見た目は天使、中身は冷徹な悪魔
しかし、男のその予想は見事に裏切られた。
あすかは体を90度傾けて倒しながら、回転し背後の男にケリを放った。
あすかの上半身を狙っていた銃弾はむなしく空を切り裂いただけだった。
「ぐはっ!」
ソルジャーは口から血を吹き出しながら、吹っ飛んでいく。
「まじかよ?
銃の腕だけでなく、空手かなんも使えるのか?」
男は信じられぬ顔で、立ち尽くしている。
あすかは戦いの場で、残った敵がいないか、辺りをゆっくりと見渡して確認している。
炎上している車の周囲には焼け焦げ、炭化したソルジャーたちが横たわり、銃弾を浴び蜂の巣のように小さな穴を無数に開けた車の車内やその周囲には、血の海に沈んだソルジャーたちが横たわっている。
その騒動を遠巻きに見ているやじ馬たちはいたが、誰一人武器を手に戦意をたぎらしている者はいない。
今度こそ、本当に戦いが終結した。
あすかは生き残ったソルジャーたちがいない事を確かめると、歩道に上がり、何事も無かったかのように歩き始めた。
その表情に後悔も迷いは見えない。
「見た目は天使だが、中身は冷徹な悪魔」
男がぽそりと言う。
あすかの進む先には何人ものやじ馬たちがいたが、あすかが近づいてくると、慌てて道を開けた。
その顔にはマフィアを倒した事への歓喜というより、恐怖の方が浮かんでいる。
やじ馬たちを抜けたあすかのさらにその先にはバイクの男がいた。
バイクの男も、近づいて来るあすかに顔が引きつり、脂汗が顔を伝っていた。
自分を襲ってくる理由は無い。
しかし、カメラで隠し撮りしていたのは事実。
そんな事、ばれている訳がない。
そう思ってはいても、男には耐えがたいプレッシャーだった。
男は慌てて、ヘルメットをかぶると、バイクのエンジンをかけ、その場を逃げだすように走り出した。
男のバイクがあすかの横を通り過ぎる。
バクッ、バクッ、バクッ。
男の鼓動が破裂しそうなくらいの音を立てている。
あすかの横を通り過ぎても、安心はできない。
背後から、銃で撃たれる可能性だって残っている。
「ふぅー」
男は完全に銃の射程距離から離脱した時、安堵の息をもらした。
あすかは男の事など、無関心でそのまま歩道を歩いている。
はるか先の路肩に停車していた車がゆっくりと発進し、そんなあすかに近づく。
その車の運転席と助手席に神父服姿の男が座っていて、あすかの横まで来て停車した。
あすかが後部座席のドアを開き、中に乗り込む。
「お疲れ。
また待ち人来たらずだったな」
助手席の神父が、あすかに顔を向けながら言った。
「はい。そうですね」
あすかはそう言って、にっこりとほほ笑んだ。




