BATTLE:004【陰謀の影】
※今回、バトル描写はありません
「これでトドメだ! カオス・ドラゴンの攻撃!!」
「ぬあぁぁぁぁ!!」
【アルティメットレックス】
DG【-400→7600】
LP【6400→0】
カオス・ドラゴンの攻撃がアルティメットレックスに直撃した。
余談だが、LPの数値は0未満にはならない。
アルティメットレックスのライフが0になったので、イクサの勝ちである。
「ぐぬぅ…なぜだぁ……」
項垂れる諸星の姿を見て、イクサはもう一度再認識する。
自分は、勝ったんだと。
初めて、カードバトルで勝てたのだと。
「さあ、約束通り……カイト達のカードを返してもらう」
「く…ぐ…ぐ……ちくしょう!!」
「なっ?!」
シンヤは歯軋りすると、カイト達から奪ったカードを持ち去って逃げてしまった。
イクサはそれを慌てて奴を追いかける。
☆☆☆
「はっ…はっ…はっ……」
シンヤは校舎裏まで走ると、息を整えて手元のカードを見つめる。
「さて、これぐらいで十分だな。あとはアイツ経由でカードを返せばいいか」
その表情には、先程のような悪意ある感情は無く理性のようなものが感じられる。
「しかし……まさか守護龍のカードと戦うことになるとはな。それに、あのカオストライブは一体……」
「ほう。なにやら興味深いな」
「っ! その…声は……」
シンヤが振り返った先にいる人物。
声から察するに、青年だろう。
だが、その肌は病的なまでに白かった。
「お前は……」
「その話、俺に詳しく聞かせてくれよ。なあ、諸星シンヤ?」
「……嫌だと言ったら?」
「そうツレないことを言うなよ。まあ……だったら、これで言うことを聞かせるまでだがな」
そう言うと、青年は自身のデッキを構える。
「いいだろう……相手になってやる」
シンヤも自分のデッキを構える。
青年は「ククク……」と笑う。
「俺とバトルしたことを後悔するがいい……」
「「ダイス・セット!!」」
☆☆☆
「くそ……諸星の奴、どこに逃げたんだ?!」
旧校舎の裏山を抜け、本校舎のグラウンドまで探索したが、イクサはシンヤの姿は見つけられなかった。
そろそろ辺りも暗くなってきたおり、これ以上の探索は難しそうだ。
イクサはグラウンドに膝を着け、拳を強く握り絞めて思わず地面を叩いた。
「っ…勝ったのに……取り戻せなかった……くそっ!!」
「……おや?」
ふと、誰かの声が聞こえた。
声の方向を見てみると、そこにはこの学校の生徒会長を務めている三年生の『鹿羽 フジミ』が首を傾げながらイクサを見つめていた。
「キミは……確か一年の聖野くんだね。こんな遅くまでどうしたの?」
「え、えと……」
イクサはカードバトル部で起きた出来事をありのまま話そうとするが、すぐに口を閉じる。
カードバトル部は非公式に部を名乗っている。その存在が知られたら、かなりマズいのではないか。
そう思うと、イクサの頭から冷や汗が流れる。
イクサが通う学校は私立。校則は学校生活に関しては比較的に緩いものの、勉学を妨げる違反物品に対しての取締りは厳しい。
一刻も早くこの場から去りたい一方で、イクサはある事を思いつく。
フジミはイクサとの直接的な面識は無いが、イクサの名前を知っていた。なぜならそれはフジミにとって、生徒会長ならば学校全体のことを把握しなければならない、と思っているからだ。故に、学校に所属する全生徒の顔と名前を記憶している。
そしてなにより、放課後は家にすぐには帰らず最終下校時間まで校内の自主的な見回りもしている。
イクサと出会ったのは、まさに見回りの途中だったのだろう。
イクサが思いついた事、それは、その見回りの最中に怪しい人物を見かけなかったどうかを尋ねる、というものだ。
自分一人でのこれ以上の探索は厳しい。だが、フジミがどこを見回ったのか、怪しい人物を見かけたかを尋ねれば、シンヤの居場所を特定しやすくできる。
