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初ダンジョン①

 ダンジョンと聞いて、思い浮かべるものは何だろうか。

 天に登る塔か、深淵へと続く洞窟か、神秘を携えた遺跡か、そういった普通に暮らしていてる一般人では決して見ることは無いだろう、何があるか分からないロマンに溢れたものを、普通は思い浮かべる筈だ。


「どうかしましたか?」

「うん、大丈夫」


 心配するセリカに大丈夫だと告げ、現実逃避から立ち返りしっかりと目の前のソレを見る。


 ドアだった。

 地球の何処にでもあるような玄関のドア。その扉にはランクを表す"6"の字が大きく描かれている。

 裏に回って見ても何もない。その周りにも何もない。ただ玄関のドアだけがポツンと草原の中に置かれていた。


「これがダンジョンの入口?」

「はい、そうですよ」


 ……何だろうか、このガッカリ感は。

 まあいい、こんな見た目の入口でも、中身は普通のダンジョンなのだろう。

 中には何があるから分からないから、気を引き締めて行かないと。


「何をしている。行かないのなら妾が先に行くぞ」


 そう思って、気を引き締めている隙に、シャルロットが先にドアを開けてしまった。

 シャルロットの額に銀色に光る何かが迫る。

 わたしの体はそれが何かを考える前に動いて、気付いたらその物体を素手で掴みとっていた。


「ん?うおお!?貴様、何時の間に!?」

「下がって」


 驚くシャルロットを後ろに押し退け、察知スキルを発動し、この矢の投擲者が居るかどうかを確認する。

 しかし、察知スキルで確認しても矢を投擲できるような敵は見付からない。

 恐らくこれは、このダンジョンのトラップなのだろう。

 なんという初見殺し……一体何人がこのトラップで死んだのだろうか。


「ミラ、これあげる。皆、わたしの後ろについてきて」


 掴みとった矢をミラに渡し、わたしを先頭にして一列になり、慎重にダンジョンに入る。

 ダンジョンの入口は一本道で、人一人がギリギリ通れる位の広さしか無く、武器を振り回す事が出来ないので、刀は使わずに、暫くは素手でいく。

 どういう訳かは分からないが、灯りが無いのに、扉を閉めても中は完全な暗闇では無く、視界は悪いが20メートル先くらいは見えるくらいには、明るい。何があるか分からないので、察知スキルを常に発動しながら、先を進む。


「そこの床、トラップだから踏まないで」


 時おりあるトラップに注意しながら真っ直ぐ進み、暫く進むと、狭い一本道が終わり、広い場所へと出ることができた。どうやらここは遺跡タイプのダンジョンみたいで、広い場所へと出ると、石でできた周りの壁に灯りが埋め込まれていて、視界に困る心配は無い。

