表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

第24話(最終話):黄金の女王と、終わりなき帳簿

――金属の、清冽で気高い響き。

 

 新しく設立された「世界中央銀行」の鋳造所では、今日も数百万枚の金貨が産声を上げていた。

 その表面に刻まれているのは、かつてアステリアを追放された、ある令嬢の横顔。

 

 アイリス・フォン・ヴァロワ。

 

 今や、この金貨こそが世界の「信用」そのもの。

 この一枚があれば、帝国のパンも、北国の毛皮も、南国の宝石も、すべてが適正価格で手に入る。

 

 私は、執務室の窓から、黄金色に輝く大陸の地図を眺めていた。

 

「……アイリス様。……本日の、世界の『決済状況』ですわ」

 

 リンが、音もなく私の傍らに立ち、一冊の薄い手帳を差し出す。

 

 かつては分厚い「負債の山」だった私の帳簿。

 今は、その一行一行が、世界の「平和」と「繁栄」を証明する数字で埋め尽くされている。

 

「……あら。アステリア地方の開拓地から、微々たる納税(返済)があったようですわね」

 

「ええ。……かつての『管理人』と『資産』が、泥にまみれて耕した土から収穫された、不揃いのジャガイモ数個分ですわ。……正直、運送費の方が高くつきますけれど」

 

 リンの言葉に、私はふふ、と短く笑った。

 

 【鑑定対象:ジュリアン&マリス。現状:忘却の彼方。資産価値:測定不能(ゴミ同然)】

 

 ――「静」。

 

 彼らが今、どこで、どんな惨めな思いで暮らしているのか。

 もはや、私の心を一瞬たりとも揺らすことはない。

 

 復讐とは、相手を苦しめることではなく、**「相手が自分に与えた影響を、完全にゼロに書き換えること」**。

 

 私は彼らを許したわけではない。

 ただ、私の輝かしい人生の帳簿から、永久に「除籍」したのだ。

 

「――おい、アイリス。いつまで仕事をしている」

 

 背後から、熱を帯びた声が私を呼んだ。

 

 振り返ると、そこにはゼオン陛下――私の「共同経営者」が立っていた。

 彼は私の腰を抱き寄せ、その大きな手で、私の髪を愛おしげに梳く。

 

「……陛下。……いえ、ゼオン。……世界は今、私の手のひらの上で完璧に回っておりますわ」

 

「ああ。……だが、俺の心臓の鼓動だけは、貴様が計算を狂わせるらしい」

 

 ゼオンが不敵に笑い、私の額に口付けを落とした。

 

 ――「動」。

 

 かつて泥だらけで雨に打たれていた私に、この光景を想像できただろうか。

 

 価値がないと言われ、すべてを奪われたあの日。

 私は、自分自身の価値を、他人の物差し(ルール)に預けることをやめた。

 

 自分で自分を査定し。

 自分で自分を磨き。

 そして、自分自身を世界で最も高価な「資産」へと押し上げた。

 

 私は、手元の一枚の金貨を高く掲げ、太陽の光にかざした。

 

「……さあ、皆様。……清算の時間は、もう終わりですわ」

 

 私は、かつてないほど美しく、そして冷徹に微笑んだ。

 

「――これからは、私の定めた『黄金のルール』で、世界を楽しませて差し上げますわ」

 

 天秤の上に載せられた、新しい世界。

 

 令嬢アイリスの物語は、ここで一旦の「精算」を終える。

 けれど、彼女が築き上げた「黄金の帝国」は、これからも永遠に、時を刻み続ける。

 

 価値を失わぬ、絶対的な宝石として。

読者の皆様、そして編集者さん。

最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。


泥まみれの令嬢が、自分自身の価値を信じ、ついには世界の財布を握る。

そんなアイリスの成り上がりの物語、お楽しみいただけましたでしょうか?


彼女の物語は、ここで幕を閉じますが、皆様の人生の「帳簿」にも、本作が心地よいカタルシスという名の「黒字」を落としていれば幸いです。


「最高にスカッとした!」「アイリス様のその後をもっと見たい!」

そんな感想をお持ちの方は、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】とブックマークで、彼女への最後の祝杯をお願いいたします。


それでは、また別の「帳簿」でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