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アランダの街にて

「本当に何でもありね」


 わたしの作業を見ていたマリアがひきつった笑みを浮かべている。

 昨日約束してくれた通り、マリアはアイテム袋と刀と錬金セットを持ってきてくれた。

 わたしが今いるのは、宿屋の部屋の中。

 そして今はマリアの持ってきた錬金術のセットを使って錬金中……だったんだけど最初の一回で錬金術のスキルを覚えてしまってからは、そのセットは使ってない。


 錬金術のスキルがあれば、アイテムボックスの中の材料を選択して、システム欄から錬金のボタンを押せば、あっという間に出来上がるのだ。更に数回錬成しただけでスキルレベルが100になり、材料さえあれば錬金術で作れるものは、何でも作れる状態になってしまった。

 というわけで出来上がったのはこちら。

 ・解毒ポーションrank6

 そこそこ強力な毒でも解毒できる。

 ・解毒ポーションrank1

 微弱な毒くらいなら解毒できる。

 ランク1の解毒ポーションが7つとランク6の解毒ポーションが3つ。

 わたしの予想通り、毒薬草とポーションで解毒ポーションを作る事が出来た。

 解毒ポーションのランクがポーションのランクに依存してるのは予想外だったけど。

 マリアがいうにはランク6の解毒ポーションは王族や貴族に売ればかなりの金を稼げるらしいけど、これは4人の為に使うため売る気は無い。


 だけど、ランク1の解毒ポーションは半分だけマリアに譲ることにした。

 刀のお礼だ。最もその刀は粗悪品と言っても良いレベルの出来だが。

 もうちょっとマシな刀が欲しかったが、刀を作れる職人は非常に少ないらしいし、これでも良いやつなら仕方ない。


「それで、トロールは」

「そうね。肉は使えないけど、皮は使えそうだわ。もっとも、あれを加工できる職人が今は居ないけどね」


 やっぱり、あの皮を加工できる職人は居ないのか。それでも皮は買い取ってくれるらしいので、トロールの肉ごと押し付けることにした。


「肉は要らないんだけど」

「皮剥ぐ、めんどくさい」


 マリアは嫌そうな顔をしながらも、肉ごと受け取ってくれた。

 買い取り金額は31万ギル。もうこれだけで一年は普通に暮らせるだけの金額が貯まってしまった。旅が終わるまでには、国家予算並の金額は稼いでみたい。



 マリアが帰ったあと、わたしは一人、街の外にある森の中に来ていた。

 他の4人は今、ギルドの依頼を受けに行っている。わたしも最初は一緒に行こうと思ったが、わたしに頼らなくても戦えるようにしたい、この街の周囲はそこまで強い敵はいないから大丈夫だと言うので、渋々諦めることにした。だけど、心配なので一応、察知スキルを全開にして街の周囲を探ったら、この森の中程の場所に200匹程のゴブリンの群れを見つけたので、それを駆逐するためにここまできたのだ。

