第59話 戦争の真相と次へ
王の前に兵士によって両脇を拘束された宰相が、突き出される。
王のほか、各大臣や貴族、そして護衛兵に何人かの兵士がいる謁見の間に、宰相は俯き震えているようだった。
「この時の王と宰相の会話は残っておりません。
ただ、宰相は自身の息子が首謀者であると、涙ながらに明かしたそうです」
それを聞いた貴族の間から、宰相を攻める罵倒がとんだそうだが、宰相がさらに明かした内容に、辺りは静まりかえった。
確かに首謀者は、宰相の息子だったが、協力した者たちがいるとのこと。
それが、宰相の取り巻きだった貴族たちの息子や、その親自身も協力をしていたのだとか。
すべてのきっかけは、王の誕生パーティーに参加した、宰相の息子は惑星『ハーベン』から来ていたある貴族の娘であるネレイレという女の子の愛らしさを、独り占めしたかったという歪んだ独占欲から来ていた。
ネレイレを攫い、宰相の息子に届けたものがいた。
その者こそ、惑星『ハーベン』のネレイレの貴族家を滞在中お世話していた人物。
さらに、そのことに味を占めた宰相の息子は、パーティーで目をつけた貴族の令嬢たちを攫わせ、取り巻き達と弄んだそうだ。
そのことを、涙ながらに独白する宰相は、恐怖で震えていたのでは無く、憤りから震えていたのだ。
自身の息子が、とんでもないことをしでかしてしまったことに……。
「この宰相の証言により、すぐに関係者を捕まえ尋問、そして事実であったことが分かりました。
すぐに、関係者たちは処刑され、宰相もその職を辞し、自ら命を絶ったそうです。
……ですが、これですべて終わりではありません」
そう、被害者となった人たちが、さらなる問題だったのです。
攫われた令嬢たちは、すべて惑星『ハーベン』から来ていた貴族家の令嬢たちだったのです。
こうなると、首謀者たちの処刑だけで済む問題ではありません。
賠償を含め、話し合いをしなければならない。
そして、被害者たちの貴族を『ハーベン』へ送り届けた後、『ハーベン』の皇帝へ謝罪とともに、事件の首謀者たちの処刑や直接の話し合いの場を設けるよう提案したのです。
もちろん、『ハーベン』の皇帝はそれに応じました。
戻ってきた被害者の貴族家の話で、『キュテル』の王は誠心誠意対応してくれた、ともに涙を流してくれた、と王が親身になってくれたことを聞いていたからです。
「そして、皇帝も参加した運命の話し合いの席で、ネレイレの祖父が、自分の感情を抑えることができずに『キュテル』の王を殺害してしまったのです。
孫娘の復讐、だったのでしょう……。
ですが、その行動の代償は大きかった」
「それが、戦争の真相ですか……」
パトリシアさんは、話しながら足の上に置いていた手を握りしめ、感情を押さえている。
「……私も、このことを父から聞いた時は、嘆きました。
何と愚かなことを、と。
加害者も被害者も、自身の感情を押さえられなかったばかりに、最悪の結果になってしまった……」
「姫様……」
「……私は、今回の婚約の話が来た時、少し不安でした。
ですが、戦争のきっかけを聞いて私の心は決まりました。
私の身一つで戦争を終わらせることができるなら、と……」
……ん~、俺はパトリシアさんの覚悟を知って、どこか違和感を覚えた。
だけど、それを口にすることはできなかった。
何故なら、これは惑星『キュテル』と惑星『ハーベン』の間の問題だ。
どんな解決方法だろうと、俺が意見していいわけがない。
俺自身が、関わり合いになっていないからには、口を出すつもりはないから。
……それに、俺の意見で何かが変わるとは思わなかったから……。
▽ ▽
パトリシアさんと護衛の女性がいなくなったブリッジには、俺とカレンの二人だけがいた。
俺がコーヒーを飲む音だけが響く。
『……あれで、戦争が終わるのでしょうか?』
「さあね……。でも、終わらせるための行動はしているようだから、終わるんじゃないかな。
……ただ、しばらくは遺恨が残るだろうね」
『遺恨、ですか?マスター』
「戦争は、加害者も被害者も疲弊させる。
その疲弊を癒すには、時間が必要なんだと俺は思う。
その時間で、人の恨みも忘れることができればいいんだけど、人はそんなに便利にできていないからね……」
そして、ある日、再び戦争は始まる。
ネレイレという少女の仇をとったお爺さんのような人が現れて……。
俺とカレンは、しばらく何も言えないまま、時を過ごした。
▽ ▽
惑星『ハーベン』へ向けた亜空間航行、六日目。
目的地の惑星『ハーベン』の宙域に到着し、亜空間から通常宇宙空間に戻ると、そこには、一隻の宇宙戦艦がとどまっているのが分かった。
全体が白い宇宙戦艦で、船体の前方にすべてが集約しているかのようなつくりだ。
それが証拠に、船体の後方は細く、ブースターなどくらいしか確認できない。
「あれは、どこの宇宙船かな?」
俺が、どこの宇宙船か分からないでいると、その白い宇宙船から通信が入った。
『マスター、前方の宇宙船から、通信が入りましたわ』
「オリビア、メインモニターに繋いでくれ」
オリビアが通信を開くと、メインモニターに1人の女性が映し出された。
腰まである長い髪、その色は薄い青色。
服装は、貴族服、とでもいうのだろうか?小柄ながら、白い服は似合っていた。
『初めまして、宇宙運搬会社『ショルフダール』の貨物宇宙船の乗組員の皆様。
私は、惑星『カハル』にある最大王手の貿易会社『ナルブリチ』の会長の娘、シュレナ。
一応、親の力で役員をしているわ。
今日は、そこにいる惑星『キュテル』の第三王女様に、話があって待っていたの。
会わせてもらえるかしら?』
た、態度デカいな……。
俺は思わず、その態度に引いてしまって言葉が出なかった。
しばらく返事が来なかったことに、疑問を持ったシュレナがさらに話してくる。
『ちょっと、聞いてるの?
のんびりとしている時間が惜しいの!会わせるのか、会わせないのかはっきりしなさい!』
その剣幕に、俺は我を取り戻し、ブリッジにいるパトリシアさんの方を向いた。
すると、パトリシアさんは、俺に頷いて了承してくれる。
『何だ、そこにいるんじゃない。……で、どうなの?』
「第三王女は了承した、そっちに連れて行けばいいのか?」
『そんなわけないでしょ!
あなた、素人ね?いい?こういう時は、会わせてほしいといった方が相手の船に行くものよ。そうしないと、信用されないでしょ!』
ですよね~。
俺が謝ると、シュレナさんは許してくれた。
『今からそっちの宇宙船に近づくから、そっちから通路を出してくれる?
そこに合わせてこっちの宇宙船を微調整するわ。
それじゃ、後は直接会いましょう!』
そう言って通信を切ると、白い宇宙船が動き始める。
俺はすぐに、エヴァに指示して、宇宙戦艦の通路を伸ばさせた。
「……しかし、すごい女性だったな……」
『はい、でも惑星『カハル』とは……』
ブリッジにいる手の空いている者の視線が、パトリシアさんに向く。
パトリシアさんは、少しうつむいて考えているようだ。
でも、その顔に怯えなどは無かった。
……しかし、シュレナさんは、パトリシアさんと会って何を話すんだろうか?




