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初ダンジョン②

評価・お気に入りありがとうございます

 地下に降りると察知スキルと探索スキルを全開にして、周囲を伺う。

 地下の構造までは分からないが、かなり遠くまで敵の反応があったことから、相当の広さがあることが伺える。

 敵はそこそこ居るが、罠がないだけましか。

 サラに、スキルを伸ばす為に常に察知スキルを展開しておくように言い、1列になって進む事にした。



 少し進むと敵の魔物が見えてきた。

 ポイズンバットという魔物で、小さいコウモリのような外見をしていて、一見、弱そうに見えるが、その牙には1噛みするだけで人を死に至らしめる猛毒をもつ危険な魔物だ。


 流石にこれは、状態異常耐性を持たない4人には任せられないので、わたしが刀で両断する。

 死体をアイテムボックスに入れ先に進むと、探索スキルに反応があった。


 反応があった場所で周りの壁に手を当ててみると、 そこが隠し扉になっていることが分かった。

 中に入ってみると、部屋の中央には宝箱がある。

 罠の類いも無さそうなので普通に開ける。


 破魔の剣rank4

 耐久350/350

 STR+32

 アンデット系の魔物に大ダメージ


 アイテムボックスに入れてないのに、詳細な情報まで全て表示される。

 いつの間にか鑑定スキルが大幅にレベルアップしてるし。

 これも成長促進スキルの恩恵か?


「サラ、これあげる」

「えっ、良いんですか」

「剣はサラしか使わないし」

「ありがとうございます!」


 剣をサラに渡し、部屋を出る。

 これでオークの大剣を装備したセリカと共に、サラも前衛をできるようになった。

 この先にゴーレムが1体居る。

 ちょうど良い、こいつで連携の訓練でもしてみるか。

 

「皆、聞いて」


 この先にゴーレムが一体居るので、それを4人だけで倒すように言う。

 ゴーレムは1度倒しているので、4人ともわたし抜きでの戦闘に不安は無いようだ。

 和気藹々とどうやって倒すのかを話し合っている。

 うーん、自分で提案しといてあれだけど、ちょっと心配だ。




「ちょっ、何であんたが前に出るのよ!」

「ええい、うるさい!貴様らがあれの動きを止められないから、当たらないんだよ!」

「二人とも喧嘩は、きゃっ」

「セリカさん大丈夫ですか!?」


 予想が的中し、戦闘は阿鼻叫喚の大混乱。

 戦闘開始直後は、セリカとサラの前衛に、後衛のミラとシャルロットという風にバランスの良い陣営で挑んで居た。

 作戦としては、サラとセリカでゴーレムの足止めをしているうちに、シャルロットの魔法とミラの矢でゴーレムのコアを砕く予定だったのだろう。

 しかし、サラの筋力ではゴーレムに傷をつけることができず、結果、ゴーレムはサラを殆ど無視する形で、セリカとゴーレムが真っ向から打ち合う事になる。

 セリカも流石にゴーレムの攻撃を何度も受けられないのか、ゴーレムとまともに打ち合わずに、攻撃を避けたり受け流したりしていたが、防衛ばかりで足止めができるはずも無く、シャルロットの放つ魔法は、ゴーレムに寸での所で交わされ、ゴーレムの顔面を一部砕くに止まる。

 そこでミラが矢を放つが、動きの止まってないゴーレムは、その程度の矢は簡単に避ける。

 それを2回ほど繰り返したところで、シャルロットが痺れを切らして前に出る。それに気を取られたセリカが吹き飛ばされて、今の状況になる。


 吹き飛ばされたセリカは受け身もとってたし、ミラが魔法で治すから大丈夫だろう。

 戦闘に関しても二人はレベルさえ上がれば大丈夫な筈だ。

 問題は……


「邪魔だ、退け!」

「そっちが邪魔よ!」


 互いに罵りあいながら、ゴーレムの攻撃を必死に避けているこの二人だ。

 シャルロットとサラもゴーレムの攻撃を避けながら、魔法を使おうとするが、攻撃を避けるのに必死になりすぎて、集中することが出来ていない。

 たまに拳と剣で攻撃を仕掛けるも、シャルロットの拳では多少傷がつくが、ゴーレムはコア以外の部分は瞬時に修復してしまうため、ダメージはゼロ。サラの剣は傷1つつけられない。