 わたしとしては別に見逃しても良いのだが、見逃して街が襲われたりすると、皆が悲しむので面倒だが仕方ない。それに襲われても戦うのは結局、わたしたちになるだろうし。

 それにしても、わたしが街にいるときに、こんなイベントが起きるなんて、これも勇者スキルの影響か。



 森の中程で、ゴブリンの群れを確認したところで威圧スキルを全開にする。

 それだけでゴブリンは蛇に睨まれた蛙のように動きを止めてしまう。中にはそれだけで死んでしまう個体もいた。

 雑魚を殲滅するときに威圧スキルは大変便利なスキルだ。

 まあ、あまり使う気は無いけど。

 後は、動きを止めたゴブリンの首をへし折るだけの子供でもできる簡単な作業を繰り返すだけ。

 結局、数分足らずでゴブリンの群れの殲滅は終わってしまった。



「た、助けてくれ」


 そのゴブリンの群れの中には一人の男がいた。

 男は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を恐怖で歪めながらわたしのことを見てくる。

 端から見れば、ゴブリンに囲まれて怯えていた善良な一般市民に見えるだろう。

 でも、わたしの全力の威圧で死なないってことは普通の一般市民というわけでは無い筈だ。普通の一般人がわたしの威圧に耐えられる訳がない。

 となると冒険者かな?もしくはゴブリン?顔がゴブリンっぽいし。


「お、俺ゴブリンに襲われて……」


 まあ、どうでもいいか。察知スキルが反応してるってことは敵だろうし。

 男が何か喚いていたが気にせず男の首を刀で跳ねようとして、寸でのところで、思いとどまる。

 わたしはまだ、この世界の冒険者と戦った事がない。

 ここで1つこの世界の冒険者の実力を試してみるのも良いかもしれない。

 この男がどれだけのレベルかは分からないが、わたしの全力の威圧でも気絶すらしてないんだから、そこそこのレベルはある筈だ。


「勝てば、見逃す」

「……へ?」


 男は武器を持ってないので、アイテムボックスからサラが使わなくなった店売りの剣を取りだし、男の前に放り出す。

 男は訳が分からないという顔で、わたしと剣を交互に見ていが、わたしが視線で促すと、ようやく動きだし、剣を取り構えた。

 しかし、その体は震えており、今にもへたり込んでしまいそうだ。


「左手だけ使う、ここから動かない」

「う、うおおおおお!!」


 このままでは勝負にすらならないので、仕方ないからハンデを与えると、男はようやく決心したのか雄叫びを挙げながら、剣を振り上げ突っ込んできた。


 サラたちよりは速いかな?

 近づいてきた男の胸に、棒立ちのままカウンター気味に軽く拳を叩き込む。

 軽く振ったので、てっきり防がれると思ったのだが、拳は男の左胸にめり込み、骨が砕ける音ともに男の体は後方に吹き飛ばされ、そのまま起き上がってくることは無かった。


「よわ……」


 この条件なら少しは粘れるかと思ったのに、余りに呆気なく終わってしまった勝負に、心底ガッカリする。

 胸が陥没している男の死体に近付き、懐を漁り、ギルドカードに書かれているランクを確かめる。

 書かれていたランクの数字は5、ランク5ででこの弱さなら本当にこの世界の冒険者は弱いんだな。ただ、ランク8以上の冒険者は本当に実力が無いとなれないと聞いたので、今度はそっちと戦ってみよう。

