやりたいからやってるだけです」


 ううむ、そう言われると言い返せない。

 でも、わたしなんかの為にそこまでしてもらって申し訳ない気もするし、後で皆に何かしてあげよう。





 セリカに、今日一日はベッドで大人しくしているように言われた。

 暫く動いて無いせいか、体の感覚が鈍いので、できれば体を動かしたかったが、これ以上心配をかけるわけにもいかないので、今日は大人しくしていることにする。


 そういえば、あれだけ大きなトロールを倒したのだから、皆大幅にレベルが上がってるんだろうな、と思って皆のステータスを見てみたが、スキルは多少上がっているが、レベルにはあまり変化がなかった。


 なぜだろう?

 と考えて、あの部屋に入った時に扉が消えていたことを思い出す。

 恐らく、あの部屋は外とは隔離された空間で、中で起こったことは、外には一切影響が出ないのではないだろうか。


 シャルロットにダンジョンを出るときに何かあったか聞いてみる。

 するとあれだけ激しい戦闘だったのに、何もなかったと返って来たので、この考えは合ってるのだと思う。

 つまり、わたし一人が部屋に入ってボスを倒しても、その部屋にいる人物以外には経験値が行かないということだ。


 流石に、全部があのクラスのボスだとは思わないが、これからもあのクラスのボスが出るとなると、皆を守りながら戦うのはちょっと無理だ。

 基本的には、みんなのレベルが十分に上がったら、皆だけで戦闘をしてもらおうと思ったが、ボスだけはわたしが相手をした方が良いかもしれない。

 そうすれば、皆は安全だし、わたしは強い敵と心行くまで戦える。

 でも、実際に強い敵と戦闘をしないと経験は積めないからなあ……

 どうしようか。


 夕方ごろに依頼をこなしに行っていたミラとサラも帰って来て、皆で夕飯を食べる。

 相変わらず、味気の無い食事だ。皆も王都の宿の食事を食べてから、普段の食事に少し物足りなさを感じてるみたいだ。

 早く調味料の類いを手にいれよう。





 明けて翌朝、わたしたちは街の郊外でそれぞれ武器を構えて対峙する。

 わたしの運動もかねて、ダンジョンで話した通り模擬戦をすると言ったときは、泣きそうな顔になっていたが、いざ対峙するとなると、それぞれ真剣な面持ちで開始の時を待っている。

 わたしが倒れていた2日間で、自主的に連携の訓練とかしてたみたいだから、どれだけ成長したか見せてもらおうか。


 ルールはわたしに攻撃を当てられたら皆の勝ち。10分間逃げきるか、皆が動けなくなったらわたしの勝ちというシンプルなルール。

 コインを指で弾く、これが落ちたらスタートだ。

 コインが地面に落ちる。


「フレイム」


 それと同時に地面から火柱が立ち上る。

 それを後退して交わし、その火柱を突き破りながら、飛び出してきたシャルロットの《アビス》を素手で粉砕する。

 この早さ、二人ともコインが宙にある時点で準備してたのかな?