イクサはなるべくカードバトル部については言及しないように気をつけつつ、フジミに話しかける。
「あ、あの……その…少し探し物をしていまして…」
「探し物?」
「は、はい。実は、友人が大切な物を盗られてしまいまして……」
「……あまり穏やかな話じゃなさそうだね。一体、誰に盗られたんだい?」
「いえ、その、どうも校内の生徒じゃなさそうで。鹿羽生徒会長は、何か怪しい人物を見かけませんでした?」
「ああ、それなら見かけたよ。……もしかして、キミの友達が盗られた大切な物というのは、これの事かい?」
そう言うと、フジミは懐から4枚のカードを取り出した。
「あ! それ……」
「……どうやら、探し物はこれで間違いなさそうだね。学校の敷地内を走っていた見慣れない男子生徒が落としていってね。気になって拾ってたんだ」
「あ、ありがとうございます。その男子生徒は一体どこに?」
「それが、カードを拾った時に見失ってしまってね。しかし……」
フジミは気難しそうな表情でカードを見つめる。
「生徒会長の立場としては、違反物品を持ってきたことを咎めるべきなんだろうけど……まあ、いいや。今回は目を瞑ろう。……はい」
フジミからカードを受け取り、それがカイト達のカードであることを確認する。
その中でイクサは「ん?」と眉間に皺を寄せる。
そゎなイクサの反応にフジミも首を傾げる。
「どうかしたかい、聖野くん?」
「い、いえ……なんでも」
イクサが眉間に皺を寄せた理由。それは、フジミから渡されたカードの中にシンヤが使用していた【補給部隊】のカードが紛れ込んでいたからだ。
もしかすると、逃げている最中に自分のカードまで落としたのだろうか。
イクサがカードを受け取ったことを確認すると、フジミはイクサに背を向けて手を振る。
「じゃ、僕はこれで帰るとしよう。聖野くん、また明日」
「あ、はい!」
フジミが立ち去る姿を見て、『将来、自分もあんな先輩になりたいものだ』とイクサは憧れの感情を抱いた。
「まさか……守護龍のカードがこんな身近にあったとはな……」
去り際、フジミが何か言っていたが、あまりにも小声だったのでイクサは特に気にしなかった。
☆☆☆
「おっと……粗大ゴミの処理を忘れるところだった」
フジミは、倒れているシンヤの頭に、足を乗せる。
「おい、負け犬。啖呵切った割には随分とボロボロだな」
「う…ぐぐ……」
「“アイツ”の知り合いだから期待していたが、まぁカードバトル部の部員に負けるようなデッキを使うようじゃ……そもそも俺に勝つのは無理な話だったな」
「お、お前……」
「ああ、そうだ。アカネは元気かよ、諸星シンヤ?」
「………」
鹿羽フジミは無表情で諸星シンヤを見下し、足に力を込める。
「ぐっ…!」
「おいおい、なに無視してんだよ。この俺がお前みたいな負け犬野郎に話しかけてんだぜ? さっさと質問に答えろよ」
フジミの言葉に、シンヤは目を剥く。
「貴様……どの口が…!!」
激昂するシンヤを見て、フジミは笑う。
「フッ……クククッ。まあ、そう怒るなって。アカネはそっちで楽しくやってんだろ? ならいいじゃないか、結果オーライ……だろ?」
そう言うと、フジミは「さーて」と言ってシンヤのデッキケースを手に取り、その後、シンヤの学ランの懐からIDカードを抜き取り、
「お前はもう用済みだ。カードバトル部とのバトル、ご苦労さん」
勢いよくシンヤを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたシンヤの身体は車道に転がり、
―――ブォォォン!!―――
車の轟音が聞こえてきた。
車のライトが傷だらけのシンヤを照らす。
(眩しい……)
フジミに蹴り飛ばされた時に頭を強打してしまい、視界が歪む。
シンヤはなんとか歩道の方に進もうとするが、ひどく傷ついた身体がピクリとも動いてくれない。
恐らく、辺りが暗いせいでシンヤの姿が見えないのだろう。
車は全く減速しない。
少しずつ、エンジン音が大きくなってくる。
