全てを手に入れるのはこの俺だ
アーシアが滅ぼしたエルカーンファミリー。
規模的には大きくはなかったが、経済基盤は強力な地域を支配していた。
そこを手に入れた。
ベルッチファミリーはその資金をヒューマノイド開発につぎ込んできたため、経済的には疲弊していた。
エルカーンファミリーの支配域を手に入れた事は、その危機を救う大きな成果だった。
しかし、支配者を失った空白地域を狙う者は他にもいた。
同じくエルカーンの支配地域と隣接しているガンビーナファミリーである。
ガンビーナはコミッションに参画する五大ファミリーの一角であり、ガンビーナとベルッチは同盟関係にあった。その絆はガンビーナのボスの妻であるロベルトの妹であった。
親密な関係であるガンビーナたちはエルカーンの支配下だった地域に進出してきてはいたものの、ベルッチたちとのほぼ中間位置を越えることはしなかった。
つまり、ガンビーナからすれば、エルカーンの元支配地域を分割統治しようと言うことである。
これはベルッチにとっても想定内であり、ガンビーナの行動を黙認していた。
その日までは。
ベルッチのボスは椅子に深く腰掛けながら、葉巻をくゆらせていた。
ボスの背後にある窓からは見える木々は、その部屋の中でゆらりと揺れる葉巻の煙とは違い、激しい雨と風に揺らいでいる。
「そろそろいいだろう。
戦争を始めようじゃないか。
全てを手に入れるのはこの俺だ」
ボスはつぶやくと、おもむろに電話をかけ始めた。
「オッタビア。
そろそろロベルトが原を地中海に沈めた頃だろう。
さぁ、戦争を始めようじゃないか。
我がファミリーが、全マフィアの頂点に立つための」
「ボス。分かりました。
予定通り、まずはガンビーナに仕掛けます。
ガンビーナと言えど、すぐに倒せますよ。
コミッションの地位も、じきに我々のものです」
電話の向こうで、オッタビアは上機嫌なようだった。
ガンビーナとベルッチの戦争が始まったのはその次の日の事だった。




