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図書室ピアス  作者: 羽野トラ
ニチジョー
21/57

ナンパ2

「タキさん、来て」


『どうしたの、今どこ』


「……マンションの前」



学校が終わってからさっきの人のことを聞こうと思いタキさんちに向かっていた。電話でもよかったんだけどこの事を話すなら顔を見てがいい。キス…気にならないわけじゃないけど騒ぐほどでもない。あの人にやられたのは嫌だけどタキさんの反応も少し…見てみたい。

実は怒られて…みたかったり。



「どうした?」


ホテルさながらのマンションのロビーでタキさんを待っていると心配そうな顔をしてタキさんが現れた。

「寂しくなっちゃった?」

「違います」

「えぇー」

ちょっと間の抜けたタキさんの表情を見たらホッとした。肩の力が抜けて、安堵感に包まれる。

エレベーターで上昇して浮遊感を味わうといつもの感覚。

そうして部屋に入って、安心が完成される。




「なんか新鮮だね、急に心が来てくれるなんて」

タキさんは無農薬、100%果汁のオレンジジュースの入ったコップを僕に手渡し、隣にどっかと座った。

「ハイ、あの…」

タキさんが嬉しそうな顔をするので聞きにくくなる。

僕がタキさんちに来たのは間宮って人について聞きにきただけなのに、そんなに目…きらきらさせて。

申し訳なくなり、罪悪感が込み上げる。

「やっぱ…なんでもない、です」

口にはできなくて、タキさんに心の中で「ごめんなさい」を唱えた。

ごまかしてその言葉を飲み込めば、上手く会話ができなくなった。不信がられると思ったのに気にせずにタキさんは話しかけてくれる。

もっと沈んでしまった。


「…それでさ、心」

「は…ぃ」


相槌する度声が萎み、ぴく、と体が震える。

少し間があり、変だなと思っていたらタキさんの手が僕の頭の上にあった。

ぐしゃぐしゃに掻き回して指で梳くのを繰り返している。

何も言わせない、と無言の圧力。

雰囲気を飲み込み黙っていると軽くつむじにチョップをくらった。


「った!」

「なんかあったんだろ、言いな…つか、言え」


強気なタキさんが嬉しくて可笑しくて、僕はごめんなさいと笑って呟いた。


少し落ち着いた時。

オレンジジュースを飲み終えグラスを手の中で転がしながらタキさんに聞いた。


「…間宮って人、先輩知ってますか?」

「…うん?」

「だから、間宮ってひと」

今の間は一体何だったんだか。

ブレザーについていたクラスバッヂからそれらしい人を先生に聞いてわかった名前。

それを聞くと、タキさんはハスキー犬の瞳の奥をギュッと絞り、少しためてから声を上げた。

「なんかされたのか?」

予想外に重低音だったので少しびっくりして反応が遅れた。

隙間を埋めるようタキさんの節っぽい長い指が肩を捕える。

そして双肩に大きな手、顔を覗き込まれて逸らしてしまったのはヤンキーにカツアゲされてる気分になったから。

センパイは本人が怒ってなくても本気でこわい時がある。

「なにされたの」

「…え」

「ほらいいな」

あ…この人絶対深読みしてそう。

そんな真剣になって。でも心配してるなって、親から受けるみたいにひしひしとその不安が伝わってくる。

僕は少し頬を緩めた。

「ちゅー…」

「…何笑ってんだよ」

もう、と怒ったこの人がかわいい。逸らしていた瞳を合わせると、いつもはハスキー犬な目が燃えてるように見えた。こういうのがアイされてるってことなんだろうか。

首を捻ると唇にそっとタキさんの指が伸びていた。むず痒くてぴりぴりする、縁をなぞるみたいにゆっくり指先が揺れる。

熱がぽわっと脳を浮かせた。

そんでもって…恥ずかしい。

この人はいつもそうだ、無意識の行動に僕を躍らせる。

親指で僕の口を拭き、タキさんはうん、と満足げに頷いた。


いつもみたいにこれで終わるのかなぁ――寂しくもそれで納得してしまうから僕も高くは期待してなかったんだけど。


「…!」


眼前いっぱいにタキさんだ。

やっぱ…この人のこと好きなんだなって気付かされるのはこういう時。

タキさんからこういうのがあると、もうなんか…全部イイなーって思う。きらきらした白い光に包まれて見える。

鼻のかたちとか、光が入るときらっとアイスブルーが入ってますますハスキーな目とか実はよく伸びるさらさらの頬っぺとか、立ち方とかそういうの一々。

駄目かな、こういうの変かな。

きっと僕のが、好きって気持ち強い。


「ん」


持っていたグラスをお腹のあたりで左手に持ち替え、右手でギュッと服の裾を掴むとタキさんが唇を離した。もっとしたくて服を掴んだのに気付かない。

二人の間の熱が無くなったけど、その分頭のてっぺんに向かって血が汽関車の蒸気みたいに昇ってく。

男なのにこんなんなって、気持ち悪いって思われないかな。


「心」


「…はい」


顔は上げられない。

ずっと俯いたまんまでいたらいつもみたいに軽く頭を撫でられる。


「明日図書室いて」


タキさんは何か確信したらしい。しっかりした声で僕にそう言った。


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