「た、…たすけ……」
助けを求めるシンヤ。
しかし、フジミはニッコリと笑って言った。
「大丈夫。運が良ければ死にはしないだろうさ。アハハハッ!!!」
そのまま再度シンヤの頭を蹴り上げる。
薄れいく意識の中でシンヤが見たものは、自分に手を振って立ち去る悪魔のような男の背中。
背後で、何かがぶつかった音とクラクションが鳴り響いた。
やがて、フジミの背後に、2つの人影が現れる。
2つの影にシンヤのデッキケースを投げ渡した。
「お前ら。そのデッキのカードを使って、自分のデッキを強化しろ。そして、聖野イクサが持つ守護龍のカードを奪うんだ」
「「御意に」」
フジミの言葉を聞くと、2つの影は頷いてすぐに消えた。
懐からIDカードを取り出し、小さく笑うフジミ。
「面白くなってきたな。……なぁ、そうだろ?」
その言葉は、果たして誰に向けて言ったのか。
☆☆☆
「カイト!」
カードバトル部の部室に戻ったイクサは、ナミに介抱されているカイトに駆け寄った。
「これ、取り戻したよ!」
「あ、ああ……ありがとうな、イクサ」
カイトにカードを渡し、残りのカードも男子生徒と女子生徒にそれぞれ渡した。
「こっちは部長さんと副部長さんのカードですね」
「ああ、ありがとう」
「サンキュー・ベリーマッチなのだー」
二人とも、とても嬉しそうだ。
男子生徒は小さく笑い、荒らされた部室を見渡す。
「汚い部屋でごめんね。それでキミは、戦宮くんの友達かな?」
「あ、はい。聖野イクサって言います」
「そうか。俺は部長の『東條 ユキヒコ』、三年だ。こっちは副部長の『園生 リンナ』」
「リンナは二年生なのだ」
「ど、どうも……」
男子生徒――ユキヒコに紹介された女子生徒――リンナの個性的な口調に、イクサは思わずたじろぐ。
そんなイクサに苦笑しつつ、ユキヒコは声をかける。
「ところで、今日は何しに来たのかな? もしかして、俺達とバトル?」
ユキヒコはニヤリと笑いながら、デッキを構える。
イクサは慌てて手を横に振る。
「い、いえ違います! 俺とナミはカイトに誘われて見部しに来ただけで!!」
「あ、そういうことか。うーん、満足な歓迎ができなくてごめんね。それにレアカードハンターの相手までさせちゃって……部長として、本当にごめんね!!」
「だ、大丈夫ですよ! 勝てたんですから」
「いや、だからといって、なんとお詫びをしたらよいやら」
ユキヒコは頭をポリポリ掻きながら、「よいしょっ」と言って、倒された本棚を元に戻す。
「……あ」
「どうかしたかい?」
イクサはある事を思い出し、懐から【補給部隊】のカードを取り出した。
「あの……これ…」
「ん? これは、【補給部隊】……たしか諸星のカードだったと思うけど……」
「その…拾ったんです。とりあえず、東條先輩に渡しておこうかと……」
「うーん……これは、君が持つべきだと思うけどね…」
「え、どうしてですか……?」
「諸星に勝ったのはキミなわけだし。それに、キミがそれを拾ったのなら、ある種の運命だとは思わない?」
正確には、拾ったのはイクサではなくフジミである。
まあ、話の流れ上、言えないが。
「まあ、そのカードをどうするかはキミに委ねるよ」
「………」
「そのカードが元から諸星のカードだったのか、それとも他人から奪ったカードなのかは知る由もない」
カードを凝視して黙っているイクサに、ユキヒコは忠告する。
「ただ、一期一会という言葉があるけど、これは人に限らずカードにも言えることだと思うんだよね。出会うべくして出会うカードも、あると思うよ、俺は」
「出会うべくして、出会うカード……」
イクサは思わずカオストライブのデッキを握り絞めた。
「で、結局の所、どうするんだい?」
「……このカード、俺が引き取ります」
イクサの返答に、ユキヒコは大きく頷く。
「うん。大切にしてあげてね」
「はい!」
すると、部室の外からサイレンの音が鳴り響いた。
『ッ?!』
