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「従魔の証ですよ。昼に緑龍の元を訪ねた時、依頼されたので創っておきました」
「凄い。……綺麗」
フィーは、ネックレス。そして、ブレスレットがウィルの物。ブレスレットなら、オバーウェアで隠れるため人目につきにくい。
「これ、紫水晶」
「私の好みでしたので……と、言うのは冗談です。偶々、手元にあった宝石が紫水晶だったのですよ。長い間、手元に置いていたので術式を組み込むことが容易でしたから」
フォスターも自分の色を持っていて欲しいという気持ちが、なかったわけではない。しかし、手元に長く置いていた所為でフォスターに紫水晶が馴染み、術式を刻みやすくなっていたのも事実である。
「どちらにも、盗難防止・防御魔法・探知の術式を組み込んであります。有り得ないとは思いますが、フィーを盗られると困りますからね」
「フォスター、ありがとう! フィー! 起きて、フィー!」
隣で眠っているフィーを起こそうと必死になっているウィルを見て、フォスターは笑みを浮かべる。その手首に着けられたブレスレット。キラキラと光る紫水晶に刻まれた紋章は、フォスターの神殿に描かれている紋章であった。
緑龍には、オズワルド公爵家の紋章と言われたが、たとえ人族の身分で高かろうと、更に上がある。ウィルを気に入っている青年王族がいるからないとは思うが、もし国王にフィーを差し出せと命令されたなら。いくらアルトディニアで名を知られているオズワルド公爵家でも、断ることが出来ない。それに、オズワルド公爵家という肩書は、他国では意味をなさない。最悪な状況に陥る可能性もある。
ならば、古代神であるフォスターが、ウィルとフィーの保証をした方が手間が掛からない。神々の認識は世界共通であり、実際にウィルを加護しているのはフォスターだ。
緑龍には過保護と言われたが、それがどうしたと即答したフォスターである。自分が手塩にかけて育てた。大事にして当たり前。そう話すと、前例がないと反論された。前例がなければ、新しく作るまで。そう言い切ると、呆れたのか納得したのか緑龍も黙った。
目の前では、ウィルが目を覚ましたフィーにネックレスを着け、自分の手首にあるブレスレットを見せている。一人と一体が興奮する様子に、フォスターも自然と顔がほころぶ。少しの間、様子を見ていたフォスターだったが、再び胸元から従魔の証を取り出してウィルを呼んだ。
「フォスター⋯⋯。何で、従魔の証がこんなにあるの?」
「これが、紅龍からの依頼ですよ。こちらにも、盗難防止・防御魔法・探知の術式を組み込んであります。安心して着けてくださいね」
「これ、誰の紋章?」
「ラクロワ伯爵家の紋章と、オズワルド公爵家の紋章です」
「ひっ!」
手に取ろうとしていたウィルは、貴族家の名前を聞いて慌てて手を元の位置へ戻した。普通なら、フォスターの紋章の方が恐れ多いのだが、ウィルにとってフォスターは家族。貴族家の方が恐ろしいのだろう。
「オズワルド公爵家の従魔の証かラクロワ伯爵家の従魔の証を着けるようにしててください。他国や他領に出る場合は、私の紋章が刻まれた従魔の証を着けるように。要は、使い分けが必要なのですよ」
少し青みのある鮮やかな翠色の宝石が取り付けられた従魔の証とブレスレットがラクロワ伯爵家、深く鮮やかな赤色の宝石が取り付けられた従魔の証とブレスレットがオズワルド公爵家とフォスターが説明をする。
「宝石は?」
「紅龍が置いて帰りました。それと、証明書は後で届けると話していたので、紅龍から受け取ってください。後は、これですね」
再びテーブルの上に装身具を並べ始めたフォスターに、ウィルは顔を引き攣らせる。ネックレス、イヤーカフ、指輪、ブレスレット、アンクレット等々、テーブルを埋め尽くす勢いだ。
「ねえ、フォスター。僕って、男だよ?」
「ええ。そうですよ」
「なんで、こんなに装飾品があるの?」
「そうですねえ。原因はウィル自身ですが。魔力制御装置を全て壊してしまったでしょう?」
「あっ!」
ウィルが慌てて耳に触れると、三つあった耳飾りは、ひとつもない。壊したことをウィルは完全に忘れていた。龍の住処にいる者は龍王の眷属。多少の魔力では、影響を受ける者は少ない。しかも、あの時ウィルの魔力は、故意に暴走させたため枯渇しかけていた。
ただ、魔力制御装置なしでは、若い龍はウィルに近付くことが出来ない。それほど、ウィルの魔力値は上がっている。明日、全ての龍が集まるとは限らないが、魔力酔いを起こす龍も出る可能性があった。
「ウィルの魔力が成長途中で、どの程度の制御装置が必要になるのか、未知数なのですよ」
「……だからって」
テーブルにフォスターが並べた装身具は、二十を超えている。ウィルが、全てフォスターが創った物なのか確認すると、半分は創った物で、残りはフォスターの神殿に奉納された物だという。
