第33話 襲うはずの宇宙海賊
『………ふぅ、大体今回の件は理解したわ。
積み荷の加重違反については、こちらで対処しておきます』
亜空間航行二日目に、ナンシー班長と連絡をとり、報告書を送信。
今、モニター越しにその報告書を読んでもらっていたのだ。
その日のうちに、報告書を書いて送信しろという声もあるだろうが、うちの会社の報告書は少し時間がかかるんだよな。
書き方もマニュアル化されていて、カレンと一緒に話し合いながらまとめたことを、そのマニュアルに沿って書いていかなくてはならない。
今回の問題点も、うちの会社が禁止していることにあたるのかどうかを、調べて指摘しなくてはならないんだ。
……ほんと、面倒くさいんだよね。
「よろしくお願いします、ナンシー班長」
『ところで、宇宙海賊襲撃の件ですが、ワープアウトしたところを襲うみたいです。ですから、ワープアウト前に、シールドの準備をしてからワープアウトを行うようにしてください』
「分かりました」
『では、この依頼が終わった後、連絡してください』
ナンシー班長がそう言うと、通信が切れた。
どうでもいいが、ナンシー班長って、この通信をするときどこにいるんだろうな。
毎回、後ろに見える背景が気になっているんだが……。
「ねぇねぇ、宇宙海賊襲撃の件って何?」
ナンシー班長との通信が終わると、同じブリッジにいたニニシアさんが、マナルルさんと一緒に艦長席に座る俺に質問してきた。
『それは、今回の運搬の荷が、宇宙海賊に狙われているということです。
襲撃された時、どうするのかを上司と相談していたのです』
俺の代わりに、側にいたカレンが答えてくれた。
それを聞いて、ニニシアさんもマナルルさんも驚いている。
「だ、大丈夫なの?この宇宙船、武器がないんでしょ?」
「か、加藤さん、どうするんですか?」
ニニシアさんもマナルルさんも、顔を青ざめて心配している。
でも、大丈夫、心配いりません。
そのために、対処法を話し合ったんですから。
「大丈夫ですよ。宇宙海賊と遭遇した時の対処法は学んであります。
それに、救援要請をすれば、近くで待機している戦力が助けてくれますから」
「……戦力?」
「はい、うちの上司が用意してくれたそうです。
頼りになる人たち、らしいですよ」
らしい。そう、らしいが付くのだ。
そこが心配どころなのだが、ナンシー班長が用意してくれた戦力なら、多分大丈夫だろう。
「でも、亜空間航行中のこの時に襲われるってこともあるんじゃ……」
マナルルさんが、ブリッジから見える光のトンネルを見ながら不安になる。
確かに、亜空間航行中に襲われないということはないが、今は心配はない。
「そこは問題ありませんよ、マナルルさん」
「でも……」
『マナルル様、亜空間航行が二種類ある事はご存知ですか?』
「いいえ。……え?種類があるの?」
『はい、亜空間航行には二種類ございます』
そう、亜空間航行には、二種類存在している。
それは、『固定型』と『流動型』だ。
俺たちが通常使っている亜空間航行は、『流動型』になる。
これは、一方通行の亜空間航行で、入り口と出口が自由に作れる代わりに、入り口は入り口でしかなく、出口は出口でしかない。
出口の座標を打ち込み、その出口へ向けて亜空間に入り進むのだ。
だから、途中で座標を変えることもできないし、引き返すこともできない。
勿論、安全対策の亜空間航行緊急停止はできるが、あくまでも緊急停止であり、停止した時の安全は保証できない。
つまり、緊急停止時、どこに出るかは分からないのだ。
だから、通常『流動型』亜空間航行の場合は、途中で停止することはしないで出口まで進むことになっている。
次に『固定型』亜空間航行だが、これは『亜空間ゲート』と呼ばれるリング状の設備を使ったものだ。
これは、亜空間ゲートを設置した場所と、もう一つの亜空間ゲートを設置した場所とを結んで亜空間航行するというもの。
これの利点は、出入り口と亜空間トンネルの通路の大きさを固定してあるので、誰でも通れるということだ。
勿論、一方通行ではないのでゲートの中でUターンすることもできるし、他の宇宙船とすれ違うこともできる。
『流動型』は、自分だけの道で、『固定型』は、みんなの道というわけだ。
まあ、そのためゲートの中で宇宙海賊に襲われる、なんてこともある。
そのため、宇宙で運搬業をしている会社などは、安全面を考慮して『流動型』を利用しているのだ。
「流動型と固定型か……。
じゃあ、今使っている亜空間ワープは『流動型』のものってことね?」
『そういうことです』
「……それにしても、宇宙海賊ってどんな奴らがいるの?」
ニニシアさんが、面白いことを気にしだした。
そういえば、俺も宇宙海賊が襲撃してくるとだけ聞いて、どんな宇宙海賊か確認してなかったな。
そう思い、俺はすぐにナンシー班長の資料が収めてあるタブレットを取り出し、襲撃してくるであろう宇宙海賊のことを調べる。
『ニニシア様、宇宙海賊にはいろいろな勢力がいます。
一つの銀河のみで暴れまわる宇宙海賊、複数の銀河を行き来して暴れまわる宇宙海賊、手下や仲間を持たない単独の宇宙海賊、その反対で、たくさんの手下や仲間を抱えた大所帯の宇宙海賊、そして、今回襲撃をするはずの宇宙海賊船一隻のみで暴れまわる宇宙海賊です』
「……なんでそんなに宇宙海賊がいるのか分からないけど、宇宙空間が危ないってことは分かったわ」
「でも、お嬢様、私たちは今まで、宇宙海賊に会ったことはありませんよね?」
『マナルル様、それは私たちも同じです』
「……それってどういうこと?
さっきの話だと、宇宙海賊はたくさんいるみたいだったけど……」
『それは、宇宙という空間が広大だということです。
それは、砂漠の中から一粒の宝石を見つけるようなもの。
それは、銀河の星の中から自分の生まれた星を見つけるようなもの。
……そんな広大な宇宙空間の中から、一握りの宇宙海賊に遭遇することは、困難だということです』
「……でもそれなら、何故今回は襲撃されるって分かってるの?」
『それは…』
「それは、銀河警察からもたらされた、情報のおかげですよ、ね?」
『はい』
そう、銀河警察からの情報のおかげ。
そして、俺たちを襲うはずの宇宙海賊が『ハンガーオーグ』という名前だというのも、銀河警察からの情報だ。
「『ハンガーオーグ』……聞いたことないわね、そんな宇宙海賊」
「お嬢様、そもそも私たちは宇宙海賊について知らないんですから、名前を聞いても分からないでしょ?」
そして、二人そろって俺を見てくるが、俺も初めて聞いた名前であるため、首を横に振ると、カレンへと視線が移った。
『すみません、私も『ハンガーオーク』という宇宙海賊については、分かりません』
「ナンシー班長の資料にも、名前しか載ってないからな……」
『ハンガーオーク』じゃなくて、『ハンガーオーグ』ね。
カレンも間違えるということは、本当に分からないほど小さな宇宙海賊なのかな?
これは、遭遇するまでわからないということか……。