外の様子がおかしいことに気づき、イクサ達は慌てて部室に出た。
☆☆☆
「あれって……諸星?」
イクサ達は驚愕した。
あのシンヤ、車に轢かれて血だらけとなっていたのだ。
救急隊員の話を聞いた限りでは、命に別状は無いらしい。
五人は安心する一方で、なぜシンヤが車に轢かれたのか疑問に感じた。
「おかしい……」
ユキヒコがそう言った。
イクサは首を傾げる。
「何がですか?」
「諸星の奴、デッキケースを持っていなかったらしいんだ……」
「轢かれた時に、どこかに飛んで行ったんじゃないんですか?」
カイトの言葉に対し、ユキヒコは首を横に振る。
「そうだとしても、そう遠くへは飛ばないはずだ。誰かに盗られたとしか、思えない」
「じゃあ一体、誰がそんなこと……」
「もう1つ、おかしな点がある」
ユキヒコは校門に取り付けられたセンサーを指差す。
「この学園は、学園関係者が皆持っているIDカードが無ければ、普通は入れない。なのに、どうして諸星はこの学園に侵入できたのか……」
「誰かのIDカードを奪ったんじゃないのかー」
リンナが間延びした声で言うと、これもまた首を振った。
「俺も最初はそう思った。だけど、それじゃ腑に落ちない点があるんだ」
ユキヒコは「俺の推理はこうだ」と言う。
「諸星は、学園の何者か――この騒動の犯人からカードバトル部を襲うように依頼された。その後、犯人から借りたIDカードを使い、この学園に侵入。カードバトル部は襲われた。でも、それは聖野くんが無事に撃退してくれた。ま、作戦は失敗。犯人は用済みになった諸星からデッキケースとIDカードだけを奪い取って始末した……これなら、色々と辻褄が合う」
「……でも、カードバトル部が襲われる理由って……」
ナミがそう言うと、
「あるにはある」
ユキヒコが答えた。
「カードバトル部は非公式に部を名乗って非生産的なカードゲームに没頭している。……誰にとって、目障りか……」
ユキヒコは本校舎の頂点の一室を見上げる。
あそこは、この学校の生徒会室だ。
「そ、そんな……生徒会が、まさか……」
「生徒会長の鹿羽フジミには、裏では色々と黒い噂を聞く。ありえないことではないよ」
「えっ……?!」
イクサは目を大きく見開いた。
イクサが先程出会ったフジミは人当たりの良い、好感が持てる人物だ。だからこそ全くもって想像できない。
ユキヒコは自分の腕時計を見て時間を確認する。
「とにかく。今日はもう遅い……皆は帰った方がいいだろう。それと、リンナ、戦宮くん」
「なんなのだー?」
「はい!」
「明日から暫く部活は中止だ」
『えっ?!』
リンナとカイトは目を剥いた。
ユキヒコは二人に理由を話す。
「首謀者がいるかもしれない以上、もしかしたら、また部室が襲われるかもしれない。部長としては、部員を危険に巻き込むわけにはいかないんだ。分かってくれるね?」
「わ、分かったのだー……」
「分かりました……」
落ち込むリンナとカイトを励ますように、二人に笑いかける。
「そう落ち込まないで。なるべく早く部活を再開できるように、誰が裏で手を引いているのか調べてみるから。出来れば、取り越し苦労であってほしいけどね」
ユキヒコは次にイクサとナミに頭を下げた。
「何度も言うなようで悪いけど、本当にごめん、二人共。せっかく見部しに来てくれたのに、まともな歓迎もできなくて……」
「いえ、ホントに大丈夫ですから!」
「そうですよ、………私、特に何も被害に遭ってないし…」
「そう言ってくれると、助かる」
「じゃあ、俺達はこれで」
イクサとナミは帰るべく、センサーにIDカードを通そうとする。
その時、
「因みに聖野くん。うちの部に入部する気はない?」
「え……?」
イクサは思わず足を止めてユキヒコの方へ振り返る。
「戦宮くんから聞いたけど、カードに触れたのは昨日が初めてらしいね。それなのにあの諸星に勝ったんだ。有能な才能は、できるだけ確保したくてね」
