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最後の抵抗

……………………


 ──最後の抵抗



 1734年6月。


「これより我々は反撃に転じる」


 新たに三国同盟北部戦域軍が防衛線に定めたケルムト川とアドラーピッツェの間にある、小さな村。そこでそう宣言するのは、汎人類帝国陸軍第15歩兵師団師団長のロベール・ジャンスール中将だ。


 これまでの厳しい撤退戦を切り抜けてきただけあって、その態度に優柔不断であったりするところはなく、ドンと上に立ち、将兵を導いていく、そんな自信に満ちた態度をしていた。


 彼の第15歩兵師団は汎人類帝国陸軍の標準的な歩兵師団の編成で3個歩兵連隊を主幹とする。この第15歩兵師団は比較的無傷なまま、ここまで撤退しており、火砲などもそろっていた。


 このままゾンネンブルク防衛を命じられるかと思っていた彼らだが、彼らに下されたのは魔王軍に対する反撃だった。


「我々は魔王軍の進軍を食い止めるために、限定的ながら反撃に出る。作戦目標は魔王軍に制圧された村のひとつアイヒェンブルフ。この村を奪還し、同地を通る橋と鉄道路線を破壊することを目指す」


 作戦目標となったのはケルムト川支流のひとつが流れる中規模の村アイヒェンブルフ。この村を奪還し、そこにある鉄道路線と橋を爆破することが、第15歩兵師団の役割であった。


「現在、我々は師団保有戦力の他に北部戦域軍から許可を受け、撤退中の部隊を組み込んだ。我々はこの戦力を使い目的を果たす」


 第15歩兵師団は彼らの近隣の撤退中だった部隊を問答無用で自分たちの指揮下に組み込んでおり、暫定的に第15歩兵師団を中心とするこれらの部隊はジャンスール軍団と呼称されていた。


「現在脅威となっているのは魔王空軍の動きだ。魔王空軍は我々を執拗に攻撃している。よって、魔王空軍による部隊集結の察知と阻止攻撃を避けるために、我々は夜間攻撃を仕掛けるものとする」


 今脅威なのは魔王空軍の動きであった。カリグラ元帥の命令で第3航空艦隊は恐ろしいまでの爆撃を実施していた。


 現在友軍航空戦力は一時的にでも航空優勢を奪還しようとしているのは、ひとえにこのジャンスール軍団による反撃を成功させるためである。


「魔王軍が夜間での戦闘に長けているのは承知の上だ。これしか方法はない」


「夜間となると砲兵もあまり動かせませんが、よろしいのですか?」


「ああ。相手も条件は同じであり、そして相手の方が使えなくなる火砲は多い。砲兵には決められた位置に短く攻撃準備射撃を実施するだけでよいとする」


「了解」


 奇襲の効果を高めるために攻撃準備射撃は短く行い、後は砲兵の支援なしで攻撃を成し遂げることをジャンスール中将は決意している。


 魔王軍側はアイヒェンブルフ方面にて3個師団以上の戦力を前進させているところであり、ジャンスール軍団はこれと交戦することに。


 この数で劣る状況において必要なのは奇襲であり、それなくして勝利は望めない。


 よってジャンスール軍団は徹底した偽装を施して、部隊の移動を隠匿し、空軍に要請して魔王軍による航空偵察を避けた。ニザヴェッリル陸軍航空隊が出撃したのはそのためである。


 彼らはじわじわと攻勢発起地点に進み、そして夜を待った。


 太陽がゆっくりと沈み、夕闇が訪れたとき──。


 砲声が鳴り響いた。


 ジャンスール軍団の砲兵はアイヒェンブルフを中心とした魔王軍に向けて攻撃準備射撃を浴びせると、その直後に歩兵がすかさず突撃を開始。


「フラアアアアアアァァァァァァ────────ッ!」


 歩兵たちが雄たけびを響かせて一斉に突撃を行う。魔王軍は突然のことに混乱してるのか、まだ迫るジャンスール軍団の歩兵に発砲していない。


 1万を超えるジャンスール軍団の攻撃に、ようやく魔王軍が反撃を開始したのは攻撃開始から10分後のことで、銃撃が加えられ、迫撃砲などの火砲が火を噴いた。


 だが、夜間戦闘でまともに火砲を運用できないのは魔王軍も同様であった。それに加えてジャンスール軍団が奇襲によって肉薄したことから、友軍誤射を恐れて魔王軍砲兵は砲撃を行えない。


 魔王軍砲兵の動きを封じたジャンスール軍団はなんとここで魔王軍の防衛線を突破できた。彼らは戦線に穴をあけて、後方のアイヒェンブルフへと機動し始めたのだ。


 というのも、ブラウ上級大将がゴブリンとオーク、トロールの補充を行わずに、追撃を続行したためである。兵卒といえど歩兵の数が大幅に減少し、前線の守りの厚さは薄くなっていたところを、彼らはジャンスール軍団に殴られたのだ。


「前線が突破された! 敵は後方に回り込みつつある!」


「クソ。まさか攻撃に出るだと……!?」


 魔王軍は混乱状態であった。これまでは戦線を食い破り続け、攻撃ばかりに重きを置いていた彼らは予期せぬ三国同盟の反撃を受けて衝撃を受けていた。


 それでもどうにかしようと必死で彼らは対応を始めた。


「砲兵は野砲をアイヒェンブルフに通じる街道を中心に配備。水平射撃で敵歩兵を薙ぎ払ってやるぞ。歩兵は急いで塹壕を掘って防衛線を固め、これ以上連中を先に進ませるな。このままでは戦線が破綻する」


「了解。迅速に実行します」


 魔王軍側の指揮官は矢継ぎ早に命令を下し、部下たちが応じていく。


 魔王軍は口径75ミリ野砲を並べ、アイヒェンブルフを抜けて、魔王軍の後方へと浸透しようとする三国同盟のジャンスール軍団を迎え撃った。


 皮肉なことにこれまで数において優勢であった魔王軍が、局所的にとは言えど数で劣る状態に陥っている。それほどまでにジャンスール軍団の攻撃は集中しており、かつ苛烈なものであった。


「撃てっ!」


 だが、魔王軍の立て直された防衛体制も強固なもので、押し寄せるジャンスール軍団の兵士たちを野砲から放ったキャニスター弾で、口径60ミリと口径82ミリ迫撃砲で、あらゆる銃火器と火砲で迎え撃った。


 もし、ジャンスール軍団がもしあと5キロ前進していたら、魔王軍は全戦線で退却を始めただろう。それほどまでにジャンスール軍団の反撃は進んでいた。


 近くにあったロート軍司令部も退却の準備を始めていたし、いくつかの魔王軍にとっても重要な橋の爆破準備すら行われてたのが事実だ。


 残念なことにそれは『もし』に過ぎない。


 ジャンスール軍団の攻撃は魔王軍の火力の集中によって粉砕され、ジャンスール軍団はほぼ壊滅状態で撤退していった。


 魔王軍は戦線崩壊を免れたが、報告を受けたブラウ上級大将は前進に慎重になった。またどこかでこのような反撃が生じた場合、今の魔王軍北方軍集団では迎え撃てない可能性もあると認識したのだ。


 そう言う意味ではジャンスール軍団の限定的な反撃は無意味ではなかった。彼らの犠牲はまさにニザヴェッリルを延命することに繋がった。


 しかしながら、それはあくまで延命であり、ニザヴェッリルを救うことにはならない。もうそれが可能な状態ではなくなっているのだ。


 ニザヴェッリルの崩壊は、避けられない。


……………………

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