「それって、尚更ダメじゃん! 神様に奉納された品物を着ける人族なんていないよ」
「私が持っていても、使わないのですから宝の持ち腐れというものです。ほら、これはドワーフ族が奉納した品物なので、細工も繊細で良い仕上がりですよ?」
「絶対、駄目! フォスターに感謝の気持ちで捧げられた宝飾品を、僕が使っていいはずないから!」
ウィルの剣幕に苦笑すると奉納された装具品を仕舞い、フォスターが創った装飾品だけをテーブルに残す。それでも、まだ数は多かった。
「そうですねえ。これならば、華美にならずウィルの色とも合うのではありませんか?」
そう言ってフォスターが耳飾りを選ぶと、ウィルは別な装身具を手に取ってフォスターへ渡す。ウィルに渡した従魔のブレスレットと似た装飾を施したブレスレット。違いと言えば、紫水晶の色味と黒水晶が使われていることだった。
「従魔のブレスレットと似てるね?」
「そうですね。でも、紫水晶の色が違います。同じ色合いの紫水晶がないことに気付いて、創り直しましたから。フィーとお揃いが良かったのでしょう?」
ウィルとフィーに渡した従魔の証は、淡い色をした紫水晶。それに比べると、ウィルが手に持っているブレスレットに使われている紫水晶は、深い色合いをしている。
「これが良い。これ、使っちゃ駄目?」
「ウィルが、使う物を選ぶために並べたのですから駄目じゃありませんよ。そうですね、少し改良して今使っている収納と合わせてみましょう」
フォスターは、ウィルから二つのブレスレットを受けとると、紫水晶の周りに填めた黒水晶へ術式を施していく。黒水晶の数は八つ。六つの黒水晶に魔力制御の術式。七つ目はウィルのパラメータ管理システムを組み込み、最後のひとつには、器に人族であることを認識させる術式を施した。
そうして、紫水晶には、ウィルの手首に着けたブレスレットと同じ、フォスターの紋章を刻みつけ、最後に別の術式を組み込む。
「ふぅ……これでいいでしょう。ウィル、此方へ来なさい」
「うん、わかった」
待っている間フィーと遊んでいたウィルは、呼ばれると直ぐにフォスターの元へ駆け寄る。ウィルの首に手を伸ばし、首に着けた輪を消し去ると、ウィルにブレスレットを着け直す。
「首に着けていた輪の機能と魔力制御を、ブレスレットひとつに纏めました。ただ、そうなるとブレスレットは外すことが出来ませんから、少し不便かもしれませんが」
「ううん。ひとつだけで済むなら平気」
手首に重なる三つのブレスレットをホッと安堵で見詰めるウィルに、フォスターはアルトディニアで宝石を身に着けるのは、男女の差はないと話す。確かに、貴族は装飾品として身に着けるが、一般的には装身具としての需要が高い。
魔法剣士・魔法士・治癒術士は、魔力補助の効果をもたらす装具を身に着ける。また、騎士・剣士・弓使いは、防御系の装身具を身に着ける者が多い。
その点で考えると、ウィルの身に着けている数は少ない。希少価値の高い宝石を使っている所為もあるが、ウィルの場合は、補助も防御も必要ないことが、最大の理由だった。
「ああ、忘れるところでした。これは、預かった物です」
ウィルの掌に、ロッツェが紅龍から預かった『龍の住処への通行証』を乗せた。この紅の宝玉を使えば、アルトディニアと龍の住処と行き来できる。場所が限定された空間転移術が宝玉に込められていると説明を受けたウィルは、掌にある宝玉をジッと見つめていたが、無言でソファへ戻り、溜息を吐いた。
「ここに住まう龍たちに、この地に居住することを正式に認められたということです。いつでも、龍の住処に帰って来られるのですよ。嬉しくないのですか?」
「嬉しいよ? 嬉しいけど、皆から貰ってばっかりだから、ちょっとね」
「貰ってばかり、という表現は少し間違っていますね。紅龍は対価として、信頼の証として、ウィルに宝玉を渡したのです。私は貴方を通して、今のアルトディニアと向き合うようになれました。その対価として装身具は安い物です」
驚いた顔をするウィルに、フォスターが「それに、喜んで貰ってくれた方がプレゼントした方も嬉しいのですよ」と付け足せば、ウィルは大きく頷いた。
「プレゼントと言えば、ウィルの部屋が大変なことになっていると思うので、寝る前に片付けておいてくださいね」
「僕の部屋?」
フォスターの言葉に、ウィルは肩に乗ったフィーと顔を見合わせている。
「ええ。昼間の出来事だったのですが、ルースが同僚を連れてウィルに会いに来たのです。彼らからのプレゼントが邪魔になったので、ウィルの部屋へ詰めておきましたから、収納しておいてください」
「ルースさんの同僚って⋯⋯」
「神界にいる神々です」
「ええぇーっ!」
ウィルが慌てたように部屋へ駆けて行き、その直後、悲鳴が聞こえた。ウィルの肩から転げ落ち、首を傾げているフィーを連れて、クスクスと笑いながらフォスターはウィルの部屋へ向かう。
部屋の中に置かれていたのは、ベッドを占領する巨大な龍のヌイグルミ。そして、大小の箱だった。




