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第1章 第二十話 堕天の羽ばたき

本部広場を覆う土煙の中で、ルシフェルは静かに立ち上がった。


かつて仲間と共に笑い合ったその瞳は、今や冷徹な深淵の闇を湛えている。


角、翼、そして尻尾――異形の姿へと変貌した彼女の周囲では、大気そのものが悲鳴を上げ、雷鳴が激しく打ち鳴らされていた。


すると突然、星そのものがルシフェルへ語りかける、そんな感覚がした。


「……トドメを刺すなと言うのか、ノヴァよ」


ルシフェルは崩れ落ちたウカビルを見下ろしながら、自嘲気味に呟く。


「助かったな·····ウカビル。でも次は殺す」


彼女の背後にそびえ立つ無数の時の使者たちは、その圧倒的な禍々しさに震え、トリガーを引くことすらままならない。


「動くな! 怪物め、二度とクロノス星の土を踏ませはしない!」


隊長の声に呼応し、全警備隊が一斉にエネルギー充填を開始する。


だが、その光はルシフェルにとって、もはや何の脅威でもない。


そして星の声すらもルシフェルには届かない。


「もう……何も聞こえない」


ルシフェルがゆっくりと黒い翼を広げる。


その瞬間、翼から放たれた衝撃波が全方位を薙ぎ払い、警備隊の放ったレーザーもろとも、彼らの防御障壁を紙屑のように吹き飛ばした。


轟音と共に隊員たちが宙を舞い、広場は完全な静寂に包まれる。


彼女は、自分を信じてくれなかった星、真実をねじ曲げたウカビル、そしてこの理不尽な世界へ背を向けた。


(待っていろ……ウカビル·····、次こそこの手で断罪してやる)


黒い仮面の男が言っていたことは本当だった。


ウカビルやクロノス星のこと、黒い仮面が誰なのか、もはや彼女にとってはどうでもいいことだった。


大切な居場所を失ったルシフェルには、もはや「世界を滅ぼす」という意志だけが唯一の生きる糧となっていた。


彼女は地を蹴り、漆黒の光となって成層圏を突き抜ける。


眼下で遠ざかっていくクロノス星を見下ろし、彼女は静かに宣告した。


「いつか...必ず戻ってくる...」


宇宙の漆黒に溶け込むようにして、彼女は遥か彼方へと消えていく。


その背後には、かつての星の残骸を飲み込むかのような、冷たい闇だけが残されていた。


新惑星クロノス星の歴史に、決して消えることのない深い傷跡が刻まれた瞬間だった。


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