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第五章 泉美と圭・命と月下  その4・泉美

「うわぁ~~っ!」


 圭さんの案内で遊園地に辿り着いたわたしは、入場ゲートをくぐった直後に思いっきり歓声を上げてしまいました。

 姉さまに連れられて、小さい頃に一度だけ遊園地に来た事がありますが、ここは思い出の中にある遊園地よりも、ずっと広くて華やかです。

 夏の青い空を背景に、巨大なアトラクションが楽しげな音楽や歓声と共に動き、色とりどりの風船が舞っています。人が苦手なわたしが、この時ばかりは一時的にそれを忘れてしまった程です。


「すごいです~」

「だろうっ! 今ちまたで一番人気のデートスポットなんだぜ」


 隣を歩く圭さんが、自分の事のように自慢げにこの遊園地の素晴らしい所を紹介してくれました。


「―――で、やっぱ最初はジェットコースターに乗ろうと思うんだ」

「ジェットコースター、ですか?」


 ひとしきり説明を終えたところで、圭さんが切り出しました。指し示された方に目を向けると、青い空に高く高くそびえる塔のようなレールが見えます。


「あの……、圭さん? ひょっとして、あれが」

「おうっ! その名もタワーコースター。国内一の高さから直滑降で落ちる恐怖を貴方に、だってさ」


 圭さんはパンフレットを見ながら説明してくれましたが、ジェットコースターに乗っている人達の悲鳴に耳を奪われていたわたしには、それを聞く余裕がありませんでした。

 想像を絶する高さから落ちて行くジェットコースター。スピードもかなりのもので、姉さまと一緒に乗ったコーヒーカップ程ではありませんが、とっても怖そうです。


「早速行こうぜ! いや~、楽しみだなぁ」


 ジェットコースターが好きなのか、圭さんはずんずんと先に行ってしまい、わたしは置いて行かれないように急いでその後を追いました。


「け、圭さん。速いですよぅ!」

「あ、ごめんごめん。つい……」


 声を掛けると、圭さんはばつが悪そうな顔を見せて、わたしと歩調を合わせてくれました。わたし達はジェットコースター乗り場まで歩き、ジェットコースターに乗り込みます。

 プルルルルルルルッ! ガシャッ!

 席についてベルトを締めると、発車のベルが鳴り落下防止用の金具が下りてきました。


「………うっくん」

「ほほぅ、いよいよだね泉美ちゃんっ!」

「……………はい」


 楽しそうな圭さんの声を聞きながら、わたしは恐怖と緊張で乾いた喉に硬い唾を流し込んでその時を待ちます。

 ガタガタと硬質な音を発て、動き出すジェットコースター。例の塔のようなレールをジワジワ登っていき、天を仰ぐような形になったわたしの視線には憎々しい程青い空だけが広がり、自分がかなりの高さまで運ばれている事を嫌でも自覚させられます。

 心臓が破裂しそうな時間が過ぎ、ジェットコースターはレールの頂上で一時停止し、わたしは次の瞬間には襲い掛かってくるだろう恐怖に身を竦ませます。

 風がふいてレールが軋んだとかと思うと、ついにジェットコースターは直滑降での落下を開始しました。


『キャァアアアアアア』


 乗客達の黄色い悲鳴を吹き飛ばすような勢いで、ジェットコースターは地面へと真っ逆さまに落下していきます。


「――――――っ!」


 わたしは他の人達のように悲鳴をあげる事も出来ず、両目をギュッと瞑って身を硬くしました。

 それでも、肌に感じる風や身体に掛かる負荷が、落下している事を如実に語ってきます。

 あまりの恐怖に、結局わたしはそのままジェットコースターが止まるまで目を開ける事が出来ませんでした。



「楽しかったねぇ、泉美ちゃん」

「そ、そうですね」


 ジェットコースターを降り、わたしはふらつくのを何とかこらえながら、圭さんと歩いていました。


「また乗りたねぇ」

「は、はい」


 圭さんはわたしの様子には気付くことなく、怖い事を言っています。


「でも、やっぱ遊園地って言えばコレだよな」

「ふえ?」


 唐突に、圭さんが足を止めました。少々気持ち悪かった事もあって、下を向いていたわたしは彼の声で視線を上げます。そこには、白い看板が立っていました。


「峠越え病院? 遊園地の中に病院があるんですか?」

「あははは、違う違う。ここは峠越え病院って名前のお化け屋敷だよ」

「へぇ⁉」


 自分でも、顔から血の気が引いていくのが分かりました。

 作り物とは言えお化けはお化け、わたしにとってそれは紛れもなく恐怖の対象です。


「さ、入ろうか泉美ちゃん。……って、どうしたの? 顔色悪いよ」

「い、いえ。さっきのジェットコースターでちょっと酔っただけですから、大丈夫です」

「そ。じゃあ行こうよ」

「は、はい……」


 たのしそうな圭さんに、まさか嫌だとも言えず、化け屋敷の中に足を踏み入れました。


「う、うぅ~」


 お化け屋敷は病院と言う名前がついているように、廃病院をモチーフに作られているようでした。入り口をくぐって中に入ると待合室があり、そこには看護士さんの格好をした女性が何名か見受けられました。

 ただ、その誰もが陰鬱な雰囲気をまとって顔を下げています。わたし達が恐る恐る近づいて行くと、彼女達は一斉に動き出しました。


「「!」」


 驚いて息を飲むわたし達を、一人が手招きします。どうやら彼女がお化け屋敷の中を案内してくれるようですが、その彼女も動きがお化けじみていてとても不気味です。


「い、いこっか」

「は、はい」


 わたし達が頷きあっている間も彼女は一言も発せず、わたし達が動き出したのに合わせてのそりのそりと歩き出しました。

 彼女の後を追って薄暗いお化け屋敷の中を進んで行くと、病室を模した個室からうめき声や悲鳴が聞こえ、時にはお化けが飛び出してくるではありませんか!


「ひぃい!」


 作り物だと頭では分かっていても、怖くて仕方がありません。助けを求めたくても、近くに居るのは圭さんと幽霊のような看護士さんだけ。

 出口が見えるまで、わたしは必死に恐怖に耐え続けました。

 背後から何度も悲鳴が聞こえたり、圭さんに手を握られたりした時には、本当に心臓が飛び出しそうなくらい怖かったです。

 それでも、後を付いて来てくれているはずの姉さまと、神社の皆や命さんの事を思い出して、わたしは必死に耐えました。

 だからお化け屋敷を出た時には、冗談ではなく腰が抜けてしまいました。

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