「ここまでかな」


 この調子じゃ、倒すのは無理だろう。

 このダンジョンを出たら、少し特訓が必要かな。

 わたしはゴーレムと二人の間に割り込み、ゴーレムの額からコアを抉りとる。


「喧嘩はダメ」

「「こいつが悪い(んです)」」


 はあ、全くこの二人は……

 また、いがみ合い始めた二人は放っておいて、セリカとミラの方に歩み寄る。


「セリカ、大丈夫?」

「はい、ミラちゃんが治してくれましたので。ありがとうね、ミラちゃん」


 ミラはセリカに頭を撫でられて嬉しそうだ。

 セリカに怪我が残ってないことを確認したので、喧嘩している二人を引き摺って、皆を1ヶ所に集める。


「とりあえず、ここの敵はわたしが全部倒す」


 流石にさっきのゴーレム戦で力不足を痛感したのか、皆して沈痛な面持ちを浮かべて、頷く。

 わたしが前衛に入って5人で戦っても良いが、わたしに頼ってばっかりだと皆の戦闘技術も上がらないので、止めておく。

 皆には……特にサラとミラの二人にはもっと強くなって貰わないと、世界平和なんて夢のまた夢だ。

 

「それと、ダンジョンから出たらわたしと模擬戦」


 その言葉に、何故か皆の顔色が絶望に染まる。


「いや、無理ですって!」

「マイカさんの攻撃が当たったら体が弾ける気がします」

「うう、この命はマイカさんに預けたもの。マイカさんに殺られるなら……」

「流石に妾も貴様のようなばけも、いだっ!?」


 失敬な、ちゃんと手加減するし。

 その言葉に、転がっている一名を除き、安堵の表情を浮かべる。

 むう、わたしってそんなに怖いのかな。

 今までも優しくしてたけど、これからは、更に優しくなろう。



 というわけで探索を再開する。

 ここで出る敵は、ポイズンバット、ゴーレム、武器無しのオークの3種類だけなので、戦闘は非常に楽だ。


 地下への階段は探索を再開して、割と早く見つかったが、まだダンジョンの半分も探して無いので、探索を続行する。

 その結果、

 ・毒薬草rank3

 食べると毒にかかる

 を10束と、

 ・力の腕輪rank4

 STR+11

 を宝箱から手に入れた。腕輪はセリカに渡し、毒薬草は後で錬金術の材料にする。

 多分、これとポーションで解毒ポーションが作れると思うから、状態異常に耐性が無い4人のた為になるべく早く作らないといけない。ここから出たら、マリアに錬金術のやり方を聞いてみよう。


 しかし、何故このダンジョンがクリアされて無いのだろうか。

 正直敵のレベルが低すぎて、そこそこの強さを持つ冒険者パーティーなら、罠にさえ気を付ければ直ぐにクリアできると思うんだけど。

 そんな事を考えながら地下への階段を降りると、階段の先に扉があった。

 扉を開く、閉める。


 ……なんか凄いのが居た。


 それを見た瞬間このダンジョンが未だにクリアされていない理由が分かった気がした。

 と、同時にこのダンジョンをランク6に設定したギルドは頭がおかしいと思った。

 理由は何となく分かる。多分この場にたどり着けるギリギリのランクが6なのだろう。ダンジョンのランクはそのランクの冒険者が入って、生きて帰れるランクらしいし。ランク6というのは、この場に来れる冒険者のランクなのだろう。そしてここで誰もが引き返すのだ。その結果、このダンジョンは誰にもクリアされずに残り続ける。


