第五章 泉美と圭・命と月下 その6・和泉
「こく、こく……ぷふぅ~」
圭さんが買って来てくれた缶のお茶を飲み、わたしはようやく一息つく事が出来ました。
場所は遊園地の一角に設けられた売店の前。時間は正午を過ぎ、わたし達は売店で買ったパンや惣菜で遅い昼食を食べているところです。
「いや~、楽しかったね泉美ちゃん」
「そ、そうですね」
楽しかったと言うか、生きた心地がしなかったと言うか……。
「あ、そうそう。今そこで聞いたんだけど、俺達が出た後、お化け屋敷閉館しちゃったみたいだよ。良かったよな、俺ら入れて」
「あははは……」
――出来れば、わたし達が入る前に閉館してほしかったです。
圭さんのた他愛無い話を聞いているうちに食事も終わり、わたし達は席を立ちました。
態度や表情には出ないように気をつけましたが、次にどんな乗り物に乗るのか、内心で戦々恐々としています。
「ええっと、時間は………ああ、もうあんまりないなぁ」
圭さんはゴミを片付けながら腕時計に視線を落とします。ジェットコースターの待ち時間やお化け屋敷への移動に時間を使ったので、かなりの時間が経っていました。
「早いなぁ~、もうこんな時間だなんて」
圭さんは驚いたように声を上げます。わたしも、圭さんと同じ事に驚いていました。
ただし、わたしの場合は時間が経つのが早い事にではなく、遅い事にでしたけど。わたしの感覚では、もう二時間程余計に経っている気がしていました。
「こりゃあ、次に乗るので最後かな」
「そうですか」
圭さんが残念そうに呟いたのを聞いて、わたしはホッとしました。いくら姉さまが付いて来てくれているのが分かっていても、今日は怖すぎました。
「じゃあ、そうだなぁ………。最後に、あれに乗ろうよ」
「あれ、ですか?」
圭さんが指差す方に目を向けると、そこには大きな大きな観覧車が色々な色の光に彩られながらゆっくりと回転していました。
「観覧車ですかぁ」
わたしは安心して胸を撫で下ろしました。観覧車なら怖くはありません。
「良いかな?」
「はい。大丈夫です」
「おっしゃっ! んじゃ、早速行こうぜ」
何故か大はしゃぎの圭さんに連れられて、わたし達は観覧車へと足を伸ばしました。
でも、この時のわたしは観覧車の新の恐ろしさをまだ知らなかったのです。
今までで一番長い順番待ちの列に並び、係員さんの指示に従ってゴンドラの中に入って初めて、わたしは観覧車の真の恐怖を思い知る事になりました。
「「………」」
それは、狭い空間の中で圭さんと……男の人と二人っきりになると言う事です。
「……ねぇ、泉美ちゃん」
「! は、はいっ!」
観覧車自体は怖い乗り物ではないので失念していましたが、ある程度の高さまで上がれば外から中は見えなくなるし、こんな場所ではいくら姉さまでも助けに来てはくれません。
姉さまが助けに来てくれない。そう思ってしまうと、もうダメでした。
「………う、うぅ」
わたし身体をちじこめて耳を塞ぎ、目もギュっと閉ざしてガタガタと震える事しか出来ませんでした。
「あ、あのぅ……」
圭さんが何か話しかけようとしているのは分かっていましたが、ダメです。
圭さんは命さんの友達で、わたしの恩人かもしれない人。酷い事をしたりするような人じゃない事は頭では分かっているのですが、心が震えてしまってどうする事も出来ません。
結局、わたしは係員さんに観覧車から降ろされるまでの間、そうやって一人で震え続けていました。




