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不、不、不、千年物語  作者: 深春 予
第一章:as ミヨク『傍観者』
23/25

第23話 幕間 その後のオアの大陸──


 ──それから数ヶ月の時が流れ、魔王城は増築して巨大な建造物へと進化を果たしており、しかも魔王は結局は四天王の上に、五大天や更にその格上に当たる三元狂なるモンスターを作り、ご満悦していた。


 勇者一行もまた順調にパワーアップしていた。この頃には四天王を難なく撃破できるようになっていて、特に勇者はそれでも余力が充分に残る程にミヨク曰くの潜在能力が大幅に開放されていた。


 勇者対魔王、最終決戦迫る。


 ──といった感じなのだが、その前に一つ事件が起きた。


 それは海の見える港町で勇者一行が夕食を済ませ、せっかくだからと浜辺を散歩をしていた時だった。


 ──そう、ミナポが服を脱ぎ捨て、真新しい水着を自慢げに披露をし、どう? 月明かりと星空と海と私のこのシチュエーション? 最高でしょ? と得意げに鼻を鳴らしたその時。


 ──そう、それを見てユナが、えっ? 嘘? なにその水着? 知らないんだけど……嘘でしょ、買ったの? いつ? えっ、なに? あの目茶苦茶ゴージャスな感じ? えっ、幾ら? 幾らなのそのゴージャス水着は? 凄いゴージャスだけどマジ幾らなの? えっ、ってか、あんた夕食も皆よりもワンランク高い肉を食べていたわよね。えっ、マジあのブスはどういうブスなのマジで! ってか、魔王を退治する旅に水着はなんの為なの? いや、マジであのブス、ブスすぎない!! と、物凄く苛々が募ったその時。


 ──そう、そのユナの殺気に当てられた戦士がぞくりと背筋を震わせ、勇者が思わず「ゆ……ユナきゅん……」と世界中の誰もが付き合い始めた頃に犯してしまいがちな恥ずかしい呼び名を思わず口に出してしまったその時。


 ──そう、ペルシャが3.8の視力を最大限まで発揮してミナポの胸部を完璧に捉え、やや暫く鑑賞した後で、やはり残念なおっぱいだなお前は、となぜか格好つけて前髪を払った、その時。


 激しい水飛沫と轟音を立てて、大海原をこちらに向かって猛烈に泳いでくる人影があった。


「えっ、嘘でしょ?」


 最初に気づいたのはミナポだった。すかさず「その台詞は私の方だ……えっ?」とツカツカ近寄ってきたユナに突っ込まれそうになったが、彼女もまた海を割る人影に気づいて目を丸くする。二人の喧嘩に深いトラウマを持つ男性陣は、まだ安全な距離を取ったままだ。


 人影は浅瀬でザザァと立ち上がり、そのまま迷いのない歩を進めてくる。


 やがて月光の下に露わとなる容姿。仄かな光でも鮮明に分かる、燃えるような真っ赤な髪。それを極限まで剃り落とした坊主頭の男。顔の印象と雰囲気から、年齢は20歳にも満たないくらいか。身長は170センチメートルほど、引き締まった細身。


 ──それがはっきりと視認できるほどに、彼は全身に、何一つ身につけていなかった。


 そう、完全なる素ッ裸であった。


「あ、あなた町の人?  にしても駄目よ、そんな格好でぶらぶらしていたら……って、ぶらぶらってそっちの意味じゃないわよ」


 月明かりだけでよく見えなかったのもあるが、ユナは割と冷静に常識を説き、割と冷静に一人ツッコミを入れ、割と冷静に「ふふふ」と笑った。


 対するミナポの反応は、意外にも予測を裏切るものだった。咄嗟に両手で目を覆い、本気で慌てふためいている。


「えっ、嘘でしょあんた? うちの戦士なんて風呂上がりにしょっちゅうぶらぶらさせてるから、あんなの慣れてるじゃない?」


「見てない!  私、そういうのは見てないもん。マードリックのも誰のも、そんなの一回も見てないもん!」


「……もんって……あんた意外とあれなのね、そんなゴージャスな水着を着てるくせに……って、ミナポあんたその水着なによ? いつ買ったのよ? 幾らしたのよ? なんでそんなにゴージャスなのよ! って、なんの為に水着買ったのよ? ふざけんじゃないわよマジで!」


 再点火したユナとミナポの言い合いを見つめながら、勇者と戦士は「これは普段のやり取りだ」とホッと胸を撫で下ろした。


 そう、いつもの間の抜けた穏やかなギャグモード。きっとこの赤い坊主頭の全裸男も、それを手助けするお騒がせキャラの一人に違いない。


 ──と、誰もが、その甘い錯覚に身を委ねていた、その時。


 赤い坊主頭の男は、まるでコントのオチでもつけるかのような無造作な足取りでミナポに接近していく。それに対してミナポが「やめて! 来ないで、来ないで!」と本気で拒絶し、それを見たユナが悪戯っぽくニヤニヤと笑った、その瞬間──。


 赤い坊主頭の男は、薄気味悪い笑みを浮かべたまま、音もなく右肘を引き絞った。


 そして。そのままの軌道で、狂暴な右拳をミナポの顔面へと炸裂させた。


 ゴッッッ!!!


 一切の情け容赦を削ぎ落とした、肉と骨が砕け散るような痛烈な質量音が不気味に響き渡る。ミナポは悲鳴を上げることさえ許されず、弾丸のように後方へと弾け飛んでいった。


 誰もが呼吸を忘れ、言葉を失って凝固する絶望の中で。


 赤い坊主頭の男は、ただ一人、さも愉快そうに肩を揺らした。


「クカカ。邪魔だぞ女。クカカ」



 ◇◇◇



 この時、このオアの大陸に時の魔法使いミヨクは不在だった。もし、彼が居たのならこの先の未来が変わっていたかも知れない。それだけその男の正体は特別であったから。


 何故なら、


 ──この赤い坊主頭の男の名は、


 ラグン・ラグロクト。


 ──なのだから。


             

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