12.優秀で扱いやすいものはお高い
「――10人程度なら、余裕で受け入れられる。だから、この連絡先を目指して移動して」
『……へ?』
「そうすれば、その電話の効果で辿り着ける。その電話は、そういう何か変で特別なものだから。いい? 電話をかけた相手の場所、に、向かう。そう強く思いながら移動して。たぶん1日以内には不思議な力で辿り着けるから。辿り着いたら受け入れるから」
『そ、そう、なの? わ、分かった』
あまりの驚きと、同時に感じた悪寒で出来た沈黙を。無理矢理押し潰すようにして、『サバイバルクラフターズ』での主人公が言っていた台詞をほぼそのまま口に出した。
そうしたら、これも何か補正が入っていたのか、あっさりと納得する妹の声。そして間もなく、電話もとい通信は切れた。
ツ――――、と単音を鳴らすだけの受話器を置いて、しばらくその、黒電話の見た目をしたそれを睨むように見る。
「……最短夕方には近くまで来る筈だから、それまでに、少しは周りを掃除しておかないと」
けど、時間は無い。無くなった。だから武器も贅沢を言っていられず、一体型パソコンを含めて基本的な設備一式の金属コンテナに入っていた、これもゲーム初期に手に入る武器を使う事にした。
プレゼントボックスによって中身がランダムに決まるそれは、特に当たり外れというものは無い。少なくともゲーム内での性能においては。
ただしもちろん手に持って扱うなら話は別だし、その後強化できるかどうかとか、遠距離武器なら弾の調達とか、使い勝手と将来性の部分で当たり外れって言うのはある訳で。
「一応遠距離武器だけども。将来性も十分あるし、なんなら終盤まで使い続けられる大当たりの武器だけども。……よりにもよって一番弾代がかかる奴とは」
一体型パソコンを操作して、確認できた範囲の残弾と一緒に、その武器を玄関の所に持って行く。そこからしばらく考えて、一旦地下倉庫に移動した。そこから、ひたすらダンボール箱を開けていく。
ここには紙系素材と布系素材が入っている。まぁ素材だけじゃなくて毛布とかタオルとかベッドシーツとかカーテンとか、そのまま設置出来るものも入っているんだが、今探しているのはそれじゃない。
大きさ別に並べておいたから、中身の確認は後回しにしてひたすら大きさ別で箱を開けていく。そしてようやく目当ての、大量の服が入った箱を見つけて、そこからそれと同じ大きさの箱を5箱開けてから、自分の部屋に戻った。
「流石にこのオーバーオールだと、本人バレするからなぁ……」
お気に入りではあるが、背に腹は代えられない。いやまぁバレてもいいんじゃないかと言われるとそれはそうなんだが、プレイヤー名である「ツミキ」を名乗っている以上は出来るだけ隠したい。
ここから絶対「避難民」の人数は多くなるし、それ以外の仲間も増えるし、そこに指示を出す都合上、多少は偉そうにしなきゃいけないっていうのもある。だから服が入っている箱を探して開けて、「ツミキ」としての格好を決める必要があった。
そしてこれらの服は、『サバイバルクラフターズ』においてはただのファッションアイテムだった。アバターの着せ替えに使うやつだな。これまたどうしてこんなに種類があるのかは分からないが、現実になった今、着替えは多いに越した事はない。
「顔も隠さないといけないから、ミラー加工のシールド付きヘルメットは必須として。それに合わせるなら夏冬対応のコートと安全ジャケットとカーゴパンツにしておくか。シャツは適宜変えて、足元は安全靴で、ベルトは一番太い奴を2本巻いておこう。で、そこに道具鞄と普通の鞄を下げる」
出来るだけ、一目で分かりやすい服装を意識しつつ、これまでリフォームしてきた経験と『サバイバルクラフターズ』での装備事情を思い出して、ちゃんと実用的になるように服を組み合わせる。そしてその組み合わせを、10セットぐらい自分の部屋に動かしておいた。
ただその時に、人がいる空間のものは動かせない、って事に気が付いたけど。クローゼットの中には移せたから、扉が閉まってればいいらしい。これはちょっと困ったな。まだベッドの設置は終わってない。
とはいえ、部屋の模様替えというかリフォームは1階から進めている。ゲームシステムに頼る形になっているとはいえ、人の住める空間になっている筈だ。
「あ、そうか。人数来るって事は台所もちゃんとしておかないといけないのか。えーと、とりあえず見つけた大型冷蔵庫をこの壊れてる奴と入れ替えて、備え付けの棚の修理、はそうかドローンが必要なんだっけ。とりあえず置いてあるだけの棚だけ回収して修理して、ダメな奴は普通の部屋にも置ける奴を並べて代用して……」
本当に掃除はちゃんとしておいて良かった。と思いながら、とりあえず10人分の部屋を用意して、台所を人が入れるように整える。そこから廊下と玄関もとりあえず応急処置の範囲で人が入れるように整えたところで、新しい服に着替えて軽く体を動かした。
問題無さそうだから、スマホを持って……一度、一体型パソコンに向けて見た。
「やっぱりか」
そうすると出る『新たな端末を認識しました。同期しますか?』という文章。だろうと思ったよ。でなければこの部屋の模様替えだけが大変な事になるからな。
文章の下に出た選択肢で「はい」を選ぶと、意外とすんなり同期は完了した。スマホの方には新しいアプリが増えている。そのアイコンは『サバイバルクラフターズ』とそっくりだったが、その端にキラキラアイコンみたいなのが追加されている上に、アプリ名は空欄になっていた。
相変わらず肝心というか、何かの核心に迫る情報は徹底的に封じられてるな、と思いながら部屋を出て鍵をかけ、玄関に移動。そして、そこの端に転がっていたその「武器」を手に取った。
「小型で手榴弾とロケット弾の両方に対応するとはいえ、まさかのバズーカとか」
いやまぁ確かに優秀だよ。何しろ弾の威力を上げればいいし、雑に狙っても大体当たるし、火力も高い。もちろん専用弾もある。
ただし。その一発一発のコストが、『サバイバルクラフターズ』の中でも群を抜いて高い。それはそうなんだが。そしてそれだけの火力と取り回しの良さはあるんだが。
……まぁだからシールド付きのヘルメットにしたんだよな。とも呟いて、球体の弾が入った鞄を肩にかけて、その、自分の足ぐらいの筒を肩に担ぎ。始めて、この建物と庭の外に、踏み出した。