 その場所の真正面には、小さな穴が空いている。

 恐らくここからさっきの矢が出てきたんだろう。

 ここまで着くのに大分距離が合った筈だ。一体どれだけのスピードで発射されたのだろうか。


「道が二手に別れていますね」

「どっちに行きますか?」


 察知スキルで両方の道を調べてみる。

 右は敵が多いが、罠の類いは1つだけ、左は逆に敵が1体で罠が多い。

 恐らくどちらかが行き止まりなのだろうが、察知スキルではそこまでのことは分からない。

 察知スキルで分かるのは、敵の存在と種類、それと罠の類いと採取ポイントだけだ。

 隠し扉や宝箱を見つけるには探索スキルが必要だし、良い採取物を手に入れるには採取のスキルが必要なのだ。


「サラはどっちに行きたい?」

「えっ、私が選ぶんですか!?えっとじゃあ、右で」

「ん、了解」


 正直どっちでも何とかなりそうなので、適当にサラに選んでもらう。

 罠を踏まないように、入ってきた時と同じように、わたしを先頭に通路を1列になって歩く。

 この通路の罠は数が1つしかなく、それも踏まなければ発動しないタイプの罠なので、罠の位置さえ分かればそれほど心配する必要は無い。

 通路を抜けると、左右に3体づつの騎士の形をした石像が並んでいる部屋に出た。


「む、あれは宝ではないか」


 その部屋の奥には宝箱があり、それを見つけたシャルロットがわたしの前に出そうとするので、その首根っこを掴み、引き留める。

 蛙が潰れたような声がしたが、このまま進んでいればその程度では済まなかったので、これくらいは我慢してほしい。わたしの前に出ずに周りを見るように、皆に言う。

 その光景を見た皆が息を呑む。

 部屋の壁は、何かがぶつかって壁が崩れたような跡が無数に存在し、その下には、白骨化した死体が転がっている。

 その死体は1つの例外も無く、骨が砕けてバラバラになっていた。


「皆、下がってて」


 わたしの言葉に全員が下がり、わたしは逆に一歩前に出て部屋の中に入る。

 それと同時に6体の騎士の石像が動き出す。

 あの刀じゃ、斬ったら折れそうだから、今回は刀は使わない。

 ゴーレムの体長は約2メートル。その額の中心には、わたしたちが使ってるゴーレム馬とは色が違うが、拳大の青い珠が埋め込まれている。

 あれがゴーレムのコアなのだろう。

 恐らく、あれを取り除けば、ゴーレムは止まる筈だ。


 剣を振り上げた左手前のゴーレムの懐に飛び込み、その額からコアを抜き取る。あと5体。

 その後ろのゴーレムが前のゴーレムごと叩き潰そうとしてきたので宙を蹴って交わし、右側に居たゴーレムを額から股下まで、踵落としで蹴り砕く。あと4体。

 左側から振り下ろされた剣を掴みとり、その剣ごと別のゴーレムに投げ飛ばす。ぶつかり合ったゴーレムは両方ともコアが砕け散り、砂に還る。あと2体。

 残った2体のうち、近くに居た方のコアを素早く抜き取る。あと1体。


 これなら大丈夫かな?


「サラ、シャルロット、わたしが押さえる。魔法で攻撃。ミラも弓で狙う」


 残りの1体は皆のスキルを育てる為の生け贄となって貰おう。

 わたしの言葉に二人が魔法を使うために集中する。

 シャルロットは「我が……」とか「漆黒の……」だとか中二臭い詠唱をしているが……うん、聞かなかったことにしよう。だからミラもそんな引かないであげて。本人は至って真面目なんだから。


「フレイム」

「アビス!」


 二人の魔法が炸裂する。地面から立ち上った炎が体を焼き、追尾機能のある闇の弾が正確にゴーレムのコアを撃ち抜く。

 しかし、二人のレベルではゴーレムの体に僅かにヒビを入れる事しかできない。だが、その攻撃にゴーレムが一瞬動きを止め、このダンジョンに入った時に渡した矢を弓につがえたミラが、そのゴーレムのコアを射抜く。それでコアにヒビが入る。


「セリカ」

「はい!」


 そこにセリカが飛び込み、ハンマーを大きく振りかぶり、全力で叩きつけた。

 そして、硝子の砕けるような音がして、ゴーレムのコアは砕け散った。


「お見事」


 4人は初めて巨大な魔物を倒したことに、手を取り合いながら喜んでいる。

 近くに敵は居ないので、4人はそのままにして、わたしは奥の宝箱を開けに行った。

 宝箱を開けると、中から出てきたのは3つのポーションだった。


 ・????rank?

 ?????


 中に入っていたポーションを見たとき、アイテムボックスに入れてないのに、アイテム名と効果のようなものが見えた気がした。

 もしかして、と思い、スキル欄を見てみると"鑑定"と"探索"のスキルが増えていた。

 効果や名前が見えないのはまだスキルのレベルが低いからだと思う。

 4人のスキルも何か増えてないかと思ったら、ミラが"弓"と"鷹の目"というスキル。

 サラが"察知"のスキル。

 シャルロットは"詠唱魔法"だとかいうスキルを覚えていた。効果を読んでみると、魔法を使うとき詠唱を行うことにより、威力を増大させるだとか。シャルロットらしいスキルだ。


