89話 あやめの部屋
九郎が目覚めると玉枝は彼を抱き枕にしている。彼の目の前に彼女の形の良い唇がある。少し近づけばキスできそうだ。
彼は気を取り直して、頭の中で、これは怨霊、これは怨霊、これは怨霊・・・と唱える。彼女の色香は強烈である。一緒に暮らしていても慣れるものではない。
「キスしてくれないの。」「玉枝さん、起きているなら離してください。」
「九郎ちゃん、冷たい。」「そんなこと言っても駄目です。」
玉枝は諦めて起き上がり朝食を作り始める。料理ができるとテーブルに並べる。九郎は「いただきます」をして食べ始める。
今朝はクロックムッシュである。はさんだパンの間に溶けたチーズとベーコンがあり、卵に浸したパンの甘さとマッチしている。
「玉枝さん、これ、おいしいよ。」「よかった。」
「おかわりあるから食べてね。」「玉枝さんを食べたりしないよ。」
「私の方が良かった?」「いいえ、料理のおかわりをお願いします。」
九郎は玉枝にフェイントをかけられる。
彼は食べ終わると着替え始める。玉枝もネグリジェ姿から服を変える。
薄いピンクのシアーブラウスに黒のタイトスカート姿である。
「九郎ちゃん、似合うかしら。」「玉枝さん、きれいですよ。」
九郎は、玉枝は何を着ても似合ってしまうと思う。
今日は、あやめに会いに久沓神明社に行くことになっている。2人はアパートを出るとあやめの家に歩いていく。
九郎が家に着き、インターフォンを鳴らす。すると玄関の引き戸が開いて一久が顔を出す。
次の瞬間、一久は玄関の中に引き込まれる。そして、あやめが出てくる。彼女は肩で息をしている。
「九郎、玉枝さん、いらっしゃい。」「一久さん、大丈夫。」「何のこと、入って。」
あやめは一久のことを無視する。九郎たちが玄関に入ると一久が倒れている。
あやめは九郎と玉枝を自分の部屋に案内する。部屋は整理され、クマのぬいぐるみが目立っている。
九郎は、初めて女の子の部屋に入ったと考える。彼はこれまで女の友達を作ったことがない。当然、女の子の部屋に入ったことはない。
彼は、ココッタ先生のラノベをあやめに貸す。
「ありがとう。時間があるから、ゆっくり読めるわ。」「よかった。本を貸すの遅れてごめんね。」
「気にしてないよ。」「うん。」
九郎はあやめに顔を近づける。あやめは目をつむる。その時。かえでがお茶をもって部屋に入って来る。2人は素早く離れる。
かえでが九郎と玉枝に言う。
「今日は、ゆっくりしていってくださいね。」「はい、ありがとうございます。」
かえでは部屋を出ていく。玉枝が2人に言う。
「雰囲気壊されたわね。私のことはいないものとして続けてください。」
2人は赤くなる。