その言葉に対し、イクサは歯切れの悪い返答をする。
「いや、その……俺は普通のカードバトルで十分なので……」
そう言ってしまったのは、ユキヒコの目が、まるでイクサを試しているかのように冷たかったからだ。
それはまるで、「キミにお遊びじゃない本気のカードバトルをする覚悟があるのか?」と言っているかのようだった。
イクサは、その視線から逃げてしまったのだ。
本気のカードバトルというのはきっと、シンヤとのカードバトルのことだろう。
―――あれは確かに心が震えた。でも、楽しくはなかった。
ただその一方で、もう一度味わってみたいとも思ってしまった。―――
相反する気持ちに、イクサはただ戸惑うばかりだった。
「もし……」
ユキヒコが口を開いた。
「少しでも迷いがあるなら、よく考えてみるといい。よく考えて、それから入部するか否かを決めてほしい。あくまでもキミの意思でね」
「は、はい」
イクサの返事を聞くと、ユキヒコはニッコリと笑う。
もうさっきまでの冷たさはない。
「呼び止めてしまってごめんね。気を付けて帰るんだよ」
「はい……」
あの冷たい目が余程恐ろしかったのか、ユキヒコから逃げるようにイクサはセンサーにIDカードを通して学園を走り去った。ナミもそれに続く。
「あ、待ってくれよ二人とも!」
カイトは慌てて、センサーにIDカードを通した。
「ありゃ? ユキヒコ、帰らないのだー?」
リンナは、ユキヒコに尋ねた。
「ああ、部室に忘れ物があってね。先に帰っててくれ、リンナ」
「お供するのだー」
「しなくていいよ。女の子をあまり夜遅くに返すわけにはいかないからね。じゃ、部活は無いけどまた明日」
「バイバイなのだー」
リンナが去り、ユキヒコは小さく呟く。
「全く、シンヤは誰にやられたのやら………」
そう言って、旧校舎に向かった。
「まあ、アイツだよな」
最後に呟いた言葉には、どこか憎しみにも満ちた感情が見え隠れした。
☆☆☆
「それにしても、まさかイクサが守護龍のカードを持ってたなんてなぁ」
帰り道、カイトの言葉にイクサは首を傾げた。
「なあ…その“守護龍”って一体何なんだ?」
イクサの疑問に答えてくれたのはナミだった。
「“守護龍”ってのはバトル・ガーディアンズの各トライブを守護する龍のこと。でも、扱うには龍が与える試練をクリアしなきゃいけないんだって。てっきり都市伝説だと思ってたから、私も本物の守護龍のカードを見たのは今日が初めてだよ!」
「へぇ……」
イクサは懐からカオス・ドラゴンのカードを取り出す。
全員がこのカードを見て驚いていた理由を知り、なんとも言えない表情になる。
すると、カイトがいきなり声をあげた。
「あ。あれ、見ろよイクサ!」
「へ?」
カイトが指差す方向を見ると、ビルに取り付けられた巨大スクリーンで、とある企業の宣伝が流れていた。
「孤高グループの宣伝か……。それがどうかしたの?」
「お前知らないのかよ! 孤高グループの現社長の孤高アイズは、バトル・ガーディアンズを創った人なんだぞ!?」
「え、……そうなの?」
「ああ。元々は会社同士の契約のためにイギリスを訪れたらしいんだけどな、その時に世界最古の遺跡『ストーンヘンジ』の調査をしていたら、なんと中からバトル・ガーディアンズのガーディアン達の姿が刻まれた石板を見つけたらしいんだ!」
カイトは興奮収まらぬ様子で熱弁する。
「孤高社長はその石板を元にバトル・ガーディアンズを創ったらしい。あと、ストーンヘンジも、バトル・ガーディアンズを行う古代のバトルスタジアムの役割だったらしいし! だからこそ、バトル・ガーディアンズのカードには不思議な力が宿っているんだってさ、守護龍の試練もその1つってことだ!」
カードゲーム『バトル・ガーディアンズ』誕生の秘密を知り、イクサはもう一度守護龍のカードを見る。
バトル・ガーディアンズのカードには不思議な力が宿る。カオストライブの呪いも、その一種ということなのだろうか?
