ゾンネンブルクの戦い
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──ゾンネンブルクの戦い
1734年10月。
魔王軍が完全にゾンネンブルクを包囲し、攻撃の準備を完成させたのは、このときに至ってからであった。ゲルプ軍司令官のゲルプ大将は『ゾンネンブルクは逃げはしないから、確実にやりたい』と言っていた。
そして、彼と彼の参謀はその求め通りに動いた。
「よし。これで準備は整ったものとする」
ゲルプ大将は報告された情報からそう宣言。
「攻撃を開始する。我らは妖鬼のごとく」
にやりと笑ってゲルプ大将は命令を下した。
この命令とともに魔王軍約20万が一斉にゾンネンブルクを襲撃。
火砲が都市外周に設けられていたゾンネンブルク守備隊の陣地に猛烈な砲撃を浴びせ、陣地を破壊し、兵員を拘置する。
その瞬間に魔王軍のゴブリンとオークの露払いが投入され、いつものように人海戦術が繰り広げられた。ゴブリンとオークは撃破されては新手が押し寄せるという波状攻撃を繰り広げ、ゾンネンブルク外周を制圧していく。
「進め、進め! お前たちは前に進む以外のことは許されない!」
ゴブリンとオークは装甲化されたトロールを盾に前進し、人狼の将校たちは彼らに絶対に撤退することを許さなかった。無理やりにでも前線に押し出し、前線を押し出す。
しかし、どんなにゴブリンたちを押し出しても、敵の抵抗によって進めなくなる時はある。三国同盟軍がガトリング砲や小口径の野砲を室内に据え、建物内から攻撃してくる場合などだ。
特に野砲の砲撃は直撃となるとトロールすら吹き飛ばされる。これらは勝利を目前にした魔王軍にとって面倒な抵抗であった。
そのような場合は魔王軍も野砲を持ち出して、建物を砲撃するなどした。
口径75ミリ野砲がトロールに牽引されてゾンネンブルクの通りを進み、建物から抵抗してくる三国同盟軍に水平射撃を浴びせる。建物が崩れ、三国同盟軍の兵士たちが倒れ、またひとつ魔王軍がゾンネンブルクを制圧していく。
しかしながら、ニザヴェッリルのドワーフたちは地下に作られた下水道なども使って抵抗してくる。突然後方に現れてドワーフたちが人狼たちと交戦し、彼らを道連れにしていくのを魔王軍は忌々しく感じていた。
そのようにしてお互いが激しく出血しながら、ゾンネンブルクの戦いは進む。
ゲルプ軍は全体的に包囲を狭めながらも攻撃の重心を執政官官邸に向かうルーデンドルフ通りにおいており、魔王軍の大部隊がドワーフたちが整備した大きな通りを前進していった。
三国同盟軍も魔王軍がルーデンドルフ通りに主力を置いていることを知っていたが、もはや彼らにそれを防ぐことのできる戦力は存在しない。
「このままルーデンドルフ通りを制圧されれば、ゾンネンブルクは二分される」
ゾンネンブルク守備隊司令官のフェルディナント・ライマン中将が地図と参謀たちを前に、そう危機感を持って告げる。
ゾンネンブルクのほぼ中央を通るルーデンドルフ通りを魔王軍に制圧されれば、ゾンネンブルクは南北で分断され、連携は不可能になってしまう。そのことをライマン中将は危惧していたのである。
「しかし、もはや我々にルーデンドルフ通りの敵を撃退する戦力はありません」
「戦線を縮小すれば可能性はある。南部の部隊は官庁街まで、北部の部隊はヒンデンブルク広場まで撤退させろ」
「市街地のほとんどを放棄するのですか?」
「そうだ。どうせ守り切れん」
このライマン中将の決断で、ゾンネンブルク守備隊は市街地を大きく放棄し、都市の中央へと撤退。そこで防衛線を作り始めた。
ルーデンドルフ通りを進んでいた魔王軍主力も、この防衛線に阻まれてしまう。
「敵の抵抗が激しくなっている。敵は都市中央の執政官官邸と元老院議事堂に集結しつつあるようだ」
「南北の軍が戦線を縮小することで兵力を集中させているようですね」
「ああ。そのようだな。だが、無駄なあがきだ」
ゲルプ軍はゾンネンブルク守備隊の動きを把握し、それに対処することを始めた。
ゲルプ大将は指揮下にあるある部隊を動かして、ゾンネンブルク守備隊が試みている防衛計画を粉砕することに。
その部隊は──。
「第501独立重装地竜大隊、前進!」
そう、ゴルト少佐の第501独立重装地竜大隊だ。
彼らもゾンネンブルクを巡る市街地戦に投入されていた。
装甲ワームは小銃弾や小口径火砲の砲撃に耐えるので、今回は破城槌というより移動する遮蔽物として利用されていた。
装甲ワームたちに続いて歩兵たちが進み、ゾンネンブルク守備隊がルーデンドルフ通りに作った作ったバリケードに向けて前進。
バリケードからは旧式の前装式火砲まで使われて砲撃が行われるが、装甲ワームたちは全く気にすることなく進み続けた。
そんな装甲部隊を盾にした前進もあって、魔王軍は目的であったルーデンドルフ通りを制圧することでゾンネンブルクを分断するという目的を果たしつつある。
だが、それに対抗するようにルーデンドルフ通りの魔王軍に対して三国同盟軍はゲリラ的襲撃を仕掛けており、狙撃や爆破によって将兵が死傷する。
また装甲ワームも無敵ではない。下水道に仕掛けた爆薬で装甲ワームが通過した際に大穴を開けて下水に滑落させて叩くという戦術も取られていた。
魔王軍は少しずつ出血すれど、ゲルプ大将が事前準備をしっかりと整えていたおかげで、火砲による火力支援も円滑かつ確実に行われ、魔王軍は確実にゾンネンブルクを制圧しつつある。
「ライマン中将閣下。我々はルーデンドルフ通りを失いました」
「畜生め。南北からの圧力も強まっている。このままだと包囲殲滅されるな」
「いかがしますか?」
「俺が聞きたいよ」
ゾンネンブルク守備隊司令部はは途方に暮れていた。
既に多くの部隊との連絡が取れなくなっており、それぞれの部隊の努力に期待するしかなくなっている。司令部から命令を下して、部隊を動かすような余裕すらなくなり始めているのであった。
ここにきて魔王軍の行動に変化があった。
「三国同盟軍の将兵諸君、降伏したまえ! 降伏するならば捕虜として扱うことを約束しよう! ここで死ぬ必要はないのだ!」
吸血鬼の将校がそう呼び掛ける。
そう、魔王軍は降伏を勧告し始めたのだ。彼らはあちこちで同じように降伏を求める声を上げ、三国同盟軍の将兵はそれを聞いていた。
というのも、アルトヴァルトの戦いで分かったことだが、相手に戦って死ぬしかない状況を強いると、それらは死兵となり、逆に自分たちが苦しむからだ。
だから、降伏すれば助かるという希望をの見せることで、ゾンネンブルクに立て籠もる三国同盟軍の守りを鈍らせようとしていてのであった。
そのような魔王軍の思惑を知ることもなく、ゾンネンブルク守備隊の一部は降伏を始めていた。特にドワーフ以外の将兵はゾンネンブルクを守って死ぬことの意味を理解できていなかった。
戦いは冬の前触れが訪れてからも続いた。
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