「入らないんですか?」

「うん、皆は入らない方がいい」


 ちょっとこれは、駄目だ。皆は連れていけない。

 あれと戦いながら皆を守りきれる自信は無い。

 何時もより真剣に、決して中に入らないように告げる。いや、多分あれとの戦いはかなり激しいものになると思うから、もしかしたらこのダンジョン全体が危険かもしれない。


「ゴメン、やっぱり先に出てて」


 わたしの真剣さが伝わったのか、何時もは色々言ってくるシャルロットも黙って頷いてくれた。

 4人が戻って行くのを見送って、扉を開き、そいつを見る。


 そこに居るのは黒いトロールだ。

 だが、良くファンタジー小説やゲームで見るようなやつではない。


 体長約10メートル、幅も5メートルはあるだろうか。

 今までゲームで見てきたトロールがかわいく思えるほど、巨大なトロールがそこにはいた。

 見ただけで、強そうだというのが分かり、自分の中の気持ちが昂ってくるのを感じる。


「ふう……」


 息を吐き、昂っていた気持ちを一旦心を落ち着かせる。

 敵は相当鈍いのか、まだ此方に気付いて無い。

 ならば、気づく前に一撃で蹴りを付ける。


 刀に手をやり。

 足に全ての力を注ぎ込み。

 そして跳ぶ。

 狙うは首。

 敵はまだ気づかない。

 刀が首に触れる。

 肉を裂く感触。

 殺った。

 そう確信した。


「アァ?」


 首の5分の1を切断したところで、急に手応えが無くなった。

 何が起こったのか直ぐに分かった。

 刀が耐えきれずに折れたのだ。

 そして、トロールがわたしに気づいた。

 トロールの首がぐるりと後ろを向き、わたしをその目で捉える。

 その顔が醜く歪む。

 その瞬間、わたしは咄嗟に宙を蹴って更に後方に離脱する。

 間一髪。

 さっきまで、わたしがいた場所を巨大な棍棒が通過する。

 だが、それでトロールの攻撃は終わったわけでは無い。

 振り抜いた棍棒が部屋の壁を破壊し、その破片が散弾のように降り注ぐ。

 もう奥に移動するスペースは無い。

 ならば戻るしかない。

 石の散弾のが降り注ぐ前に全速でトロールの股下を駆け抜ける。

 トロールの背後にまわったところで、地を蹴り、トロールの頭上へ跳び上がり--

「はっ!」

 --高速で回転して勢いをました踵落としをその後頭部に叩き込む。


「グァ!?」


 トロールは短い悲鳴を上げ、轟音を響かせて地に沈んだ。


「よし、勝った」


 あまり苦戦はしなかったけど、この世界に来て、間違いなく一番の強敵だった。

 これからもこんな敵と戦うことになるのか。元々戦闘が目的で《IDO》を始めようとしていたので、それはかなり楽しみだ。





 油断だった。

 今まで楽に敵を蹴散らして来たからこそ起きた油断。


「えっ」


 左側から迫るトロールの棍棒。

 咄嗟に左腕で受けるも吹き飛ばされて、壁に叩き付けられる。

 左腕に激痛が走る。

 間違いなく左腕が砕けた。

 だが、その瞬間、自動回復のスキルが発動し、左腕の骨が元通りに治る。これだけの傷が一瞬で治るなんて、このスキルもチートなのか。

 しかし、痛みは消えない。

 左腕の激痛に耐えながら、何が起こったのか把握する。


 トロールがうつ伏せの状態で棍棒を振るったのだ。

 そのトロールは今にも起き上がろうとしている。


「--っつ!」


 駆ける。

 トロールが起き上がる前にその顔面を蹴り上げる。

 そのままトロールの背後にまわり、後頭部を思いっきり蹴り飛ばす。

 トロールは部屋の最奥の壁に激突し--

「参ったな、これは」

 --何事も無かったかのように立ち上がった。


 わたしの蹴りが効いた様子は全くない。

 多分、あのトロールには打撃が効かないのだろう。

 そして恐らく、最初に斬りつけた時の感触から、斬撃にも……というか物理攻撃全般に耐性があるのような気がする。この刀で普通に斬りかかっても、耐性を抜いて致命傷を与える前に、刀の方がもたない。


