第9話 惑星『スライブ』
『ワープアウトまで、5……4……3……2……1……0!』
エヴァのカウントダウンとともに、亜空間長距離ワープのレバーがゆっくりと下ろされる。それに伴い、外の景色も光のトンネルからだんだんと光の線に変わり、最後には宇宙空間の景色へと戻った。
亜空間航行から脱した証拠だ。
ここは、地球から114光年離れた、惑星『スライブ』の宙域のはず。
俺はすぐに星のデータを持って、現在地の確認を指示する。
『……間違いありませんわ、ここは惑星『スライブ』の宙域です』
「ようやく着いたか……ん?オリビア、あの左に見える青い星は?」
『マスター、あれは惑星「ロフニル」と言って、現在テラフォーミング中の星です。
あの周りに見えるものが、スペースコロニーですね』
惑星『ロフニル』か。
そういえば、ナンシー班長のくれた資料に、そんなことが記載されていたな。
惑星『スライブ』は知識欲が高い人々が多く、宇宙のあらゆる謎の解明に積極的に取り組んでいるとか。
今回の配達も、その支援に生活物資を送るらしい。
俺がもう一度、資料を読みなおしていると、エヴァから声がかかる。
『マスター、惑星『ロフニル』の宇宙船が近づいているよ~』
「宇宙船?」
エヴァの声に俺が外を見たところで、今度はオリビアから呼ばれる。
『マスター、その宇宙船から通信がきてますわ』
「メインにつなげて」
『了解ですわ』
オリビアが、いろいろと操作するとメインモニターに1人の軍関係者と思われる男が映し出された。
男の周りを見て、向こうの宇宙船のブリッジかな?と思う。
『こちら、惑星『ロフニル』の警備軍、第二十一部隊所属、護衛艦『ゴッバス』の艦長オーススです。
そちらの所属と名前、目的を確認したい』
ああ、これは身元確認か。
こういう場所にワープアウトしてきたなら、当たり前か?
「こちら宇宙運搬会社『ショルフダール』の社員で加藤と申します。
惑星『スライブ』の宇宙ステーションで、ミュージー・ハルド様より荷物を預かるように言われてきました」
『少しお待ちください……』
オーススさんはそう言うと、部下らしき人に確認をとっている。
向こうの声は聞こえないが、いろいろと指示を出しているのは分かった。
しかし、向こうの宇宙船のブリッジには、いろんな人がいるんだな。
人数も多いみたいだし……。
護衛艦とか言っていたから、軍艦になるのかな?
五分ほど待たされて、ようやく確認が取れたらしい。
『お待たせしました。確認が取れましたので、このまま通過してください』
そう言うと、オーススさんは左腕の肘から上に向けた。
おそらく敬礼をしてくれたのだろう。
俺は、一礼してエヴァに宇宙船を惑星『スライブ』に向けて発進させる。
▽ ▽
「と、いうことがあったんですよ」
「それはそれは、新人社員であればドキドキされたのではないですか?」
「それはそうです。あんな経験は初めてでしたから」
ここは惑星『スライブ』の衛星軌道上にある宇宙ステーション。
その第6宇宙港にある応接室だ。
俺の向かい側に座っているのが、依頼主のミュージー・ハルド様だ。
見た目はいいおっさんで、年齢は50歳と資料に記載されていた。
ちなみに、奥さんが三人いて子供が十人いるとか。
一夫多妻制なんだな、この星は……。
事前にアポを取っていたおかげで、こうしてすぐに会って荷物の積み込みを行ってもらっている最中だ。
今回ミュージー様から、運搬を頼まれた荷物は、宇宙コンテナ14個分。
宇宙コンテナの大きさは、よく比較に出るドーム型球場とほぼ同じ大きさだ。
それが14個分。
よくこんなに届けるものがあるなと、感心する反面、それを積み込める俺の宇宙船ランスロットの貨物室の大きさにも感心してしまう。
ほんと、改めて、大きな宇宙船なんだな……。
「我々は、まだ宇宙に進出して1000年もたっていませんからな。
まだまだ、宇宙は何があるか分からないところという認識のため、どうしても軍を持たなくてはならないのです。
先進文明の方たちは、自ら対処する術をお持ちらしく軍を持たないとか。
