第16話 惑星『ニプルネル』
『ワープアウトまで、5……4……3……2……1……0!』
エヴァが、亜空間長距離ワープのレバーを手前に引くと、外の景色が、光のトンネルから光の線に変わり、元の宇宙空間へと戻った。
しかし、今回はいつものと違っていた。
何故なら、ワープアウトした場所には、別の宇宙船が目の前に迫ってきていた!
「エヴァ!面舵!!」
『お、面舵!!』
俺はすぐにエヴァに命令し、宇宙船を避けるように指示を出す。
宇宙船『ランスロット』を面舵、右へ切れ!と……。
目の前にまで迫っていた、相手側の宇宙船もこちらをかわすように左へ進路を変えるが、お互いギリギリで進路変更をしたため擦ることになってしまったようだ。
ブリッジに、音が響いている。
―――ガガガガガガガガガガガガガガガガ……。
……30秒ほどでようやく音も止み、船体のチェックに入るエヴァ。
シールドが働いているおかげか、宇宙船『ランスロット』には傷らしい傷はなかった。
だが、相手側の船体には、くっきりと一筋の後が船体の左側に入っていた。
「衝突は回避できたけど、危なかったな……」
『マスター、相手の宇宙船に止まる気配がみられません』
「え?どういうことだ?」
俺たちがブリッジで困惑していると、さらに前方から宇宙戦艦と思われる二隻が、俺たちの宇宙船を無視してニアミスした宇宙船へ向かっている。
さらに、ニアミスした宇宙船に近づくと、二隻の宇宙戦艦は攻撃を開始した。
反撃することなく進む宇宙船に、ミサイルやビーム兵器で攻撃しまくる宇宙戦艦の二隻。そして、攻撃を開始して一分ほどで、ニアミスした宇宙船は爆発した。
敵を倒したとばかりに、二隻の宇宙戦艦は今度はこちらに近づいてきた。
次は俺たちか、と緊張すると通信が入ってきた。
『マスター、近づく右の宇宙戦艦より、通信が入っていますわよ』
「メインモニターに回して、会話ができるなら穏便に済ませたい」
『今、回しますわね』
通信パネルをオリビアが操作すると、メインモニターに相手側の艦長と思われる男性が映った。
まだ若い、30歳ぐらいの見た目だ。
なのに、その身体から溢れる威厳は、軍人と分かる服だからだろうか?
『こちらは、ニプルネル護衛艦隊所属の護衛艦『ジニレーヌ』の艦長、アサットだ。
そちらの所属と目的を知らせたし』
「あ、こちらは、宇宙運搬会社『ショルフダール』の社員です。
避難民の運搬のため、惑星『ニプルネル』へ向かうところです」
俺が所属と目的を知らせると、ほんの10秒ほどでアサット艦長の横から一人の男性が紙を渡した。
それを読むアサット艦長。
そして、何度か頷き俺に向き直った。
『こちらで確認が取れた。このまま惑星『ニプルネル』へ進みなさい。
すぐに宇宙ステーションが目視できるから、そこへ連絡を入れて接岸するように』
そう言うと、敬礼してきた。
『では!』
そう言うと、通信が一方的に切れた。
メインモニターの前で、呆然とする俺。
しかし、すぐに正気に戻り、エヴァに宇宙船を発進させるように指示を出した。
「エヴァ、宇宙船を発進させてくれ」
『了解!』
「あと、アサット艦長さんが言っていたように、宇宙ステーションが見えたらオリビア、連絡を入れてくれ」
『分かりましたわ』
宇宙船『ランスロット』が惑星『ニプルネル』へ進むと、離れていく護衛艦の二隻。
おそらくだが、こんな後方にまで敵の宇宙船が入り込んできたというわけだろう。
俺たちは、周りを警戒しながら、宇宙船を進めた。
▽ ▽
惑星『ニプルネル』の衛星軌道上にある宇宙ステーションの中にある会議室。
ここは普段、ニプルネルの政府が外交の話し合いの場として使っている。
今俺たちは、この会議室に案内されていた。
「……こんな場所に案内するなんて……。
カレン、積み荷は運び入れているの?」
