第57話 二つの惑星の思惑
「……この『カニクリームコロッケ』という料理、なかなかの美味ですね」
「確かに美味しいです。
別の星の料理と聞いて、少し覚悟をしてましたが……」
「……うん、美味い」
「カレン殿、加藤殿、美味しいです!」
夕食時、俺の出身の星の料理を出したが、気にいってもらえて何よりだ。
夕食は、自分たちで用意すると護衛の女性たちが言っていたが、お姫様の、別の星の料理も食べてみたい、というわがままに俺たちの出す料理を食べることに。
かなり不安そうにしていたが、護衛の女性の一人がまず食べて、美味しかったようで、お姫様や残りの護衛の女性達も食べ始め、さっきの感想だ。
でも、確かに、この『カニクリームコロッケ』は美味しいな。
カレンが一から作ったものだから、こんなに美味しいのかもしれない。
何せ、俺はこの冷凍食品は購入していないからな。
料理として出てくるなら、一から作ったことになる……。
「カレンの料理は、本当に美味しいよ。うまくなったな」
『ありがとうございます、マスター』
満面の笑みで、俺にお礼を言ってくる。
惑星『ハーベン』に向けて、亜空間航行をして一日目でお姫様たちは、カレンの料理に満足してくれているようだ。
そんな中、動き出した者たちもいる。
▽ ▽
長い廊下を歩き、突き当りにある大きな扉をノックする女性がいた。
『入れ』
「失礼します」
扉を開け、中に入ると、そこには三人の人がいた。
「お母様、私をお呼びとのことですが……」
「そこに座って、シュレナ。『ハーベン』のことで話があるの……」
入ってきたまだ若い女性のシュレナは、母親が座るように言ったソファに腰を下ろした。
その隣に、専用の椅子から立ち上がり、ソファへ移動した母親が座る。
母親が座るのを見てから、二人の男たちはソファに移動し、女性二人の向かい側へ座った。
「それで、ご用は何です?お母さま。
役員のレイブスや、ホーブが一緒に呼ばれているということは、出資がらみですね?」
「……私たちが、惑星『ハーベン』へ出資しているのは知っているわね?
軍事、食料、人員、他にも資金面でも、ね?」
「はい、それで『ハーベン』の政治にも影響力を保っているのですから」
「その『ハーベン』が、水面下で和平交渉をしているそうよ」
「和平交渉?どこと、と聞くまでもないですね。惑星『キュテル』ですか……」
ここは、惑星『カハル』にある最大大手の貿易会社『ナルブリチ』の会長室。
この星の政治は、この企業の顔色を伺わなければならないほど、影響力があった。
無論、政治家たちも資金面や人脈などで、お世話になっている人たちばかりだ。
そのため、腐敗政治か、と言われれば全く違い、まっとうな政治をおこなっている。何せ、お世話になっている政治家は、会長の顔色を伺ってよりよい政治をしているのだ。
『ナルブリチ』の現会長は、腐敗を招くような政治家を嫌うために。
ただ、この状態でいいのかと言われれば、何とも言えなくなるが……。
そして、この『ナルブリチ』が取引をしている惑星の一つに『ハーベン』があったのだ。
その『ハーベン』で戦争が終わる。
この情報をもたらしたのは、『ハーベン』の政治家の一人で、現会長にいろいろなことでお世話になっていた。
そう、今や会長の影響力は、取引先にまで及んでいたのだ。
「ええ、惑星『ハーベン』にお世話している政治家がいてね?
その方からの情報だから、まず間違いないでしょうね」
「それで、お母様、私にどうしろと?」
「二週間前にロールアウトした新型の宇宙戦艦があるわ。
それを用意してあげるから、惑星『ハーベン』に行ってほしいの」
「もしや会長、和平交渉をつぶせ、と?」
「レイブス……、あなた何言っているの?
