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第34話 三つ葉亭の三姉妹 3

「つまり……エクシードには序列があって、その階級が上がるほど強くなると?」

「モグモグ……んっ、そうだね。一番上の第一等位から一番下の第四等位まで。勲章の素材は上から虹クリスタル、金、ミスリル、銀の順だよ。魔法っていうのは魔力がすべてじゃないから、階級が上がるほど強くなるかというと……う~んどうだろ? 一概には言えないかもだけど。それでも上の階級ほど人数も少なくてゴイスーな権力を持っているんだよ。庶民がエクシードに逆らっちゃダメなように、下のエクシードは上のエクシードには従わなきゃダメなんだよね」

 指示棒を振るうように、マリオンはフォークを上下に振りながら説明する。


「それにあの人はヴァレットだからなおさら力は無いかもだね。勲章が青で縁取りされてたよね? あれはヴァレットの証なんだよ」

 ヴァレット?

 マリオンの口から聞きなれない単語が飛び出す。


「あのなマリオン。こちとら生まれてすらないもんだから、この世界の知識が乏しいんだ。専門用語を知ってる前提で話を進められると困るんですがねぇ?」

「おっと、こりゃ失礼しちゃいました! よろしい! ではマリオン先生が解説してあげましょう!」

 誰の真似なのか?

 わざとらしく髪をかき上げると、得意顔でマリオンは語りだす。


「エクシードは特殊な儀式を行うことで、一人だけ力を分け与えて従者を作ることができるんだよね。それがヴァレット。そしてヴァレットにはエクシードとほぼ同じぐらいの権利が与えられるってわけ! たとえば第三等位のエクシードは正確には正第三等位と、そのヴァレットである従第三等位の二種類が存在するんだよね。従第三等位は正第三等位より権力は落ちるけど、正第四等位よりは上だと思って間違いないよ」


「なんだそりゃ? ならそのヴァレットってのは、魔法士としての才能が無いボンクラでも無条件で権力を持つことができるってことか? そりゃ随分とお粗末なシステムだな」

 しかし、とすればあの無能そうな司教がエクシードでいられるのも合点がいくが……


「んーヴァレットが必要な理由はいくつかあるかなぁ? エクシードとはいえ魔法の特性が偏ってることもあるから、弱点をヴァレットでカバーしたりとか。他にはエクシードは権力の対価として戦争とか魔物の討伐とかのお仕事任されることが多いから、一人で対処するよりはヴァレットが居た方が便利なこともあるのかも。で~も力を分けると元のエクシードの力がそのぶん減るから、ヴァレットを作るケースは必ずしもじゃないみたいだけどね。それにヴァレットは元のエクシードに対する深い信頼関係と忠誠心がないとなれないから、だれでもいいってわけでもないんだよねー」

 

「ふーむ……ということは、あの司教が忠誠を誓う正第四等位のエクシードがいるってことか」

 会うまでも無くロクな奴じゃなさそうだが。


《それにしてもマリーすごいです。色々と詳しいんですね!》

「ふっふーん! でしょでしょ〜? なんたってわたし、地元の魔法学校で首席だったんだよね。物知りマリオンちゃんなのです! イエ〜イ!」

 Vサインでイキるマリオン。

 こいつ褒めるとすぐ調子に乗るタイプだ。


「とはいえなるほどな。この世界の権力図は大方理解したぞ。つまりはその二人セットになってる場合もあるエクシードをまとめてブチ倒せばいいんだろ? 皆殺しにした暁には俺の世界征服が成就するってわけだな。クックック……」


「せ……せかいせーふく? ……ぷっ……ぷくくっ! それ面白いジョークだねリューちゃん! あははっ!」

 俺の野望を聞いたマリオンは腹を抱えて笑い出す。

 どうやら冗談と受け取られているようだ。

 

 俺はドンッと机を叩き立ち上がると、マリオンの眼前にまで身を乗り出す。

「言っとくが俺は大真面目だぞ! 俺が王都を目指している目的を教えてやろう! 世界征服のためだ! これから王都へ行って、稲穂を刈る如くエクシード共の首を跳ね飛ばし、この世界に俺様の恐ろしさを知らしめてやるのだ! 言っておくが、俺はお前が思っているより数万倍は強いぞ! 俺がこの国の頂点に立った暁には、以前は馬鹿にしてすいませんでしたとひれ伏し懺悔しに来るがいい!!」


《ちょっ、ちょっとリュウ君他のお客様の迷惑ですってば! 座って! おすわり~!》

 ユーティアに注意されて周りの視線が集中していることに気が付く。

 俺は不機嫌なまま椅子にドスリと座り直すと、残った肉にかじりつく。


「いやぁティア。リューちゃんてユニークな子だねぇ~。一緒にいたら楽しいでしょお?」

《ううっマリー、リュウ君の話は冗談ではないんです。本当に世界征服するつもりなんですよ? 私が止めても聞いてくれないんです。マリーからも思いとどまるように言ってください~》

 ユーティアの泣訴にマリオンがムーと眉をひそめる。

 俺の言葉がどこまで本気なのか測りかねているようだ。


「ムムム……ほんとーに? うーんだとしても、リューちゃんエクシードには本当に逆らわないほうがいいよ? エクシードこそ、リューちゃんが思っているより何倍も強いはずだよ。ほぼ全員がユニオンのはずだしね」


「ユニオン……だと?」

 マリオンの口からまたしても聞きなれない単語が。


《あ、それは私も聞いたことがあります。魔法士の中には魔物の力を持った人がいるとか……》

「そう! 魔物とか幻獣とか、そういった種族の特性を宿した魔法士がいて、そういった魔法士をユニオンって言うんだよね。ユニオンは基本的に高い魔力を持つ傾向があるっぽいし、その種族に由来した力──ギフトって呼ばれる特殊能力を持つことが多いから、普通の魔法士よりぜんぜん強いんだよ。エクシードはほとんどの確率でユニオンだと思って間違いないね」

「なんだそりゃ? なんで人に魔物の力が宿るんだ? まったく意味不明なんだが?」

 俺の疑問にマリオンがウームと唸る。


「どーだろね、ユニオンに関しては完全には解明されていないんだよね。でも昔、魔王軍と戦っていた時代に人と魔物は一時共闘関係にあったんだってさ。人は魔物に知恵を与え、魔物は人に力を与えるみたいな? その過程でユニオンみたいな人も出てきたみたい。でも魔王が倒された今その共闘関係も不要になって、だいぶ減ってはきてるみたいだね。ただその名残でユニオンになる魔法士が今も少しだけどいるってことらしいよ」


 いや待て、ユニオンどうこう以前にだ……


「まおー? 魔……王? 魔王だと!! おいこの世界には魔王とかもいるのか? めっさゲーム的世界じゃん?」

《大昔の話ですよリュウ君。当時は人と魔王軍の熾烈な戦いが悲惨を極めたそうです。しかしそれも100年ほどの昔に勇者一行が魔王を倒して終結。人は比較的平和な世界を手に入れました。もっとも今度は人間同士で争いを始めるようになってしまいましたが……》

 ユーティアは少し悲しそうな声で語る。


「ちっなっみっにぃ~。さっき話したわたしのご先祖様、伝説の魔法士パルテア・ユリエライズ様は魔王を倒した勇者パーティーの一員だったのです! どう? すごいっしょ!!」

 なぜか鼻高々なマリオン。

 だからべつにお前が威張ることじゃないだろうと。


 しかしそうか……魔王は御不在か。

 ならば俺が新生魔王としてこの世界に君臨するってのも、まぁ(やぶさ)かではないよな。


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