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図書室ピアス  作者: 羽野トラ
ニチジョー
22/57

ナンパ3

「よッ、元気ぃ~?」


「え?あ…タキさん?」


昨日言われた通りに図書室で僕はタキさんを待っていた。カウンターで椅子に座り、ぐるぐる回っていたら来観者が見え、流れる景色を止めてふらつく頭で扉の方向に目を向けると、手を挙げ軽い調子を醸すのはあの人間宮。


…と、その隣にタキさん。


間宮ってセンパイは僕にした挨拶にタキさんの名前を出して返すからきょとんとした表情を浮かべて僕らを前後に見比べた。


「何、タキ知り合いなの?」

「おう」


タキさんの肩に腕を回して間宮は(センパイ、と言うのが躊躇われる)「じゃあ知らねえフリしてないで紹介しろよー!」と憤慨した。

どういうことなんだろう。

間宮センパイはタキさんの友達?

タキさん友達いたっけ。

じゃあなんで昨日名前出した時、なんも言わなかった?


不鮮明で、何も語らなかったタキさんに対してもよく分からないもやもやが渦巻く。

「知らないフリ」ってなんだろう。他人のフリでもしてたのか。


僕の知らない、間宮と話す時のタキさんの無愛想さがこわい。


タキさんは優しいはずなのに。


疑念を抱え、不審の眼差しを両者に向けるとタキさんは苦笑した。

その理由を知ったのは、すぐ。



「間宮」

「あーん?なによ」


タキさんが間宮センパイを呼び、組んだ肩をぐっと引き寄せた。カウンターの前で、僕の目の前で、コワモテな二人の顔がくっついた。間宮さん(センパイ、て言いにくい)は硬直し、タキさんは眉をひくつかせている。

カウンター側からじゃなきゃ二人の様子は密着してるとしか思えないものだからまばらにいる人たちが気にする様子はないんだけど。


「…はっ…」


げほ、と咳き込む間宮さん。

口を拭いタキさんを怒鳴りつけようとこめかみに青筋をたてた、その瞬間に。



「このコ俺のだから」



同じように口を拭い

タキさんが。

あのタキさんが。


「は?」


「だから、俺の。手出さないで」


間宮さんはぽかん、とした数秒後、図書室内に響く大迷惑な大声でハアアァ?!と叫んだ。





『ねえ、カレシいんの?』


間宮さんの第一声目は、そんな失礼な台詞。


そうして今、僕、僕の恋人、僕狙いらしかった人…三人でいるこの図はなんなんだろう。


「タキ!テメェ知ってたな、オレを馬鹿にしてたろ?!」

「こんな事になるなら阻止してた、喋ってた」

「くっそ!アホ!」


ガン、と近くにあった椅子を蹴り飛ばしたので止めて下さい、と注意しようとしたらその前にタキさんが間宮さんを殴っていた。


「物にあたんな」

「イッテぇぇー!」


タキさんがガンつけると怖い。

本気でこわい。

蛇に睨まれた蛙の気分だ。

間宮さんはその気分をきっと味わってる。


「で、心だよね」

「…はい」


持ち直し、僕に向き直る。

間宮さん立ち直り早!


正直僕は人見知りだ。間宮さんみたいな馴れ馴れしいのは苦手だ。

…タキさんとの出会いも何とも言えないものだったけど。


「タキがいない間、寂しかったらオレんとこきなよ」

軽口を叩く間宮さんにタキさんが一睨み。少し嬉しくなる。

「…いらないよな?」


な?ともう一つつけてタキさんが僕の頭を撫でた。

間宮さんの前なのに家にいる調子で、しかも思いもかけずめちゃめちゃ優しい顔してて。

――男どーしでイチャついてんの、人に見せるなんて。

人前での気恥ずかしさと場所をわきまえないタキさん。怒りたいのに間宮さんにしたキスが僕のためだってわかってるから強く言えない。


「…もうやだ」


つぶやいて顔を覆うと、タキさんの情けない声と間宮さんの「オレんとこ来いって」という台詞がかぶって降ってきた。


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