軍を維持する資金もばかになりませんから、羨ましいかぎりですよ」
宇宙で起こることに、軍の力が必要か……。
確かに、自ら対処できるならその予算が丸々別のところに出せるんだよな……。
確か、探求心が強い人たちだったな。
いろいろ、探索したいことが多いんだろうな……。
ミュージー様といろいろ話をしていると、ノックの音が響く。
その後、応接室のドアが開き、一人の女性が入ってきた。
「ハルド様、宇宙コンテナの積み込みが終了しました」
「おお、待ってましたよ。
では、加藤さん。後はよろしくお願いしますね?」
「はい、大切な荷物は必ずお届けいたします」
「よろしくお願いします」
俺とミュージー様は、握手をして別れた。
俺が、応接室を出ていったからだ。
「加藤様、ご案内いたします」
「助かります」
報告に来た、秘書らしき女性に案内され、俺は第6宇宙港から宇宙船ランスロットへ乗り込む。
宇宙港から見る俺の宇宙船ランスロット、マジで大きかった……。
▽ ▽
宇宙船に乗ると、カレンが迎えてくれた。
「ただいま、カレン」
『お帰りなさいませ、マスター。
ミュージー様との打ち合わせはいかがでしたか?』
「ああ、何ごともなく終わったよ。
打ち合わせって言っても、コンテナに入っている荷物の詳細の確認だけだからね。
すぐに終わって、いろいろ話をしていたんだよ」
『何か情報は………「!!」』
ブリッジに向かいながら、カレンと話していると何かが当たった震動がする。
この宇宙船に何かぶつかったのかな?
「……今の振動は、宇宙船に何かぶつかった?」
『おそらく、ブリッジへ急ぎましょう!』
カレンに急かされるように、俺たち二人はブリッジへ急いだ。
そして、ブリッジに入ると、息をのむ光景が見える。
それは、ブリッジの窓の外側に人が浮いていたからだ。
それも、命綱をつけた人が浮いている。
窓に近づき、下に伸びている命綱の先を見ると小型の宇宙船が先端をかなりへこませた状態で止まっていた。
「オリビア、宇宙港に連絡!
カレン、外の人はまだ生きているのか?」
『おそらくまだ生きています。
宇宙服に損傷らしい損傷は見られませんから……』
確かに、宇宙服のどこかが破れているとかはないみたいだ。
「エヴァ、何で小型の宇宙船の方があんなにへこんでてこっちは無傷なんだ?」
『それは、シールド装置のおかげだよマスター。
この宇宙船には、常に最低レベルのシールドをかけてあるんだ。
それのおかげで、こういう事故にも傷つく心配はない』
……それは、いいことなのかどうか判断に悩むな。
それよりも、外に浮いている人は大丈夫なのだろうか?
『マスター、救助船が向かっているそうですわ』
「そうか……。
ところで、どうしてこんなことになったのか分かるか?」
『それが、いきなり目の前に現れたんだよマスター』
いきなり、目の前に現れた?あの小型の宇宙船が?
……それってショートワープで、ぶつかってしまったか?
いやいや、ショートだろうと長距離だろうとワープする前に確認が入るはずだ。
障害物があったとしても、その手前のところで停止するようになっているはず。
緊急事態なら、こういう宇宙港へのワープは作動すらしないようになっているはず。
ということは、見えないところからぶつかったとか?
それに、この人はどうやって外に出たんだ?
目の前で、救助船から出てきた救助員の人達に救助されていく被害者?を確認する。
また、ぶつかったであろう小型の宇宙船もけん引されていくようだ。
『マスター、後のことはこちらに任せてほしいとのことですわ』
「宇宙港の人か?」
『いえ、ミュージー様が、ですわ』
……何かあるのかもしれないし、ただの事故かもしれない。
けど、深入りはやめた方がいいな。
「分かった。エヴァ、亜空間アンカーを回収。
ゆっくりと第6宇宙港を離れて、目的地、惑星『クトゥ』に向けて発進しよう!」
『了解!』
何がどうなっているのか分からないけど、運搬会社の新人社員にできることなんてないからね。
荷物を届けるだけで、いっぱいいっぱいだよ……。




