第60話 一つの惑星を裏から操る商人
惑星『カハル』の白い宇宙船は、近くにまで来てようやくそれが、宇宙戦艦ということが分かるほど、兵器部分が目立たない。
宇宙船『アーサー』から通路を伸ばすと、それとドッキングさせるために、白い宇宙船は、小さな姿勢制御用のスラスターを点火したり消したりを繰り返して、伸ばした通路に白い宇宙船側の出入り口を合わせて、ドッキングに成功する。
ドッキングが成功すると、すぐに通路の中に空気が入れられ白い宇宙船側の扉が開いた。
その扉から出てきたのが、先ほどブリッジのモニターで話をした女性のシュレナさんだ。さらにその後ろからは、二人の男性と秘書と思われる女性が一人付き添っている。
無重力の中、滑るように通路を移動して宇宙船『アーサー』の入り口へたどり着く。
そこで出迎えたのが、俺とカレンの二人。
「ようこそ、宇宙船『アーサー』へ。歓迎しますよ」
「ありがとう、さっそくだけど話し合いのできる場所はあるかしら?」
「……この人数なら、あそこが使えるな」
『そうですね、ご案内しましょう』
「ええ、お願い」
俺とカレンで、案内をして、一応の客人を食堂へ案内した。
宇宙船『アーサー』の中で、広い話し合いができそうな場所は、そこしかないからだ。
一応、応接室はあるが、広さが足りず、また収容人数もオーバーしていた。
そのため、乗組員全員で食事ができる食堂が選ばれたのだ。
飲み物のおもてなしもしやすいしね。
▽ ▽
居住区の食堂に案内され、向かいあうように座ったシュレナさんたちと、パトリシアさんたち。
そこに、俺とカレンも座って話し合いが行われる。
だけど、その前にヘレンにより人数分の飲み物が配られる。
『……どうぞ』
「あら?これはどこの飲み物なの?」
「それは、俺の故郷の『地球』という星の飲み物です。
『紅茶』と言いまして、落ち着いて話し合いをするにはいいかな、と思いまして用意しました」
俺の説明が終わると、シュレナさんがカップを持ち、まずは臭いを確かめる。
一緒に来た男性二人と秘書らしき女性は、シュレナさんの行動に止めようかどうしようかアタフタしていた。
やはり、他の星の飲み物を飲むという行為は、危険が伴うものなのだろう。
本当は、毒味が必要なんだろうな……。
「……美味しいわね。
聞いたことない星の名前だけど、覚えておくわ」
「ありがとうございます」
二口程口をつけて飲み、カップを置いて、シュレナさんが話し始める。
まずは、自己紹介から入った。
「私の左から、ノービスとブレトよ。彼らは、惑星『ハーベン』との取引を担当しているの。こっちは私の秘書で、ニビアというわ」
「……初めまして、惑星『キュテル』の第三王女パトリシア・キュティリアです。
こっちは、私の護衛を担当する三人のうちの一人、メイルです。
それで、シュテルさん?と言いましたか。お話とは何でしょう?」
すると、硬い表情のパトリシアさんとは違って、シュレナさんは笑顔で話し始める。
「お姫様?私の名前はシュレナよ。
……まあ、そんなことより緊張しなくても大丈夫よ。
私たち、惑星『カハル』は『キュテル』と『ハーベン』の戦争から手を引くわ。
何でも、二つの惑星で平和条約を結んで終戦にしようって話が進んでいるらしいわね?」
パトリシアさんは、シュレナさんの情報を聞いて最初は驚いていたけど、気を取り直しグッと手に力をこめた。
「あの、その情報はどちらから……」
「フフ、私たちは一つの惑星を裏から支配する商人よ?
教えられるわけないでしょ?