 今は、とりあえず、この死体の山を何とかしなくちゃ。

 とりあえず……


「よし、マリアに押し付けよう」


 こういう時には、マリアは便利だ。素材はいくらでも欲しいと思うし。ゴブリンが何に使えるかは分からないけどね。

 連絡を取ってから10分程で、森の中にマリアがやって来た。


「遅い」

「これでも急いで来たのよ」


 マリアは周りを見回し、ゴブリンの群れの側にいる男の死体を見て、顔をしかめる。


「知り合い?」

「違うわ、顔を知ってるだけ。でも変ね、何でこの男がこんな場所にいるのかしら?たしかミズガルド王国近辺で活動していた筈なんだけど」


 マリアの話によると、この男は指名手配されている犯罪者で、ゴブリンを操る特殊な能力を持っており、その能力を使って色々な街や村を襲っていたらしい。

 そんな能力を持ってるから、顔がゴブリンに似ているのだろうか。いや、もしくは顔がゴブリンに似ていたからそんな能力を持っていたのかもしれない。


「騎士団に報告すれば報酬を貰えるけどどうする?」

「いらない。ゴブリンもあげる」


 騎士団とか貴族とかそういったものに関わると面倒な事になりそうだし。

「私もゴブリンは要らないんだけど……」という言葉を無視し、後処理は全部マリアに任せて、街に帰る事にした。





「あ、お帰りなさい」


 宿屋に戻ると既に皆が戻ってきていた。

 丁度良いので、皆の分のアイテム袋を渡しておく。

 皆は、これで素材を運ぶのが楽になったと喜んでくれた。


「そういえば、いつこの街を出発するんですか?」

「明日の朝」


 わたしの言葉に皆は驚きの声をあげる。

 わたし自身、急な出発だとは思うが、さっきの事もあるし、なんだか色々とめんどくさいイベントが起こりそうな気がするので、なるべく、同じ場所には留まりたくないのだ。


 あっ、そうだ。


「お金、分ける」


 皆のギルドカードとわたしのギルドカードを合わせてお金を均等に別けて受け渡す。

 突然渡された大金にシャルロット以外の皆が、目が点になっている。

 まあ、いきなりこんな大金を渡されたら驚くか。

 皆には、わたしだけがお金を持っていると、またわたしが倒れた時に、困ることになるからと説明した。

 どうやらそれで、皆は納得してくれたようだ。

 その後は、旅の準備をして、夕食を食べて、明日からの旅に備えて早めに就寝することになった。





 その日の晩、皆が寝ているのを確認し、そっと宿屋を抜ける。

 時刻は既に午前3時、辺りに人気は一切無く、街は不気味なくらい静まり返っている。眠い。

 辺りに響く音は、わたしの駆ける音と、何処か遠くから聞こえる犬の遠吠えだけ。

 向かう先は、街の郊外、わたしたちが模擬戦をやっていた場所だ。

 何でこう、出発する直前にイベントが起きるのかな。

 これも勇者スキルの影響?勇者って本当めんどくさい。何でわたしが勇者なんだか……

 こういうのは王様に呼び出された三人組の仕事だろ。


「到着っと」


 そこにはスキルで察知した通り、敵がいた。

 その敵を見て、思わず眉を潜める。


「スキルには???って出ていたからどういう事かと思ったけど、こういうことか」


 それは無数の足を持ち、体からは無数の手が生え、そしてあらゆる所に人の顔を持つ、数十人の人間を丸めて固めて継ぎ合わせたかのような化け物だった。

 何かに作られたような存在。恐らく、名前が無いのだろう。それなら察知スキルのおかしな反応も納得がいく。

 しかも、こんな姿にされても材料にされた人たちが生きてるのが驚きだ。

 その体に書かれているのは魔方陣か、察知スキルでも他に誰も反応が無いことから、恐らくは長距離からの転移でこれを送り込んで来たのだろう。

 全く、これだけの事ができる魔法使いなら、こんなことしてないでダンジョン攻略をやってれば良いのに。


「ふっ」


 短く、息を吐いて、怪物の胴体に蹴りを叩き込む。

 怪物は結構タフなようで、数十メートル後方に飛ばされたが、それほど堪えた様子は無い。

 いや、蹴り飛ばした際に、材料が一人死んだから、少しは効果があるのだろう。

 その死んだ材料を見た、他の材料が次々に怨嗟の声をあげはじめる。

 煩いので威圧を全開にして黙らせようとしたが、効果がない。

 威圧は雑魚狩りや人相手には便利だが狂っていたり、強い敵には効かないのが難点だ。


 怪物がその巨大な身に似合わぬスピードで迫ってくる。

 しかし、それもわたしにとっては遅いスピードだ。

 突撃してきた怪物を交わし、カウンターで蹴りを叩き込む。

 怪物はまた吹き飛ばされるも懲りずにまた突撃してくる。

 何度も何度も懲りずに突撃を繰り返す。

 まるでそれしか出来ないみたいだ。


 もしかしてこいつ知能が無いんじゃないかな?


 どうやら、その考えは正解だったらしく、それからも怪物は突撃を辞めることは無かった。

 怪物が突撃する度に、材料に蹴りを叩き込み、1つずつ潰していく。

 それを繰り返すほど、数十度、ようやく全ての材料を潰し終わって怪物は動きを止めた。


 死んだのかと思ったが、どうにも様子がおかしい。

 怪物の体が少しずつ膨らんでいるような……


「まずっ」


 わたしの考えが正しければ、このままでは大惨事になりそうだったので、慌ててアイテムボックスからトロールの棍棒を取りだし、バットを持つかのように構える。


「ふっ」


 怪物の胴体にフルスイングで棍棒を叩き込み、怪物の体を遥か遠くに打ち出す。

 やがて宙に浮いた怪物の体は轟音と共に爆発四散し、夜空を明るく照らす程の巨大な太陽を産み出した。


「危なかった」


 まさに間一髪、あのまま地上で爆発していたら間違いなく街を巻き込んでいただろう。

 街の連中はどうでも良いが、皆に被害があったら大変だ。間に合って良かった。


 人が来る前に、宿屋を抜け出す時に手に入った隠密スキルを使い、こっそりと宿屋に戻る。

 何故、あの怪物がこの街に送り込まれたのかは分からない。

 だが、勇者スキルがあるかぎり、これからも今回のように、面倒な事が起こることだけは間違いないと確信できた。

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