『はい、私たちがここへ着く前から、貨物室への積み込みは始まっています。
エヴァとオリビアが対応していますから、任せて大丈夫ですよ』
それなら、安心だ。
冬眠カプセルに入っているのが、『ニプルネル』の避難民とはいえ運搬するときは荷物と同じ扱いになるそうだ。
まあ、どんな荷物であろうと、丁寧に扱うように指導されている。
冬眠カプセルはおろか、中に眠っている人に危害を加えるような扱いはしないさ。
その時、会議室のドアが開き、一人の女性が中に入ってきた。
長いであろう髪を後ろでアップにして留め、服装は女教師を思わせる。
「お待たせしました、今回の避難移送の責任者の一人であるニルーナと言います。まずは、おかけください」
そう言って、椅子から立って出迎えた俺とカレンを座らせる。
「こんなふうにお会いする時間を作っていただき、まずはお礼を」
そう言って、座ったまま頭を下げてくる。
「今、あなたたちの宇宙船に積み込んでいる冬眠カプセルで、この惑星『ニプルネル』から避難するすべての人になります。
どうか、無事に避難先である惑星『ニーネル』へ届けてください。
それと、これは私個人のお願いになるのですが、アンドロイドを一体、連れて行ってほしいのです」
俺は一瞬カレンを見ると、すぐにニルーナさんに向き直り質問する。
「アンドロイド?
それも、惑星『ニーネル』へ届ければいいのですか?」
「いえ、そのアンドロイドは、あなたの宇宙船に乗せてもらいたいのです。
つまり、あなたの宇宙船で雇ってもらえないかと……」
ニルーナさんの申し出に、俺とカレンは困惑した。
そういえば確か、ナンシー班長の資料によると、惑星『ニプルネル』にもアンドロイドはいるらしい。だが、正確な数は把握されていないとか。
外宇宙との取引もあるようで、その過程でアンドロイドを何十体か仕入れているそうだ。
ただ、その使われ方は主に政府機関の雑用に使われているとか。
そのため、使えなくなったアンドロイドは処分されるらしい。
「あの、確か『ニプルネル』でのアンドロイドは、政府機関で使われることが多く、情報漏洩の懸念から使えなくなったものから処分されるとか……」
「確かに、政府機関で使われていたアンドロイドは、そういう扱いを受けるそうです。しかし、今回あなたたちに雇ってもらいたいアンドロイドは違います。
彼女は、私の側にいていつも世話をしてくれたアンドロイドです。
幼いころから、私と一緒に遊んだ思い出もあります。
私の勉強を見てもらったりも、してもらいました……」
そのアンドロイドとの思い出を思い出しながら、話してくれるニルーナさん。
ニルーナさんとそのアンドロイドとの間には、絆があったのだろう。
そして、少し黙った後、今回の俺たちへの直接の依頼の訳を話してくれた。
「実は、惑星『ニプルネル』から避難するのは人のみで、アンドロイドは改造して戦力として使うことが政府で決定しました。
そこに例外はありません。すべてのアンドロイドが対象になります。
……彼女も……。
これは、私のわがままですし、断ってくれても構いません。
でも、私はどうしても彼女を戦争の道具にしたくないんです。
お願いします、どうか……どうか………」
ニルーナさんは、頭を机にこすりつけるようにお願いしてくる。
よほど、そのアンドロイドを助けたいのだろう。
俺が、そんなニルーナさんを見ていると、そっと俺の袖をつかむ隣に座るカレン。ニルーナさんを見つめながら、掴んできたようだ。
「分かりましたニルーナさん、その御依頼承ります。
ニルーナさんの大切なアンドロイドを、俺の宇宙船で雇いますよ」
俺の言葉を聞いて、顔をあげたニルーナさんは泣きながらお礼を言っていた。
……こんなに大切に思われているなんて、幸せなアンドロイドだな……。