イクサがそう思考していると、不意にカイトの嘆きの声が耳に入ってきた。
「あー、それにしても学校でバトル・ガーディアンズできないのかぁ」
カードバトル部はバトル・ガーディアンズをやることを第一にした部活。
一時的とは言え、ゲームプレイができる場所が1つ無くなるのは痛いのだろう。
イクサ自身も、もう少しデッキに慣れたいところだ。できればカードバトルをしたい。
「……あ」
そう思っていると、1つ案が生まれた。
「明日……カードショップ行こうかな…」
イクサがボソッと呟いた独り言にカイトはすぐさま反応した。
「なにぃ?! 一人だけ楽しい思いは許さんぞ! 俺も行く!!」
「え、あ、うん……別にいいけど……」
イクサの言葉を聞いて、カイトは不敵に笑う。
「ククク……そのカオスデッキ、俺が攻略してやる!」
「攻略って……諸星に負けたのに?」
「それは言うな! あ、早乙女さんも明日どう?」
痛いところを突かれて話題を変えるカイトの言葉に、ナミは首を横に振った。
「ごめん。明日は、境内の掃除をしなきゃいけないんだよね」
「ああ、そういえば早乙女さんは巫女さんだったね」
「うん!」
ナミみたいなガサツな女が巫女さんな時代、世も末だとイクサは思った。
「……イクサ。何か失礼なこと思わなかった?」
「い、いや……別に」
さすがは巫女、鋭い。意外と侮れないものだ。
そうこうしていると、道が左右に分かれているT字路に行き着いた。
「あ、じゃあ俺はこっちだから」
左右に分かれている中、カイトはイクサ達とは反対の道に足を向けた。
イクサ達はカイトに手を振る。
「じゃあな、カイト」
「じゃあね、戦宮くん」
「おう。また明日な二人共!!」
カイトの後ろ姿を見た後、イクサ達はカイトと背中合わせになるように一緒に帰る。
今も昔も、ナミとはよくこうして一緒に帰ったものだ。最早、習慣にもなっている行動に、イクサは染々とそう感じた。
「あ、イクサ。うち寄ってこようよ!」
早乙女神社の鳥居の前に到着し、ナミはイクサの服の袖を引っ張る。
朝も言っていたが、恐らくナミはナミで責任を感じているのだろう。
普段はふざけてるが、そういうところは律義であり、責任感は強い。
だからこそ、イクサはナミの頭に手を乗せた。
「別に大丈夫だよ、俺は。ほら」
イクサはナミに右腕を見せた。
右腕に刻まれていた黒い手は、綺麗に消えていたのだ。
「わっ、消えてる!?」
「そういうことだから、心配する必要はないよ。……じゃ、また明日な」
イクサはナミを安心させるように、軽く笑う。
一方でナミは未だに少し不安そうな表情でイクサの右腕を見つめる。
「う、うん……。また明日ね、イクサ」
「じゃあな、スーパーウルトラグレートポンコツ美少女」
「なっ?!」
ナミは目を見開き、頬を膨らます。
「ぽ、ポンコツじゃなくてアルティメット! スーパーウルトラグレートアルティメット美少女!!」
「へいへい」
ナミに背を向けて手を振る。
すると、後ろでナミの小さな笑い声が聞こえてきて、イクサも小さく笑った。
デッキケースから【カオス・巫女・ナイト】のカードを出す。
「あの時はありがとう、巫女ナイト」
シンヤとのバトルで勝てたのも、そして、今こうしてナミと笑い合えるのも巫女ナイトのおかげである。そう思いながら、カードに向かって礼を言う。
しかし、カードからは返事が返ってこなかった。
まあ、それが当たり前なのだが。
カイトが言ったように、カードには不思議な力がある。
イクサはそれを認め、その存在を受け入れた。
だからこそ、今の現実がある。きっと今日の自分は、昨日の自分よりも一歩前に進めた。そう確信している。
一方で、シンヤの身に起きたことに対する不安感が体の奥から沸き上がってくる。
本当に生徒会はカードバトル部の敵なのだろうか。
今回の騒動の黒幕は、生徒会長である鹿羽フジミなのだろうか。
降り積もっていく問題を前にして、自分が確実に、何か大きな陰謀の渦中に巻き込まれていることを、イクサは感じた。
人の気配がしない帰り道は静寂さはまるで、嵐の前の静けさのようだった。
☆☆☆
――カードショップ・カードタウン――
店長の前田がパソコンに本日の売上記録などを入力していると、突然メールが届いた。
「ん? カイトくんからですね」