和平交渉をつぶしてどうするの?」
会長の答えに、向かい側に座っていたレイブスとホーブは驚く。
しかし、隣に座る娘のシュレナは驚いていなかった。
「はぁ~、シュレナ、説明してあげて?」
「分かったわ。
いい?戦争って儲からないのよ。
戦っているうちは、だんだんと疲弊し生産力が落ちて、さらに人も減る。
だから、戦争終結に向けて動き出しているなら、それを支援して影響力を残すの。
そして、戦争が終わったら、さらに取引が増えるでしょ?
軍事面の取引は減るけど、それ以上の物資の取引が始まる。
何せ、復興に向けてみんな頑張るからね。
勢いが違うのよ。そんな時に、私たちが取引を一手に任されたら……」
「そのために、影響力を残しつつ和平交渉を……」
「そうよホーブ、私たちは政治家じゃないわ。
権力なんて二の次、私たちは、儲けてなんぼ、なのよ!」
会長の迫力に、タジタジになるレイブスとホーブ。
そして、娘のシュレナは、笑顔で頷く。
「分かったわお母様、私たちが和平交渉の支援をすればいいのね?」
「ええ、そうよ。
……おそらく、この和平交渉を一番ぶち壊したいのは、あいつらだと思うからね……」
あいつら。
この場にいた四人全員が、頭に思い浮かべた。
惑星『ニバシア』のことを……。
▽ ▽
「父上!どういうことですか?!」
勢い良く扉を開けて、部屋に入ってくる男。
惑星『ニバシア』の大統領の息子で、諜報機関のトップを務めているレンブレスだ。
「どうしたレンブレス、今は会議中だぞ?」
「会議よりも大事なことです!どうか俺の話を聞いてください!」
大統領は、困った顔をして、会議室に集まっていた面々を見ていったん休憩とするとにした。
そして、会議室にいた政治家たちが退席した後、レンブレスは話し始めた。
「さっきの会議には、本当ならお前が参加しなければならないのに、副長官のシーズに任せるとは……」
「父上、そんなことは後にしてください!
それよりも、惑星『キュテル』と惑星『ハーベス』が和平交渉をしているとの情報をつかみました!」
レンブレスからの情報に、大統領は顔色一つ動かさずに聞いていた。
それを見て、レンブレスは疑問に思う。
「……もしかして、ご存じだったんですか?」
「ご存じも何も、さっきの会議でそれを話していたのだ。
お前も参加すれば……」
「ならば、私がここへ飛び込んできた理由もお判りでしょう?」
「……なるほど、パトリシア・キュティリアか」
「そうです、俺の婚約者になるはずの彼女が、『ハーベン』の第一皇子のもとに行くなど、許せるはずがありません!」
大統領は思う。
自分の息子は、この星の政治よりも女のことで怒鳴り込んできたのか、と。
「父上、どうするおつもりなのですか?!」
「……はぁ、分かった分かった。
お前の専用艦に、護衛艦を七隻つけてやる。和平交渉が気に入らないなら、自分で話をつけてこい。
それと、女が気になるなら攫ってこい。後のことは、私が何とかしてやるから……」
「さすが、父上!ありがとうございます!」
そうお礼を言うと、すぐに会議室を出ていった。
レンブレスが出て行った後、会議室の扉から入ってきたのは、副長官のシーズだ。
「大統領、甘いですな……」
「そう言うなシーズ。子供に甘いのは、お前とて同じだろうが……」
「私は大統領ほど、甘くはありませんよ」
この二人、学生の頃からの友人で、政治家になるのも一緒だった。
そして、大統領になった後も、家族ぐるみの付き合いがあり、大統領の息子であるレンブレスを任せられるのはシーズしかいないからと、諜報機関の副長官を任せていたのだ。
「……連邦政府が、動いているのか?」
「ええ、連邦は戦争が嫌いですからね。特に星間戦争は……」
「チッ、いい稼ぎ場所だったんだが……。
シーズ、連絡を入れてくれ、戦争終結とともにってな……」
「分かりました……」
「政治って難しいな、裏のことまで考えないといけないんだから……」
「フッ」
大統領とシーズ副長官は、お互いの考えの一致を感じて、笑うのだった。




