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 ベッドを占領している巨大なヌイグルミは、フィーが気に入り、今はフィーの遊び相手となっている。


 フォスターも自室へ帰り、ウィルは大小の箱をひとつずつ開封しては、中身の確認をしていた。其々の箱には、メッセージカードが添えられている。そのメッセージを読み、ウィルもお礼の手紙をしたためているのだ。


 プレゼントは、鉱石、薬草、食材。そして、図鑑などが多かった。


 この世界で、書本が高価な品物であるとウィルが知ったのは、ノーザイト要塞砦の街を一人で歩いた時だ。マーシャルが立ち寄った書本屋で、書本を探したのだが、普通の書本でも一冊で、一般人の一か月分の食費が賄えるほどの値段だったことにウィルは驚愕した。店主の話では、紙の質や内容にも寄るが、一冊ずつ手作りになるため、高価になるらしい。


「えっ! これって、魔女薬の図鑑!」


 箱から取り出した図鑑は、魔女薬図鑑。魔女薬は秘薬とされ、口伝が多く紙に残されているレシピは少ない。実際、ウィルが作れるのも二日酔いや乗り物酔いに効く薬と、解熱薬、解毒薬の三つ。中を見ると、様々な魔女薬の作り方や材料が図解で示されてあった。


「うわー、凄い嬉しい。へえー、丸薬の作り方も載ってるんだ……。これって、貼り薬だよね? こっちは……」

「キュキュキュー!」


 夢中になって図鑑を読んでいると、フィーが肩に乗ってウィルの頭を突く。ウィルの手が止まっていることに気付いたフィーが、図鑑を読むウィルを止めたのだ。


「ギュイッ!」

「あ……。まだ、片付けなきゃいけないの、忘れるところだった」

「キュイ!」

「ありがと、フィー」


 魔女薬図鑑を収納して、焼き菓子をひとつ取り出す。そして、焼き菓子をフィーの口へ運ぶと嬉しそうに食べ始めた。あっという間に焼き菓子を食べ終えると、フィーは再びベッドへ戻り、ヌイグルミの隣で体を伸ばし横たわる。その姿を見ながら、フォスターと話したことを思い出す。ルースたちが置いて帰ったウィルへのプレゼントは、フォスターの言葉で決められたようだ。


 フォスターが豊穣を司る女神に米を求めたことで、ルースたちはウィルが高価な品物を好まないのではないかという話になり、フォスターにウィルが好みそうな品物を質問した。


 そして、ウィルが薬草を育てることを日課にしていたこと。錬金術に興味を持っていたこと。書本を読むことを趣味としていたことを教えたのだ。

 その結果、各々の神殿のある土地で取れる品物を持ち寄ることに決まったのだと、部屋に来たフォスターから説明された。


 高価な品物であれば、ウィルは確実に受け取りを拒否していただろう。


「それにしても、ルースさん達は僕に何の用があって来たんだろう? フォスターは気にする必要はないって言ってたけど……」

「キュキュキュッ」

「あ、噛むのは駄目だからね。そういえば、ヌイグルミって、誰からのプレゼント?」


 立ち上がったウィルは、ヌイグルミやベッドを確認するが、メッセージカードは見当たらない。フィーにも訊ねたが、頭をフルフルと横へ振った。ヌイグルミの件は、明日フォスターに質問することにして、手紙を書く作業を再開する。

 手紙を書いた品物から順番に、収納へ仕舞っていく。図鑑以外の鉱石や薬草などのメッセージカードには、丁寧に使用方法や効果も書かれてあったため、セットでしまえば辞書を使う必要がない。食材に至っては、メッセージカードがレシピ集となっている。


 全てを済ませ、ベッドを占領していたヌイグルミを部屋の隅へ据える頃には、夜中を過ぎる時間となっていた。


「(そういえば、これ……)」


 フィーとお揃いの従魔の証。それと重なるように嵌められたブレスレット。それは、フォスターの新作だった。


 機能は、今までの腕時計型と異なっている。収納がメインではなく、機能のひとつとしてアイテムボックスという項目があった。その中身も項目別にアイテムが収納されている。


「(……フォスター、ゲームに感化され過ぎでしょ。これ、本当にステータスって項目があるし。確かに、可視化することが出来ないかって言ってたけど……)」


 ステータスの項目に魔力を流し込むと、名前から順に種族、性別、年齢、職業が表示される。ゲームとは違い、装備中のアイテム欄や装備欄はない。ステータスの項目を閉じて、その先へ目を向けると魔法適正とある。しかし、その項目を開いてウィルは目を見開いた。


「(……どうして、全ての適性が埋まってるの!)」


 生活魔法、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、補助魔法、召喚魔法、精霊魔法、時空間魔法、重力魔法。その全てに、レベルが表示されている。攻撃魔法レベル六。回復魔法レベル八。防御魔法レベル四。時空間魔法と重力魔法がレベルMax。その他の魔法は、全てがレベル三なっていた。


