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リムソンライフ  作者: エッグ・ティーマン
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タコス職人と店の秘密

2016年 リムソンシティ ファストフード店 ジョイキッチン

 「うむ、採用だ!」バーク店長は叫んだ。新しい用心棒は文句なしに使える奴だ。元レスラーで、地下格闘技界隈では王者として有名。おまけに彼が実演して作ったタコスは絶品だ。滅多に部下を誉めないとして知られているバークの口から「何故タコス屋を開かないんだ?」と言われたほどだ。


 バディダはトイレ掃除をしていた。このレストランのトイレはリムソンシティの治安を表していた。つまり、掃除しても翌日には汚くなっている。おまけに個室にはポルノ雑誌や白い粉が内側に付着した小袋などが落ちている。(元運び屋バディダには、その粉が麻薬だと分かっていた。)さらに前日から泥酔している者、男性用個室に女を連れ込む者まで現れる始末だ。

 今も彼は朝から個室で女と性交していた初老の男と対峙していた。男もその愛人とみられる女もバディダを睨みつけている。「いいか、人が入っている時は個室を・・・」と男がまくし立てるのを聞き流しながらバディダは「ここは男性用個室ですので・・・」と十回目程度となる説明を繰り返す。「だが個室を覗かないと女がいることは分からないはずだぞ!」と男は叫んだ。バディダは溜息をついて、「ですから、あなたは・・・すごい大胆さですが・・・個室の鍵を開けたままにしていたじゃありませんか!?」という。このままでは堂々巡りだ。男もそう思ったらしく、遂にピストルを取り出す。バディダは慌てて両手を上げる。不法移民のバディダはバークの店でただ働きする代わりに飯と寝床を提供してもらっている身分で(寝床といってもバディダはいつも客席につっぷして寝るのだったが)、ピストルなどの護身道具は所有していない。「いいか、俺らは客、お前は従業員だぞ!好きにさせやがれ!」男は恐らく違法薬物を常用している。情緒が不安定なようだ。愛人の女は男の後ろからバディダをあざ笑うように見ていた。バディダは「承知しました」と言うと両手を上げながら後ろ向きに下がり・・・トイレに入って来た何者かとぶつかった。

 「俺の考えじゃ、お客様は神様なんていうのは迷信だな。」よく通るハスキーボイスが響き渡る。筋肉質のインディアンの男が立っていた。ピストルを構えながら個室から出てきた初老の男は「部外者は消えろ。」と言いながら、その男にもピストルを向ける。「ほほう・・ちんけな玩具だな。」と言う冷静な筋肉質の男の対応。「なんだと!?」といった初老の男に次の瞬間、インディアン系の男は飛び掛かっていた。ピストルが弾き飛ばされる。慌てる初老の男の首筋をつかんで壁に叩きつける筋肉質の男。初老の男は気絶した。怯える女は尻もちをつく。その女に向かって平坦な口調でインディアン系の男は言う。「失せな。」


 バディダは感心してこの店の新しい用心棒だというインディアンの男メドゥスの話を聞く。彼はメキシコ生まれの教養人だった。親のタコス屋で働いているときにタコスを作る技術を獲得したらしい。タコス屋は地域住民に人気だったが、その地域には麻薬栽培の畑を管理するギャング集団もいた。彼らから店を守るためにメドゥスは体を鍛えたという。鍛える際の師匠が近所のプロレスラーであり、その影響でプロレスに目覚める。プロレスに傾倒する彼と店を継がせたい両親の間に亀裂が走り、ある夜彼は家出してアメリカに渡ったらしい。師匠の師匠がアメリカでプロレスラーの養成学校を開いていると聞いたからだ。だが無計画に考えたアメリカ渡航。飛行機の金と生活費でメドゥスの金は消えてしまった、仕方なく地下格闘技界でレスリングをして稼ぐ。ところが仕方なくはじめた地下格闘レスリング選手としての金稼ぎが軌道に乗り、遂に地下格闘技のチャンピオンとなる。だがある時試合を行っていたところ、格闘技場に警察が突入。彼は逮捕されてしまう。だがとある資産家が保釈金を払って彼を救い出し、この店の店長に紹介したらしい。そして現在採用されている。

 「店長からお前に休憩を取らせる許可を貰って来たよ。タコスだ、食えよ。」「ありがとう。」バディダはキッチンでメドゥスが作ったタコスを口に入れた。「おお・・・」何日ぶりかに食った美味い飯。つらい生活をしているバディダにとっては感動ものだった。「タコスのお店をご自分でひらいては・・・」「ハハハハハ・・・お前はバークさんと同じことを言う。」面接でも同じようにタコスの味を誉められたようだ。