 卑怯だとは言わない、寧ろそれだけ本気で挑んできてくれるのが嬉しい。


「せいっ」


 そこに横凪ぎに振るわれるセリカの大剣を宙に飛び交わし、ミラの放った矢を素手で掴みとる。

 そこに再び放たれた《アビス》を粉砕し、サラの姿が見えないことに気付く。

 察知スキルを発動し、背後の気配を察知する。

 宙を蹴ってバック転の要領でサラの背後に移動する。直後、さっまでいた場所に剣を降り下ろした状態のサラが現れた。

 今のは確か光魔法の《ミラージュ》かな。

 ここまで見ただけでも、そこそこ連携が改善されてるのが分かる。後は実戦でどうなるかだ。

 皆が成長してるのが分かると、少し楽しくなってきた。ちょっとだけ本気でやってみるかな。





「呼ばれて来てみれば、これはどういう状況なの?」


 死屍累々といった感じで横たわる、4人を見てマリアはひきつった笑みを浮かべる。


「ちょっと模擬戦」


 その言葉で納得がいったのか、今度は同情的な瞳で4人を見る。

 おかしいな、やり過ぎたつもりは無いんだけどなあ。


「それで、冒険者ギルドじゃ無くて、こんな場所に呼び出した理由は?」

「デカイからギルド、無理」

「?」


 実物を見せた方が早いだろう。

 アイテムボックスからオークの死骸、ゴーレムのコア、ポイズンバットの死骸、トロールの死骸と棍棒を取り出す。解体なんて面倒なことはやってない。アイテムボックス内では時間が経過しないので、倒した時そのままの新鮮な状態だ。


「あなた、あのトロールを倒したのね。流石ね、あいつはランク10のパーティーでも倒せなかったのよ」


 どうやら、ダンジョンには極稀にランク以上のボスがいるらしい。

 じゃあそのダンジョンのランクを上げろよって話なのだが、ボス以外はランク通りのダンジョンなので、ランクを上げる意味は無いとか。


「いくらで買い取る?」

「そうね。ゴーレムのコアが完全な状態で取れるって珍しいからその他のも合わせて全部で8000ギルでどう?トロールはちょっとどう使えるか分からないから、保留ってことで」


 相場とか分からないし、まあそれでいいか。

 死骸を特注のアイテム袋に入れるのを手伝う。


「トロールの死骸、一部持ち帰っても良いかしら。何に使えるか調べて来るから。棍棒は大きすぎて持ち帰れないからあなたが持っててちょうだい」

「分かった。それとお願い」


 マリアに錬金術用の道具と皆の分のアイテム袋、それと2本の刀をお願いする。

 驚くことに、巨大トロールを仕留めた時に使った技に耐えられなかったのか、2本目の刀の刀身が消滅していたのだ。なので今のわたしは武器無し、またあのトロールのように打撃無効の敵が現れたら、素手でしか戦う術の無いわたしは何もできない。だから早急に刀が必要なのだ。

「錬金術もできるのね」とマリアに驚かれたが、次に来るときに用意すると約束してくれた。ただ、刀はあまり期待しないでとも言われた。刀を使う人は滅多に居ないので、刀を作れる職人の数は非常に少ないらしい。

 マリアが帰り、街でも見てまわろうと思ったが、4人はまだ動けそうに無いので、皆が回復するまでこの場に残り、トロールの死骸で何か作れないか試してみることにする。


 まずはこの棍棒、

 ・ボストロールの棍棒rank10

 耐久700/1000

 STR+300

 INT-300


 あのトロールの力で振り回して壊れなかったから、耐久はかなりのものだ。性能もこの世界に来てから見た武器の中では一番良い。

 問題があるとすれば、重すぎて誰も持てないだろうということ。

 わたしが持っても重く感じるとは、相当な重さだ。

 結論としては、今の所使い道が無いので保留。


 次はトロールの死骸だ。

 まあ、死骸と言っても肉と皮しか無いんだけど。

 とりあえず肉を食べてみる。うん、不味い。

 状態異常耐性が反応したから多分毒を食らったんだと思う。

 これは使えないかな、いや、罠としてなら使えるかも?

 これも保留。

 次、皮。

 肉から剥がして触ってみると、かなり固い。わたしが裂こうとしても結構力を込めないと裂けないことから、これで防具を作れば、かなりのものが出来ると思う。

 問題があるとすれば、これを加工できる人がいるかどうか何だけど、そこはマリアが何とかしてくれるだろう。

 トロールの死骸を弄っている間に4人は歩けるくらいには回復したようだ。

 さて、とりあえず街でも見てまわりますか。


お気に入り1000件超えました。

ほぼ毎日のように何処かしら修正している、こんな作品を読んでくださってありがとうございます。

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