「(時空間魔法と重力魔法がマックスって何!? これ、何段階表示なのか、分からないけど……今の状態で これって。⋯⋯次の項目は、取得属性? 水と火がMaxなのは解るけど、光と闇もMaxって何で。他の属性も使えるようになってるし。取得って……普通、生まれた時に使える属性決まってるよね? 取得しちゃ駄目だなものだと思うんだけど……。その次が、スキル一覧表って……)……うわぁ。もう、これ、頭痛い」


 そこから先は、ウィルが知るゲームとは異なり、まるで辞典のような作りになっている。取得していないスキルはレベル表示がなく、取得しているスキル、例えば取得して時間が経っていない看破(インサイト)は、レベル二。逆に最初から取得していた能力学習(スキルラーニング)はレベルMaxとなっている。

 取得していないスキルに触れると、取得条件が上書きされた。所謂、ヒントのようなものだ。


「……こんなの、何に使えと? ほんと、神様って何を考えてるのか、わかんない……」


 他にも地図、迷宮、料理等の項目が並び、そして全てを確認して、ウィルは溜息を吐き出した。


現実(リアル)なのに、ゲーム感が半端ないんだけど……」


 考えることに疲れてしまったウィルは、短めの睡眠を貪るため、ベッドへ入るとそのまま眠りに落ちた。






 明朝、軽めの朝食を済ませると鎮守の森へ向かう。フィーは、まだ眠いらしくウィルの肩で欠伸をしていた。


「それにしても……この服」


 朝、フォスターに渡された新しい服。動きやすく、着心地も悪くない。いや、凄く良いのだ。膝下パンツ、刺繍やレースが贅沢に使われたシャツ、ジレ、コート。そして、クラヴァット(ジャボというらしい)まで揃えられている。ブーツも新調した。今は着ていないが、揃えのケープまである。


「……うん。考えるのは止めよう。凄く嫌な予感がする」

「ふふふ。ウィルの居た世界に、エイガというものがあったでしょう? それらを参考にしたのですよ。後は、ゴシッ――――」

「うわあっ!」


 いきなり、真後ろから声を掛けられウィルは飛び上がる。その拍子に、転がり落ちそうになったフィーを慌てて抱き留めた。


「どっ、どっから来たの!」

「家からに決まっているでしょう。さっきまで、一緒に居たのですよ?」


 さも、心外だと言わんばかりの態度に、ウィルはガックリと肩を落とす。


「そういう意味じゃないよ。全く気配感じなかったって、意味!」

「ああ、そちらですか」


 フォスターは、空間転移術の応用と話して、ウィルの横に並んだ。


「今回のテーマは、王子です。せっかく綺麗に創り直したのですから、着飾らないと勿体ないでしょう? 他にも、色々と考えているのですよ」

「……勿体なくないし、考える必要ないからね? それに、王子さまって! エドワード様だって、こんな服着てなかったよ!」

「アレは、王太子で青年です。着飾っても可愛くありませんよ。好みでもありません」

「そういう問題じゃないよ。僕は普通がいい。とても良い服なのは認めるけど、戦闘になったらどうするの? それこそ勿体ないよ」


 創り直したという言葉通り、今のウィルは以前に比べ、成長している。それでも青年と呼べるほどではなく、十二〜三歳が十五〜六歳になった程度。それでも、衣服は新調するしかない。

 貧乏性ですねえという呟きを聞かなかったことにして、ウィルは再び歩き出す。コンパスの違いで、ウィルが早歩きをしても、フォスターは余裕で歩いてきた。


「……なんか、とっても頭にくる」

「私は、ウィルが一緒だと、退屈する暇がないので楽しいですよ」

「キュイー」


 フィーが同意するように、ウィルの腕の中で鳴き声を上げると、上からクツクツと笑い声が聞こえ、ウィルは唇を尖らせる。フォスターから見れば、そんなウィルの行動も楽しくて仕方がなかった。


「……ウィルのお陰ですよ」


 ポツリと呟かれた言葉にウィルは顔を上げて、フォスターを見る。


「私は、友と同胞を失い、その後、私は全てを拒絶してました。自分のやるべきことを、ただ坦々(たんたん)と処理し続け……、そこには何の感情も無く、そんな日々を二千年続けていたのです。楽しいと思うことも、嬉しいと思うこともありませんでした。心にあったのは、悲しみや恨み、拒絶だけでしたからね」

「……フォスター」

「ウィルに出会い、ウィルと伴に生活しているうちに、いつの間にか失っていた感情を取り戻していたのですよ。…………さて、私の話は、ここまでにして、先に進みましょうか。もう、森の入り口に蒼龍が到着しているようですからね」

「…………」


 ウィルは、キュッと唇を噛み締め、物言いだげにフォスターを見ていたが、何も言葉にすることはなく、前を見て駆け出していた。



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