……でも、『キュテル』にも『ハーベン』にも、私たちの協力者はいる、とだけ教えてあげる。
で、どうなの?本当の話なの?」
パトリシアさんは、少し考えてから、頷く。
「はい、平和条約を結ぼうとしていることは本当です……」
「そうなのね~、これで確認はとれたわね」
「はい、お嬢様。すぐに次の荷から、軍需物資の割合を減らし戦後経済に必要なものに順次切り替えていきます」
「お願いね。
……それで?お姫様がここにいるってことは、もしかして、両惑星間での婚約が目的ってところかしら?」
パトリシアさんは、さらに驚き、膝の上に置いている手に力が入る。
何もかも、見透かされている感じだ……。
そんなパトリシアさんの行動に、気が付いたシュレナさんはニヤリと笑う。
「どうやら当たりってところね。
それで、『ハーベン』のお相手は……第一皇子かしら?
……フフフ、これも当たりね」
ああ、パトリシアさんが手玉にとられている感じだ。
どうやら、ちょっとしたパトリシアさんの表情から読み取っているみたいだと、隣に座るカレンが教えてくれた。
さすが、一つの惑星を裏から操る商人。
こういう話し合いに、場慣れしている感じだ。
「そ、それで、シュレナさんは、手を引くということを知らせにここまで参ったのでしょうか?」
「そんなわけないでしょ?
私が来たのは、もう一つ支援していたところがあるでしょ?
そこが動き出すようだから、警告も兼ねて和平条約のことを確かめに来たのよ」
もう一つ支援していたところ?
俺は、それを聞いてパトリシアさんを見た。
すると、パトリシアさんは顔を青くし、俺を見る。
「もう一つの支援していたところって……」
「わ、惑星『ニバシア』です。
『ニバシア』が動き出すということは、あの方が……」
「姫様!」
パトリシアさんの隣に座っていた、メイルさんがパトリシアさんの肩を支える。
パトリシアさんの顔色は、真っ青だ。
俺は、向かい側に座り紅茶を飲んでいるシュレナさんに聞いてみる。
「シュレナさん、パトリシアさんの反応って……」
「まっ、しょうがないわね。
加藤さんだったわね、教えてあげる。
ここにいるパトリシア第三王女と、惑星『ニバシア』の大統領の息子のレンブレスは、一時期婚約してたのよ」
「ち、違います。
姫様とレンブレスとの婚約は、そういう話があったというだけです。
それに、その婚約は陛下がお断りになられました」
「……て、ことよ。
やっぱり、レンブレスとの婚約話は単なる噂だったようね。
……いや、もしかして、あえてそんな噂を流して外堀を埋めようと画策していたのかもね。レンブレスは、狙った女は逃がさないってことで有名だからね~」
最悪の男だな。
地球なら、ストーカーで捕まってる……かな?
権力者の息子は、何かともみ消されて終わりってイメージがあるけど……。
「そんなに、しつこいんですか?」
「ええ、しつこいわよ~。
確かレンブレスって妻が何人いるんだっけ?」
「確か、現在六人です。
結婚して、すぐに別れた女性もいますから、正確には二十人ですか……」
シュレナさんは、隣の秘書のニビアさんに聞いて確認する。
しかし、二十人って……。
惑星『ニバシア』って、一夫多妻なのかな?
「『ニバシア』で流れている噂じゃあ、レンブレスの妻の中には夫と無理やり別れさせて、結婚した女性もいるらしいわ。
あの星は、女性の地位が低いからね。
今でも、男たちがかなり好き勝手しているわよ?
ただ、その価値観を他の星にまで求めてくるから、嫌われているんだけどね」
男尊女卑ってやつかな。
困った惑星だ。パトリシアさんが、青くなる理由も分かるってもんだ。
俺が呆れていると、ブリッジから通信が入る。
それと同時に、シュレナさんにも通信が入ったようだ。
「オリビア、どうしたの?」
『マスター、ワープアウトしてくる艦隊があります!
すぐにブリッジへ戻ってくださいですわ』
俺は、すぐに行動を起こす。
座ってた椅子から立ち上がると、シュレナさんも立ち上がる。
どうやら、シュレナさんに入った通信も同じようだ。
俺とカレン、それにシュレナさんたちも一緒に走り出した。




