ハルシュタットの新戦力(2)
代官となったホルスト様はさっそくあれやこれやの手配にお忙しいようで、私たちとの顔合わせは、遅い昼食をとりながらという仕儀になった。
「いやはや、領主様がお見えになっているというのに、お迎えすべき私がバタバタとしてしまって、申し訳ありません」
そう言いつつも、それほど反省している様子はなさそうなホルスト様。もともと渋いロマンスグレーのおじ様だったけれど、王都でお会いした時よりつやつやと生気に満ちている感じ。やっぱり人って生き物は、なにか打ち込める仕事ができると、内面から輝くんだよね。
「いいえ。ホルスト様が早速代官としてお忙しく過ごされているということは、すなわち領のためになることですもの。不満があるはずがございません」
「そう言って頂けると実にありがたく思いますな。いえね、賢者ディートハルト様よりこのハルシュタットの様子をいろいろと伺っているのですよ。ノルトハウゼン領と比べてみますと農業に適しており森林資源も豊かと、良いところがたくさんあるのですが、効率のよくないところもいくつかございまして。そういうところを改善していけば、税収も三割くらいはすぐ増えるのではないかと考えているところでしてね」
そしてそのへんの細かい改善部分を説明して下さるのだけれど、内容が専門的過ぎて私にはよくわからない。ビアンカとディートハルト様が深くうなずいているところを見ると、きっと納得性のある施策なのだろうな。それにしても税収三割増って言い切れるところもすごいよね。あまりやりすぎると、民に余裕がなくなるのではないかしら。
「それは素晴らしいですね。ですが、領主たる私は多くの税収を必要としていません。シュトローブルの総督としての報酬だけでも、十分な暮らしができますので。もし税収が増えるとおっしゃるなら、それは民の生活を豊かにし、領の人口を増やすためにすべて使って下さい」
「さすが聖女様、聞きしにまさる無欲ぶり、感服いたしました。わかりました、増収分も、これまで旧領主が贅沢三昧で散財していた分も含め、すべて領内の振興と防災、救貧対策に使い切りましょう。ふむ、まさに代官冥利に尽きるというもの、腕がなりますな」
どうやら私の意図するところを正確に理解していただけたらしい、さすがは、経験豊かな大人の男性というところね。
「まあ、万事このような感じでしてね。私が口を出すところなど、もはやほとんどないのですよ」
ディートハルト様が少し苦笑しながらも、ホルスト様の意欲と能力を称賛する。賢者たる彼がそう言うのだから、間違いないだろう。
「さらにですね、ホルスト殿が連れてきた猫獣人の女性が、まだ若いけれど実に素晴らしいのです。経理を担当しているのですが、処理能力が抜群でしてね。もはや財務関係は彼女にすべて任せてよいのではないかと」
「ディートハルト様にもそうおっしゃって頂けるとは、嬉しいですな。あの子はノルトハウゼンでも領の財務を一手に預かっていたのですが、獣人嫌いの弟がクビにしてしまいまして。弟もカネが無くなった後で、彼女を手放したことが間違いだったと気づくのでしょうが……もう遅いですな」
連れてきた部下の能力を賞賛されたホルスト様が、まるで自分の娘が褒められたかのように相好を崩す。やはりこの方は、獣人であろうとこだわりなく、能力ある者、努力する者を愛する方なんだ。うん、信じて、任せていいだろうな。
◇◇◇◇◇◇◇◇
私が思っていた以上に、王都でリクルートした新戦力の人たちがハルシュタット領を掌握するのが早かった。そうそう、執事の犬獣人さんも、すっごく優秀らしい。
「これなら、ディートハルト様が早めにシュトローブルへ行けそうですね」
「まったくですな。ヴィオラの支度ができたら、いつでも参りましょう」
言葉を交わす私たちの向かいで、カミルが少し口をとんがらせている。
「ロッテお姉さんは、僕を当てにしてないのかな、ちょっとショックだよ」
「いや、そんなことは、ないのだけど……カミルは当然、私のところに来てくれるものだと思っちゃってたから」
「うん、そうだよね! やっぱり僕も必要だよね、やっとお姉さんの近くで、竜の力を活かせるんだ!」
すねてたくせに、私がちょっとデレた台詞を吐くと、コロッと笑顔になるカミル。身体は大人になったけれど、やっぱりまだ中身は子供っぽいところがあるのよね。
「あら、カミルはちゃんと自分のポジションをわかっているじゃないの、偉い子ね」
「何のこと?」
お姉ちゃんぶってマウント発言をするビアンカだけど、私には意味がよく分からない。
「だって、カミルは『僕も必要』って言うんですもの。普通の男の子なら『僕が』って言いますけどね!」
「仕方ないじゃないか。まだヴィクトル兄さんには勝てないことくらい、いくら僕でもわかるからね。でも今は二番でも、いずれ一番になるつもりだよ」
うわっ、そういう意味だったのか。わかってみると、これは何かと恥ずかしい。ホルスト様とメイドのフリーダさんが生暖かい眼でこっちを見ていて、いたたまれない気分。
「いやはや、若い人は、うらやましいですなあ」「ええ、こんな頃に戻りたいですわ」
新人さんたちに大人の余裕をかまされても、頬を熱くするだけで何も言い返せない私。う~ん、修行が足りないわ。
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