カタラーニの最期
夜の闇を街路灯がぽつりぽつりとオレンジ色に照らし出している。そんな空間に青や赤の光を夜の店の看板が彩りを添えている。
そんな一軒のドアを、長い髪の女性が押し開いた。
店の中は紫煙に満ち、喧騒に満ちた空間である。たった一人で、そこの足を踏み入れる女性。
店の中にいた男たちの目は、店の中に入ってくるその女性に向かう。
こんな女がこの世にいたのか?
男たちが、そう思わずにいられないほどの美女である。男たちは知らない。それが、クラウディアであることを。
まとわりつく男たちの視線を気にもせず、カウンターに向かうクラウディア。
カウンターの横にある通路から、カウンターの中にクラウディアが入ろうとする。
カタラーニの居場所。かりそめとは言え、同盟を結んだベルッチはすでにそれを把握していた。
場所さえわかれば、カタラーニを抹殺することなど、容易な事である。
「お客さん。ここは立ち入り禁止ですよ」
カウンターの中にいた店員がクラウディアの前に立ちはだかる。
客たちはクラウディアの異様な行動に目が釘付けである。
店員の横をすり抜けようとするクラウディアの肩を店員が掴む。
肩を掴んでいる店員の手をクラウディアが掴み返すと、ねじ上げた。
「いてててて」
店員が体をよじりながら、呻いた。
階下の異変に、二階にいる者たちが気付いた。
二階から銃を手に駆け下りてくるソルジャーたち。
一階にたどり着いた時、腕をねじりあげられていた店員の腕がちぎれ落ち、その腕から血しぶきが上がった。
「ぎゃーっ!」
店員の悲鳴が轟く。店の中の客たちがわれ先にと逃げはじめる。
「やろぅ」
そう言って、二階から降りてきたソルジャーがクラウディアに銃口を向かけた瞬間、そのソルジャーの腹部にクラウディアの拳がめり込んでいた。
「げはっ!」
体液を口から吐きながら、吹き飛ぶソルジャー。
後方にいた数人のソルジャーも巻き添えである。
二階で階下の様子をうかがっていたカタラーニが、慌てて席を立って、窓辺に走り寄る。
窓の先には隣の建物とを隔てる狭い空間を挟んで、隣の建物の窓がある。
手を伸ばせば届く距離である。と言うより、その窓のある部屋もカタラーニの部屋であって、緊急時の逃げ場所であった。
カタラーニが上半身を乗り出しながら、手を伸ばしてその隣の窓を開けようとする。
カタラーニがいた部屋の明かりが、カタラーニの姿を浮かび上がらせている。
「くっくっく。ビンゴだぜ!」
狭い通路に潜んでいた人影が、そう呟きながら、狙撃銃を構えた。
照準がカタラーニをとらえた瞬間、トリガーを引いた。
闇に銃声が響いた。
どさっ。
側頭部を撃ちぬかれ、人としての機能を失ったカタラーニが地上に落下した。
カタラーニファミリーの支配域を傘下に吸収したベルッチファミリーは、コルレオーネファミリーと境界を接する事となった。
ガンビーナファミリーの脅威も消し去っていたベルッチファミリーには、コルレオーネファミリーに対する選択肢として、戦争と束の間の和平、両方があった。




