警察署にて
そこは多くの窓から差し込む外の日差しと、天井に取り付けられた照明で、かなり明るく広いフロアだった。そのフロアにはそこで働く者たちとそこにやって来る者たちとを隔てるカウンターが設けられ、空間を内と外に分けていた。
カウンターの上には暴漢から内側の者たちを守るため、強化プラスチックでできた衝立まで設けられていた。
内側でカウンターの前に座るその男は目の前のカウンターに目をやることも無く、新聞を読んでいた。
「最近はマフィアの抗争が多いなぁ。
ベルッチがエルカーンを攻めてから、戦争状態じゃないか」
新聞を読みながら、男がぶつぶつ言っている。
リリリーン。リリリーン。
男の横に置かれた電話が鳴ったが、男はちらっと見ただけで、電話を取る素振りも見せず、新聞に目を戻した。
「しかし、この子はなんで、こんな戦いに絡んでいやがるんだ?」
男は新聞に載っているあすかの話を読むことに熱中しており、衝立の前に人が立った事にさえ気付いていない。
男の前に立った女は全く自分の事に気づかず、新聞から目を離そうとしない男に業を煮やし、衝立をどんどんと叩きだした。男は新聞を下げ、前を見て、ようやくそこに一人の中年の女が立っていることに気付いた。
前に立っている女はカテリーナと言った。
男が面倒臭そうに、カテリーナにたずねる。
「どうしました?」
「娘が、娘のルチアーナがさらわれました。
娘を助けてください」
カテリーナの表情からは、真剣に助けを求めている事がうかがい知れた。
一方の男は厄介な事になりそうだと感じ、関わりたくなさそうな表情がありありと浮かんでいる。
「で、誰に、どこに、とか分かりますか?」
「はい。ガンビーナファミリーです。
借金が返せないのなら、娘を売り物にすると言っていました」
男はやっぱりと言う感じの仕草をしながら、カテリーナに言った。
「だめだね。ここは警察だ。マフィアには関わらない」
「警察だから、来たんじゃないか!
警察なんでしょ!」
カテリーナは必死の形相になっていた。
ふうと男は首を横に振った。
その時、男にさっきまで読んでいた新聞記事が目に入った。




