ゾンネンブルクの戦いに向けて
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──ゾンネンブルクの戦いに向けて
クールベ上級大将が副官の大佐を伴ってニザヴェッリル大共和国の首都ゾンネンブルクを訪れたとき、そこでまさに脱出が始まっていた。
「市民への避難命令を出すのが遅かったのではないか?」
クールベ上級大将は馬車にありったけの荷物を積んで逃げていく市民たちを見て、眉を歪めた。もう魔王軍は間もなくこのゾンネンブルクを火砲の射程に収めるというのに、まだ大勢の市民がゾンネンブルクに残っている。
「エッカルト執政官閣下は避難命令に慎重でしたから……」
「軍としてはもはやできることはないと通知したつもりなのだが」
避難というのは住民に住み慣れた土地を強制的に離れさせることを意味する。だから、執政官テオドール・エッカルトは避難命令に慎重だった。
だが、クールベ上級大将たち軍人からすれば、守りきれない民間人が戦場となる場所に残っているのは将兵にとって邪魔だし、彼らにとっても不幸だという考えである。
住民の命が保証できないのに、彼らを避難させないというのは、政治家のエゴもいいところだとクールベ上級大将は考えていた。
そんなことを考えながらもクールベ上級大将を乗せた軍用馬車は軍が警護している執政官官邸に入った。
クールベ上級大将はすぐさまテオドールに面会。
面会の場にはテオドールの他に、外務大臣のハンス・カウフマンと国防大臣のヘルムート・ブルクミュラー、そして陸軍司令官のギュンター・ルントシュテット元帥がそろっていた。
「クールベ上級大将。状況はかなり不味いと把握しているが……」
「率直に評価して最悪です。ゾンネンブルクも落ちるでしょう。我々に残された残存戦力で、これ以上の防衛を行うのは不可能です。撤退すらできずに包囲されて、殲滅されてしまった部隊も多く存在するのです」
「なんてことだ」
クールベ上級大将の発言に、列席したテオドールたちが呻く。
「本当に手はないのか? 防衛線を新たに構築するなどは?」
「無理です。兵力が足りないのです。全く足りないのですよ。現在のケルムト川の防衛線においても魔王軍の推定される規模に対してこちらはその6分の1もあればマシな方だという具合です」
「では、ケルムト川の防衛線も?」
「突破されるでしょう。かなり近いうちに。具体的に言えば2日から4日程度かと」
テオドールが尋ねるのにクールベ上級大将は力なくそう答えた。
「執政官閣下。ここはやはり汎人類帝国からの求めにあったようにするべきでは?」
そういうのはハンスだ。彼はテオドールの方を見てそう言う。
「この国を捨てて、汎人類帝国に亡命せよと? そんなことをすれば国民はどうなるというんだ」
「亡命政府を樹立するのです。我々こそが正統な政府であると示し続け、そのことで残される国民に希望を与えるのです」
ハンスはそう力強く告げる。
「もちろん私の政治生命も、あなたの政治生命も終わるでしょう。ですが、これは私やあなたのためではない。全ては国民にいつか解放されるという希望を与えるためなのです。閣下、ご決断を!」
汎人類帝国からテオドールたちに亡命を認めるという通知が出されており、汎人類帝国は同国にてニザヴェッリル亡命政府を樹立することを強く勧めていた。
もはやゾンネンブルクの陥落が確実なものとなっている今、テオドールたちは決断しなければならない。
「……分かった亡命しよう」
「御勇断に感謝します」
こうしてニザヴェッリル政府は汎人類帝国への亡命を決定。
執政官テオドールを始めとする政府首脳は緊急編制の列車に乗って、汎人類帝国の首都ローランドに旅立った。
その間も魔王軍の攻撃は継続されていた。
ブラウ上級大将は慎重にはなったものの、前進そのものにストップをかけることはなく進軍は続き、彼らはケルムト川の三国同盟北部戦域軍の防衛線に接触。激しい砲撃ののちに3日後には同川を渡河した。
そして、彼らが目指すには首都ゾンネンブルク。
「ようやくゾンネンブルクが見えてきたぞ」
「あれがゾンネンブルクか!」
前線の人狼たちが双眼鏡で見つめる先には、城壁などはない近代的な作りの、高い建物が多くそびえる都市が見えていた。
それこそがまさにゾンネンブルク。
「我々はゾンネンブルクを攻略する」
北方軍集団司令部にてブラウ上級大将が宣言。
「この戦いは軍事的な意味合いだけではなく、象徴的な意味合いも含まれる。我々がドワーフどもの首都を制圧したとなれば、ドワーフどもは慌てふためき、そして膝を付いて降伏するだろう」
ブラウ上級大将が述べるようにこれは象徴的な意味合いもある作戦であった。ドワーフたちの繁栄の象徴である都市を制圧する。そのことによって、ニザヴェッリルのドワーフたちから経戦の意志を削ごうというのだ。
「しかしながら、そうであるが故に三国同盟の必死の抵抗が予想される。まして市街地戦だ。犠牲は多く出るだろう。それでも我々はゾンネンブルクを落とさなければならない。諸君、気を引き締めていけ」
「はい、閣下」
そして、ブラウ上級大将たちはゾンネンブルク攻略についての作戦を策定した。
ゾンネンブルク攻略を目指すのは中部を進むゲルプ軍でゲルプ大将が指揮を執る。彼の下には現在15個師団が存在し、それらほぼ全てがゾンネンブルク攻略に投入されることとなった。
ゲルプ軍はまずゾンネンブルク救援を阻止するため、ゾンネンブルク西部の街道を制圧。その後完全な包囲ののちに市街地に突入する。あらゆる火砲と爆撃が彼らを支援するということになっていた。
「我々はゾンネンブルクにおける三国同盟軍部隊を殲滅する。それが勝利条件だ。それから執政官官邸と元老院議事堂に我らが黒旗を掲げよ」
ブラウ上級大将はゲルプ大将にそう指示を出した。
ゲルプ大将はこれを受けて作戦を開始。
まずはゾンネンブルク西部に向けての機動が始まり、西部にある主要な街道が制圧され、遮断される。また首都ゾンネンブルクを抜けるゾンネンブルク運河の制圧も行われ、運河を通過しようとする船舶を砲撃可能なように火砲が配置された。
ゾンネンブルクは緩やかに包囲されて行く。
ゾンネンブルクに残ることを選んだのは、やはりニザヴェッリル軍の将兵だけで、他の三国同盟の部隊は残ることを選択したのは少数だった。
市民の避難は遅れており、結局包囲されるまでに全員を疎開させることはできなかった。残ったドワーフたちは戦えるものは義勇軍として戦列に組み込まれ、三国同盟が残した武器で武装した。
ゾンネンブルクに向けて火砲の砲撃が始まったのは1734年9月の深夜のことで、これは終わりの始まりを知らせる砲声となった。
都市への心理的圧力に近いこの砲撃で、ゾンネンブルクが誇っていたドワーフ様式の大聖堂が崩壊。他にも市街地に着弾した砲弾によって何十人もの非武装の市民たちが犠牲になっていったのだった。
だが、戦いはこれから始まるのだ。
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