メールを開いてみると、イクサがデッキを手に入れたこと、そのデッキのトライブが今まで見たことのない未知のトライブであること、などが綴られていた。
「なるほど、イクサくんは無事にカードマスターになれたんですね」
『カードマスター』……それはカード達の主を意味し、バトル・ガーディアンズのゲームユーザーのことを指す言葉だ。
前田は喜びの声を出す一方で、「しかし……」という声を漏らす。
「カオストライブ、ですか……」
一旦売上記録のページの内容をセーブした後に閉じ、孤高グループが運営するバトル・ガーディアンズのオフィシャルサイトにアクセスする。
そして、トライブ一覧のページを開き、ひと通りのトライブを確認するために上下にスクロールする。
「……やはり、見当たりませんね。となると……」
少し溜め息を漏らすと、机の引き出しを開いて中から紙の束を取り出す。
――【リライヴ計画】――
紙の束を握る手が強まり、紙面に皺ができる。
「この計画は、まだ死んでいない……ということですか」
忌々しげに呟くと、紙束を再び引き出しの中に戻す。
サイトを閉じ、パソコンをシャットダウンする。
「さーてと!」
まるで気分転換するかのような明るい声を出し、傍らに置かれていたビニール包装されたモノに手を伸ばす。
ビニール包装を剥がすと、どうやらそれは何かのポスターのようだ。
ポスターを手に取ってショップの外に出て、それを店の壁に貼る。
「とりあえず、すぐに何かが起こるわけでもないでしょうし。今はただお祭りを楽しみましょう」
ポスターを眺めながら、前田は楽しそうに言う。
「今年も、これがやってくるんですから」
【協会公認! 地区大会個人戦出場者選抜! カードショップ大会!!】
「年に一度の大イベント……今回も熱いバトルが繰り広げられることを期待していますよ」
できれば、取り越し苦労であることを、何事も起きないことを、前田はただ願う。
【号外! デッキレシピ特集!!】
カイト「今回は俺のデッキレシピを大公開だ! どうも、戦宮カイトでーす!」
イクサ「主人公の、聖野イクサだ。俺はまだデッキの調整があるから今回はパスってことで」
カイト「よーし、今回載せるデッキレシピは第4話現在のモノだから、ストーリーが進めば色々と変わるので、よろしく!!」
イクサ「じゃあ、カイト。早速デッキレシピを頼む」
カイト「よっしゃあ、これが俺のディヴァインデッキだ!! 特と見やがれ!!」
【ディヴァインデッキ】
【アタックガーディアン】
・SF【0】
【ディヴァイン・ストーム】×2
【スパーク・ディヴァイン】×2
・SF【1】
【ディヴァインソルジャー】×2
【ディヴァイン・シールダー】×2
【ディヴァイン・ウォリアー】×3
・SF【2】
【ディヴァインウィザード】×2
【ディヴァインアローズ】×2
【ディヴァイン・セイバー】×2
【ディヴァイン・ジェネラル】×2
・SF【3】
【ディヴァイン・パワード】×3
【ディヴァイン・ネイビー】×3
・SF【4】
【ディヴァイン・アームド】×3
【ディヴァイン・ブレード】×3
【盟約の騎士 ディヴァイン・ジーク】×3
【ディヴァイン・ダッシュ】×3
・SF【5】
【ヴァルキリー・ディヴァイン】×1
【ディヴァイン・ソード】×3
【ディヴァイン・ダッシュ】×3
・SF【6】
【ディヴァイン・ナイト】×1
【ディヴァイン・ロード】×3
【アシストガーディアン】
・SF【0】
【ディヴァイン・アシスター】×3
・SF【1】
【ディヴァイン・ジェネレーター】×3
【カウンターカード】
【ハーフダメージ】×2
【手札の祝福】×2
【ドメインカード】
【ディヴァイン・サンクチュアリ】×2
カイト「以上だ!」
イクサ「SF【3】【5】【6】のカードが少なめなんだな」
カイト「俺のデッキはドロー能力に長けているからな。SFが高いカードはなるべく少なくして、序盤のドローで引き当てる。運任せだけど、それが俺のデッキプロセスだ」
イクサ「あれ? 【聖なる巫女】が入ってないけど……」
カイト「聞かないでくれ……」
イクサ「? じゃあ、今日はこの辺で。また次回〜!」
カイト「それにしても、諸星シンヤにカードバトル部を襲わせたのは一体誰なんだ?」
次回もお楽しみに☆




