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月のアイドル!月子さん!2

 タニはリュウに半ば強引に連れ去られ、気が付くと竜宮内の宴会席にいた。

 「あ、あの……まだお客様がいらっしゃるのに私達、宴会するんですか?」

 タニは仕事仲間の飲み会だと思った。


 「はあ?こんな昼間から客もいんのに飲むわけねぇだろ。」

 リュウは呆れた顔でタニに言い放った。


 「あ、あの……では何の用件で?あ、接客ですか!良かった!まともなお仕事だ!」

 タニは色々と考え、一つの嬉しい結論にたどり着いた。

 しかし、その喜びはリュウの言葉であっけなく崩れ去った。


 「接客っていうか……今、月神のトップ、月姫姉妹のうちの妹の方が来ているんだ。姉の方がくりゃあまあまあ良かったんだが妹の方が来ちまって……それでなあ……それがちょっと厄介で……。」


 厄介の言葉にタニはさっと顔を青ざめさせた。こういう時の反応はここに入ってからやたらと早くなったような気がする。


 リュウが先を続けようとした刹那、ピンク色の髪をツインテールにしているゴスロリな少女が手を腰に当てて勝気に話しかけてきた。


 「ちょっと、ちゃんと女の子連れてきたんでしょうね!かわいい女の子限定よ!」

 「え……ええ。は、はい。月姫様。」


 「月子と呼びなさい!スーパーアイドル月子さんと!」

 「え、ええ。スーパーアイドル月子さん……。」

 手を腰に当てたままふんぞり返った少女にリュウが顔を引きつらせながら答え、愛想笑いをした。その後、タニの肩を抱き、小声でタニにささやいた。


 「おい、月の姫さんは女のアイドルが好きなようなんだが俺様じゃわからん。だからお前がなんとかしてくれ。かわいい女の子を連れてこいって言われて、お前しか思い浮かばなかった。地味子は地味すぎるし、飛龍は女の子じゃねぇだろ?あ、本神には絶対に言うなよ!俺様、殺されちまうから。」


 「え……ええ……。かわいいって思って下さるのは嬉しいんですけど……この方、ちょっと私とはタイプが……。」

 タニが引け腰になったがリュウは頭を強引に撫でて顔を近づけてきた。


 「接客業だ!仕事は選べねぇ!何が目的かわからねぇが月姫さんは女子をご所望だ。俺様じゃねぇんだよ。だ・か・ら、お前が頼りなんだ!」


 「うう……わ、わかりました……。」

 リュウの睨みでタニは頭を抱えながら月の姫様を見た。


 月姫、月子さんはやたらと盛っているまつ毛を軽く指で撫でるとポーズを取りながら笑顔を向けた。


 ……うわあ……これはどうしたらいいかわからない系の女子だ……。


 「ふーん、あんたがリュウが一押しするっていう子?はっきり言って地味でどんくさそうだけどまあまあかわいいから許すわ。リュウは野蛮で男臭くてかわいくないの!どんだけかわいいイメージを出してもかわいくないのよ!目つきも鋭いしこわ~い。月子さん、こわ~い。」


 「は、はあ……。」

 タニが気の抜けた返事をすると、月子さんは扇子を懐から取り出し、タニの方へ向けた。


 「あ、あの……。」

 「何やってんのよ!さっさと扇ぎなさいよ!」

 「あ!は、はい!」

 タニは素早く月子さんの扇子を受け取るとゆっくりと月子さんを扇ぎ始めた。


 「ふーん、そうね。あんた、私がカスタマイズしてあげるわ!かわいくなってそこで踊りなさい!」

 「ええええ!?そんな無茶苦茶な!」

 タニが目を見開いている間、月子さんは腕輪を取り出すと何やら操作を始めた。


 この腕輪、高天原最新収納ケースで物体をデータ化させて中に取り込むことができるのだ。つまり、この腕輪の内部に物を入れておける。


 「そうねぇ。これとこれと……。」

 月子さんは腕輪から水着やフリル付きの衣装などを並べ、何やら考えていた。


 「うう……なんか嫌な予感がする……。」

 タニは扇子で月子さんを扇ぎながらじりじりと後ろへ下がっていた。しかし、すぐにリュウに捕まった。


 「俺様を置いていくな!頼む!お前は十分かわいい!自信を持て!頼むから持て!」

 「うう……。」

 タニはため息をつくとうなだれた。


 「まずはこれからがいいかな。かっわいいー!えーと、あんた名前は?」

 「あ、えっと、谷龍地神たにりゅうちのかみです!」

 タニはビシッと背筋を伸ばすと大きな声で自己紹介した。


 「たにぐち?変な名前ねー。ま、いいわ。あんた、今日から『タニりん』ね!」

 「あ、あの……谷龍地……なんですけど……。」

 「だーかーらー、あんたは今日からタニりんなの!いいわね!」

 月子さんのごり押しにタニは泣く泣く頷いた。


 「はい、じゃあお着替えね!ふふ……そーねぇ……男臭いリュウを興奮させちゃうのもアイドルの役目よね。タニりん、ここでお着替えしちゃおっかあ?」

 月子さんはタニを後ろから抱き、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


 「え!あ……あの、ちょっとそれは……。」

 タニが慌ててリュウを見た。リュウはわかりやすくオロオロと戸惑っていた。


 「月子さん……それはちょっと……その……」

 タニが月子さんの暴走を止めようと声を上げたが月子さんはノリノリだった。


 「はーい!脱ぎ脱ぎ!」

 「やっ!やめてくださーい!いやぁ!」


 「恥じらっている姿、超かわいい!ちょーかわいい!これはいけるわ!はーい。これ着てね。」

 月子さんはタニの袴を脱がせ、フリフリの服を着せる。


 「って、あんたはなんでそんな乙女みたいに恥ずかしがってんのよ!」

 月子さんはすぐ後ろで顔を手で覆って恥ずかしがっているリュウを呆れた目で見つめた。


 「い、いや……その……生お着替えはその……ちょっと僕には刺激的かなと……む、胸よりも僕はお尻の方が好きで……ちょっと小ぶりで安産型の……。」

 リュウは顔を真っ赤に染めながら縮こまっていた。


 ……あああ、リュウ先輩がわけのわからない事を口走っている……。


 気が付くとタニはフリフリの露出度多めな衣装に着替えさせられていた。


 「うーん!似合う!かわいいわ!そのテレ方、本番でやってね!」

 「……ほ、本番?」

 月子さんは何やら不吉な事を口走った。


 「あら?聞いてなかったの?今日は月神達のお祭りなの。それで宴会でここを予約していたんだけど竜宮のパフォーマンスってなんか物足りないのよねぇ。そんで、私が企画して催しをしようと思ったの!月神達が来るまで後、五時間近くあるわ。それまでにあなたには立派なアイドルになってもらうの!もちろん、私も踊るわよ!あんたは私を邪魔しないように踊らせるわ!」


 月子さんは心底楽しそうに笑うとタニが着ているフリルをパラパラとめくった。


 ……なんて迷惑な神様だ!


 タニは顔色を悪くしながら心の中で叫んだ。

 



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