 逃げようにもこの部屋に入った瞬間、入口の扉は消えてしまった。

 出口は無い。


「これは、本当にヤバイかも」


 一応1つだけアイツを倒せる技はある。

 それは自身のSTRと全てのMPを合わせた数値のダメージを、耐性、防御を無視して視界内にいる全ての敵に与える、刀スキルの技だ。

 耐性や防御を無視できるこの技なら、トロールを倒しきる自信はある。

 だが、この技を使うには問題がある。

 刀に手をやり、腰を落とした、居合いのポーズを10秒間維持し続けなくてはならない。

 更に、動いたらその時点で技は失敗、発動しても未発動でもMPが空になる。《IDO》の敵はHPが高い為、たいして効果がないという、ゲームでは滅多に使われることが無い技だ。

 だが、この世界にHPという概念は無い。不死身や回復能力でも無い限り耐性等を無視できるなら、切り裂ける筈だ。流石にバラバラにしてやれば回復能力が無ければ死ぬだろう。

 首の傷が治ってないことから、あのトロールに回復能力が無いことは分かっている。

 後の問題は、どうやって10秒間耐えるかだ。

 試しに威圧を全開にしてみるが、効いた様子は無い。

 ならば方法は1つだけだ。


「気合いで耐えるしか無いか」


 1つ頬を叩き、気合いを入れて、構えをとる。

 10、9、トロールが棍棒を振りかぶる。

 8、棍棒によって再び左腕が砕ける。吹き飛ばされそうになるのを歯を食い芝って堪える。

 7、砕けた腕が治る。

 6、今度は正面から蹴りが来た。

 5、刀を握る右腕と多分肋骨も逝った。痛みで感覚が鈍くなっている。でも踏ん張る。刀は離さない。

 4、3、傷が治った。再びトロール が棍棒を振りかぶる。

 2、棍棒が来た。狙いは頭。頭はちょっと不味いかも。頭が吹き飛ぶ感覚がして、意識が飛ぶ。

 1、意識が戻ってきた。多分、今の死んでたのかも。頭がめちゃくちゃ痛いし。それに流石に死んだのは不味かったのか、意識が朦朧とする。でも……耐えきった。

 0--

「無影一閃」

 --放つは只一閃。だが、その一閃は無数の影を纏い距離も防御も関係無く、範囲内の敵を全て切り刻む。


 トロールの体に線が刻み込まれる。腕に、足に、胸に、頭に、ありとあらゆる場所に線が走り、そして……断末魔の叫びすら上げることなく、何が起こったのか分からないまま、トロールの体はバラバラに崩れ落ちて逝った。


 それを見届けたわたしは、その場で仰向けに倒れこむ。

 死ぬかと思った。というか、間違いなく一回死んだ。

 全身がいたい。意識が朦朧とする。MPが空になり、体に力が入らない。もう動けない。

 何でこんなの居るんだ。初ダンジョンでこんなのと戦うとか、これも勇者スキルの影響か?

 でも、楽しかった。これだけの強敵と戦えるなら少しは勇者スキルに感謝しても良いかな、という気分になる。

 

 そんなことをボンヤリと考えていると、ボス部屋がゆっくりと光に包まれていく。その眩しさに思わず目を瞑る。

 やがて光は収まり目を開けると、夜空が目に入ってきた。


 外か、結局、調味料は手に入らなかったなぁ。

 あれ、そういえば、ダンジョンにはコアがあるって聞いたけど、ダンジョンのコアって取ったっけ?


「マイカさん!?」

「ちょっ、どうしたんですか!?」

「血だらけじゃないですか!?」

「ぬおっ、何だこのばかでかい化物は!?」


 心配する皆に大丈夫だと伝えると、「どこが大丈夫なんですか!」と何故か怒られた。解せぬ。

 体に傷は無いが、痛みと疲労で体が殆ど動かせないので、セリカとサラに肩を貸してもらい、 トロールの死体に触れ、アイテムボックスに入れる。

 それで限界だった。意識が次第に薄れていく。

 最後に馬車に、次の街に向かうこと、次にわたしが命令するまでは皆の言葉に従うこと、と命令したところで、わたしの意識は闇に飲まれていった。

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