ナンパ1
「え?あの…」
なんなんだろうこの人。
カウンターに座って貸し出しの受け付けをしていたらいきなり声かけられて、対応に困ることを聞かれた。
タキさんは今日ジムに頼んでいたなんだかよく解らない健康器具をとりに行くって言って僕に仕事を押し付けて消えてしまったし。
「あー、んじゃそれは答えなくていいや。とりあえずメアド教えて」
どうしよう。
変なおっさんに声かけられたり痴漢まがいなのにあったことはあるけど。こうして直接知らない男にそういう類いの質問をぶつけられたのはさすがに無い。
何で?雰囲気とかでわかんのかな…。嫌だー…。
固まっていると「どうした?」と顔を覗きこまれた。びっくりして顔を逸らすと笑顔で返される。
…強引だ。
上級生だから断りにくいしで、仕方なくアドレスを交換してしまった。
「あ、ねえところで写真集ってどこにあんの?」
もう帰るかと思ったら、今度は真剣な調子で尋ねられる。
ここは図書委員として仕事しなきゃ。
ていうかこの人写真集とか見るんだ。
意外ってのと…少し親近感。
カウンターから出て高く列んだ本棚に仕切られている一番奥の芸術コーナーに案内する。
「ここです」
「さんきゅー」
カウンターに戻ろうとしたけど、彼が着くなり選んだ写真集が目に入り、思わず足が止まった。
「…キャパですか?」
「ん?うん。知ってるの?」
本を片手にし意外そうに僕を見下ろす。
「はい、好きなんで」
「マジで?」
あ…やばい、ワクワクしてきた。
あんなの聞かれてさっきまですごく複雑な気分だったのに。
趣味が合うかもって知った瞬間こんなに気分が盛り上がるなんて。
単純だ。
相手もそうみたいで。
「いいよなぁー!ツール・ド・フランスの写真とかオレ好きなんだよねえ」
「広告につかわれたヤツですよね」
「そうそう!」
だんだんテンションが上がってきて、喋りくってるうちに僕の頭からはさっきまでの会話の内容が吹っ飛んでいた。
それに気付いたのは、ぴたりと会話が止んだ合間にいきなり唇を落とされていたから。
咄嗟のことにただ見上げるしかできなくて、その人は何を勘違いしたかニィ、と笑って僕から離れ写真集を持ってじゃあね、と行ってしまった。
しばらく呆然として気付く。
「本…無断持ち出しだ」