 宝箱から出たポーションをアイテムボックスに入れて、効果を見てみる。


 ・ポーションrank6

 あらゆる外傷の治りが若干速くなる。


 やはり当然だが店売りのやつより、ダンジョンの宝箱から出る奴の方が、性能が良い。


 ゴーレムのコアの破片を回収し、4人と共に隠し部屋が無いかどうかを調べる。

 30分ほど探したが見つからず、今度は反対の道を行ってみることにした。




「惨いですね」


 反対側の通路にもさっきの部屋と同じように、白骨化した死体が散乱していた。

 違うのはその死因で、さっきの部屋の死体は骨が砕かれていたのに対し、此方の死体の死因は、全て側頭部に刺さった矢によるものだ。


「ちょっとここで待ってて」


 察知スキルで罠の位置を調べる。

 数は全部で10。全ての罠の近くで、死体が矢を受けて転がっているから、全部ダンジョンの入り口でかかった罠と、同じ罠だろうと予測する。

 丁度良いから、ここで武器の補充をしておこう。

 手近な罠をわざと踏み、発射された矢を掴みとる。

 それを全ての罠で同じように、繰り返す。

 罠は1度発動すると、暫くの間は発動しないようで、この通路はもう安全だ。

 通路の先の部屋に居るのは、大剣を装備したオークが一体。それが地下への階段を護るように立っている。

 わたしの姿が見えてるのに襲って来ないのを見ると、この部屋に入らない限りは安全なのだろう。


 さて、どうするか。

 敵は一体だけなので、わたしがオークを押さえて、4人に攻撃を任せても良いのだが、さっきの戦闘でセリカのハンマーはゴーレムに全力で叩きつけた事により半壊状態だ。

 間違いなく、あと一撃で壊れる。このランクのダンジョンでは店売りの武器は使うのは止めた方がよさそうだ。

 アイテムボックスに入れて修理コマンドを使い直してもいいのだが、どうせ直してもすぐに壊れるだろう。

 となると、セリカは見学で、わたしが敵を引き付けてる間に、他の3人で部屋の外から遠距離攻撃をしてもらおうかな。

 4人を呼び寄せ、持っていた矢をミラに渡し、作戦を伝える。見学を命じられたセリカはしょんぼりしているが、こればっかりは仕方ない。


 わたしが部屋に入ると同時に、オークが大剣を抜き、雄叫びを上げながら襲いかかってくる。

 今回も刀は使わず素手でいく。


 オークが突っ込んでくるのに合わせて、軽く蹴りを叩き込む。

 吹き飛ばされたオークはその衝撃に持っていた大剣を手放してしまう。


「フレイム」

「アビス!」


 そこにサラの魔法と、シャルロットの魔法が飛んでくる。

 しかし、オークは雄叫びでシャルロットの魔法をかき消し、サラの放った火柱は全く気にせずに、再び突っ込んでくる。

 このオーク火に耐性を持ってるのか?


「サラ、違う魔法」

「はいっ」


 突っ込んできたオークを蹴り返し、オークが転がってる隙に、大剣を拾い上げ、セリカに渡す。


「これ使って、わたしと前衛」

「えっ、あ、はいっ」


 ちょうど良い武器が手に入ったので、セリカにも戦ってもらう。セリカの身の丈程もある大剣だが、セリカの筋力なら両手でしっかり持てば大丈夫だろう。


「アビス!」

「ウインドカッター」


 再び放たれた魔法を、オークが雄叫びでかき消そうとしたが、そこで放たれた矢が、口を開けたオークの口内に突き刺さる。

 痛みに悶えるオークの胸に、サラの放った空気の刃が切れ込みを入れ、シャルロットの魔法が胸の肉を抉りとる。


「やあっ!」


 その胸の傷にセリカが大剣を根元まで突き刺す。

 これでまだ動くようだったら、わたしが仕留めるつもりだったが、どうやらオークはその一撃で絶命したようだ。


 しかし、想像以上に4人の成長が速い。1度4人のステータスを確認してみる。



 サラLv27才能9


 スキル

 ・魔法《火》Lv8

 ・魔法《風》Lv3

 ・魔法《水》Lv1

 ・察知Lv2


 ミラLv24 才能9


 スキル

 ・魔法《光》Lv1

 ・料理Lv3

 ・弓Lv5

 ・鷹の目Lv5


 セリカLv26 才能8


 スキル

 ・鍛冶Lv5

 ・ハンマーLv8

 ・回避Lv3

 ・大剣Lv2


 シャルロット・アリステルLv20 才能10


 スキル

 ・魔法《闇》Lv4

 ・飛行Lv5

 ・自己回復Lv1

 ・格闘Lv1

 ・回避Lv1

 ・詠唱魔法Lv3


 大分レベルが上がっている。

 これなら、相手によっては4人に任せても良いかな。

 しかし、何故4人ともわたしと同じように行動しているのに、探索のスキルを覚えないのだろうか。

 もしかして、それぞれに覚えられるスキルと覚えられないスキルがあるのか?

 これから色々と検証してみるか。


「あの、これどうやって解体するんですか?」

「この豚の解体なんぞ、妾はやりたくないぞ」


 そういえば、オークってどの素材が売れるんだろうか。

 通信符でマリアに聞いてみようとするが、ダンジョンの中では使えないのか、繋がる気配が無い。

 仕方ない、死体ごとアイテムボックスに入れて持ってくか。


 わたしが持ち上げた死体が突然消えたので、驚くセリカとシャルロットにわたしの魔法だと説明する。

 セリカは感心したように、凄いと言っていたが、シャルロットはどこか納得がいかないようだ。

 説明しても、納得しないと思うので、シャルロットはそのままにして、部屋の探索を始める。

 しかし、部屋の中には特に何も無く、休憩を挟んで地下への階段を降りることにした。

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