二時間後

 バークは手汗ですべる受話器を押さえて必死に弁解を試みる。「ええ。必ず返します。」「いつもお前はそう言うな。だが・・・」と間があったあといきなり電話の向こうから怒鳴り声。「俺の元には一セントたりとも返ってきていないぞ!」「も、申し訳ございません。実は・・・」「もう言い訳はいいよ。」と不気味なほど落ち着いた債権者の声がした。「へ、へい・・・」「最終期限を定める。」「は、はい・・・」バークは慌ててメモ帳を取り出す。「来週だ。担保はお前の店、そして・・・お前の命だ。」そう言うと返答を待たずに電話は一方的に切られた。


 その日の夜

 「賄いは用意しなくてもいいと伝えてある。俺のタコスが賄いだ。」清掃員のバディダにそう伝えるとメドゥスはキッチンに入る。バークはメドゥスの作るタコスを商品化しようと考えており、材料を急遽発注したようだ。

 材料を並べ終わったメドゥスは、ポケットから小さな経口カプセルを取り出した。そして彼はトイレに向かうバディダを確認した。「さて、作るか。」


 一時間後。バディダは待ちに待ったタコスを眺める。とてもおいしそうだ。「さあ、どうぞ。」とメドゥス。「ええ、ありがとうございます。」とバディダは言ってタコスにかぶりつく。それを見たメドゥスは不気味な笑みを浮かべた。


 タコスにかじりついてから数秒で寝落ちしたバディダを横目にメドゥスは事務室に近づき、ポケットからピッキング道具を取り出した。それを使って店長しか入れない事務室に入る。

 中は散らかっている。部屋の中央にあるデスクの上には書類が乱雑に積み上げられており、一部は床に落ちたまま放置されている。また、部屋の隅にある錆びたゴミ箱の中には沢山の冷凍ピザの包装紙と煙草が入っている。薄汚れたゴミ袋も落ちており、その中にはビール缶が詰め込まれていた。

「ひどい部屋だぜ。」と言ったメドゥスはデスクの上の書類をめくる。そして「やはり奴は持ち帰ったか・・・」とつぶやいた。しかし部屋を出ようとした瞬間、彼は何かに気づいて立ち止まる。「ふん・・馬鹿め。」あざわらうようにメドゥスはドアに貼ってあった紙を見る。そこにはアルファベットと数字の羅列があった。その上には「経営者パソコンパスワード」と書いてある。

 パスワードでパソコンを開くと、メドゥスは「会計」のファイルを開いた。「ほうほう・・・赤字か。」とつぶやくメドゥス。「過去数か月分を見るに、返済は難しそうだな。」と言った彼は携帯電話を取り出す。電話の向こうから低い男の声がした。バークが怯えて話していた債権者と同じ声だ。「おお、どうだね?」とその男。「数か月分の業績を見るに、金の回収は難しそうです。」とメドゥスは答えた。「そうか・・・今から会計書類を写真にとってデータを寄越せ。それを見て襲撃の可否を判断する。」「承知しました。ホーミー。」と言い、メドゥスは携帯電話の電源を切る。


 二日後 場所不明

 椅子に縛り付けられているボブをこん棒を持ったチンピラ達が取り囲む。だが、勇敢にもボブは彼らを挑発した。「手足を縛られている丸腰の人間を大勢で襲わなければいけないほど弱いんだな、お前らは。」「黙れよ、爺!その達者な口も数秒後にはつぶされてる。」「やれるもんならやってみろ。」「ああ、やってやるよ。楽しみな!」一人の少年ギャングがこん棒を振り上げる。だが、その時。「待て!」と声がして、サイラスが入って来た。「悪いが命令変更だ。こいつの縄を解け。」「し、しかし・・・」「お前は命令を実行するだけでよい。そう言ったよな、前に。」とサイラスに詰め寄られて、チンピラたちは縄をほどく。サイラスが言った。「あなたに救世主が現れましたよ。あなたは私の狂暴な犬どもに傷つけられずに済みましたね。」と言うと、ボブが立つ手助けをした。「さあ、あなたの救世主が待っている。行きなさい。」ボブは無言で立ち上がると、睨みつけるチンピラたちをあざ笑うように見渡し、出口近くのチンピラにわざとぶつかると出て行った。


 「あんただったか、サイラスを説得したのは。カーナックさんよ。」ボブは手招きされた車に近づいて言う。「ああ、感謝して欲しいね。」手招きをした後部座席の男が答えた。「ふん。あんたのことだから、また何かに俺を利用しようとしてるだろ。」「いいや、俺の場合は善意であんたを・・・」「いいから本題に入れ。」「ふう・・・お前は冗談も通じねえ。まあいい、殺しの依頼が持ち込まれた。」とカーナックは説明を始める。「とあるキューバ人を見つけてくれ。」「ほう・・それだけか?」「ああ、一応確認するが・・・・この写真に見覚えはないよな?」そこにはバディダの顔が映っている。「いや、大いにある、俺を裏切った男だ。」とボブは怒りに燃える目でつぶやいた。

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