第13話 すみれとの関係改善
「ねえ、篠原君とすごく楽しそうね」
梅雨前、近くの駅で待ち伏せていた柊すみれが話しかけてきた。
入学のきっかけは彼女だったが、春休みに半ば喧嘩別れみたいな形になってしまったので、入学してから初めて話す。
「久しいな、元気にしてたか?」
「してた。てか、一緒のクラスでしょ」
「まー、そうだけど接点ないし」
「……いいわもう。10万用意できるの?」
「できる出来ないじゃない。やるしかないんだからやる。ただそれだけだ」
「かっこいいこと言ってるけど、やれることあるの?」
「今はない。あと半年は動けない。その間にできることをする」
「できることって信頼?」
「ああ、特に父さんだな。今は毎週競馬に付き合っている。母にも成績を提示してちゃんと成果も出している」
「……それがどうお金につながるの?」
「金にはつながらないさ。稼ぐのは俺だからな。それより母親の件は片付いたのか?」
「ええ、しばらくはパパも仕事を止めてる。だから今10万を稼いでもダメって言いに来たの」
「意外と律儀だな。もうちょっと雑なイメージだったが」
「悪かったわね。それより、本当に半年も動かないの?」
「いや、動いているには動いてる。けれど、まだその時じゃないって感じだな」
「……その辺はわからないからあなたに任せるけど、篠原君と楽しそうね」
「ああ、あいつは間違いなく天才だ。ただ、行く先がない状態だが」
「もし、私が前のままなら、太陽君の言う通り彼に依存してた可能性はある?」
「さぁ。テスト総合で2番だったよな。篠原は意識してないけど、意識し始めたか?」
「それはないかな。あれだけクラスで変人呼ばわりされてる人を好きになるのは以外と複雑よ」
「そりゃどうも。俺への未練も消えたか?」
「半分消えた。けど、両親の件では感謝してる。だから、こうやってお礼を言いに来たの」
「……」
「それと、太陽君を好きなのは変わらない。多分この先もずっと好きだと思う。君に彼女が出来たとしても、私に彼氏が出来たとしてもずっとあなたのことは忘れないと思う」
「朝から愛の告白が重たいな。俺的にはもう少し軽い告白のほうが嬉しいけど」
「わかってる。けど、どうせ無理なんでしょ。何を言おうが、君は今は10万を稼ぐことに手がいっぱい。遊んでる余裕なんて」
「いや、あるよ。ぶっちゃけ夏休みとか暇だし、土曜もG1ないから暇だな。俺、デートしたことないし、名駅とか、東山動物園とか、水族館とか、あーあと桑名の遊園地……えっと」
思った回答と違い、すみれは少し動揺をする。いつの間にか、すみれから太陽へ向ける感情は恋心よりも尊敬や目上への気遣いに変わっていた。
だからこそ、この発言には度肝を抜かれた。
「長島スパーランドね。私は遠足で何度か行ったりしたけど……」
「楽しかった? ジェットコースターとか俺結構興味あるんだよな。めっちゃ乗ってみたい。あーでも、すみれってテニス部だから……」
「別にガチでプロを目指してるわけじゃないから全然いいよ。毎日来てる人は半分もいないし」
「オッケーじゃあ、いつ行く?」
「来月のテストが終わった次の土曜とか」
「オッケー」
「中学前はコミュニケーションを取るのが苦手そうな感じだったのに、めちゃくちゃ変わったよね」
「まあ、篠原のおかげだな。あいつは後先考えずに発言する癖に核心をついてくる、思ったことをそのまま言うのはだめかもしれないが、自分が何をしたいか。これだけは信頼できる人にはちゃんと言おうと思う」
「ねえ、それってつまり……」
赤らめながら話す乙女なすみれを見ているとこちらまで体温が上がりそうだったが、一人の天才が空気を壊す。
「太陽おはよー! ん? これは……先に学校行ってるわ」
空気を読まない。それも一種の才能かもしれない。
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