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やけになっていた。血迷っていた。
理由はと聞かれた時に出てくる言葉はその程度だった。
就職活動がうまくいかずそのまま大学を卒業してしまい、気付けばダラダラと時間が過ぎて一年が過ぎてしまった。
このまま自分はどうなってしまうのか。周囲に後れを取り、世の中からはみ出し者になってしまったという絶望感に日々心身が削られていく中で、自分は何故こうなってしまったのか、転じて何故生きているのだろうかと考えるようになっていった。
「福はー内」
一人暮らしの簡素な部屋に豆を撒く。
「鬼もー内」
平穏、幸福が欲しい。でもそれが叶わないなら、いっそ鬼にでも喰らってもらって終わってしまえばいい。
なかば投げやりな気持ちで俺は自分の部屋に豆をばら撒いた。
「あ、出れぬ」
何度目かの豆を床にばらまいた時、ふいに部屋から声がした。
もう一度言うが俺は一人暮らしだ。部屋には俺しかいない。残念ながらというかもちろんのごとく彼女もいない。
俺は声がした方を振り向いた。
「お主、自棄になったか?」
人間のように話しかけてくるそれは、ひどくふざけた恰好をしていた。
上半身は裸。下半身は素足に腰回りに麻袋のような布切れ一枚。これだけでもヤバいが何より異様だったのは、190cmはあるだろうでかさと筋骨隆々とした体躯が真っ赤に染まっていた事だ。
「あーあ、閉じ込められてしもうた」
言いながらがっしりとした筋肉を大げさにしょげてみせる。
ーーえ、こいつまさか……?
俺はまさかを声に出すことにした。
「……もしかして、鬼、ですか?」
そう言うと悲しげに真っ赤な顔をこちらに向けた。
「いかにも鬼である」
だよな。角も生えてるし。