一回だけのチャンス?
「あっ、いや、なんでもない」
原はそう言った後、美紀を離し、机に向かっていく。
父の行動に美紀が不安そうに、原を見つめる。
「どうした?」
ロベルトが再び声をかけた。
原は机に向かうと、引き出しから何かを取り出し、ポケットに入れた。
「一つしかできていない。一回だけのチャンス」
原がぽそりと日本語で言った。
美紀には聞き取れたが、ここでその言葉の意味をたずねるべきではない。
そう感じていたため、その事に関して何も言わなかった。
慌てた雰囲気に不信を抱いたロベルトが原に近づく。
「何をそんなに慌ててしまったんだ?」
ロベルトが原を覗き込むようにして言った。
「あ、ああ。妻の写真が入っている財布だ」
慌てた手つきで、原がポケットから財布を取り出し、財布のカード入れの中に入っている写真を取り出し、ロベルトに見せた。
確かに財布から取りだされた写真には日本人の女性が写っていた。
その写真に目をやったロベルトはふっと笑った。
「まあ、いい。
行こうか」
ロベルトの言葉に男たちがやってきて、外に連れて行こうと、美紀の腕を掴んだ。
原の顔に不安が浮かぶ。そんな不安げな顔で、ロベルトにヒューマノイドの事をたずね始めた。
「ところで、彼女たちの調子はどうですか?このあたりにいるのですか?」
突然どうした?
ロベルトは疑念を抱いたが本当の事を教えた。
「それぞれ、主人の下に行っているが、調子よく働いているようだ。
アーシアも任務についているはずだ」
「そうですか。じゃあ、会えないですね」
そう言う原の表情は、少し暗いようだった。
自分が造った最高傑作のヒューマノイドたち。
それをもう一度見たかったのか?
ロベルトはそう思いながら、原の肩に手をかけ、ベルッチの屋敷を後にして、ロベルトの屋敷に向かって行った。




